超、クドイ小説を、書いてみました

進藤 進

第1話 春男と夏子の恋(あっさりバージョン)

大学で彼氏ができた。

でも・・・。


「やめときなよ、夏子」

「えっ・・・どうして?」


大学一年生の秋。

親友の冬子だけに、こっそり打ち明けた恋バナ。


だけど。

速攻、否定された。


「有名なタラシらしいよ」

「そんな・・・」


確かに。

春男さんはモテそう。


薄っすら茶髪でロン毛。

それでいて、切れ長の瞳が私の胸をキュンとさせる。


背も高いし。

無口でクールで、そして。


だから。

学園祭の片付けの時に。


テーブルを運ぶのに苦労していたら。

片方を持ってくれた仕草が、凄く自然に思えた。


それから。

春男さんと付き合う様になった。


デートも、まだ二回くらい。

映画とか、たわいもないもの。


でも。

私も噂は聞いていた。


「彼女をとっかえひっかえ、してるそうよ・・・」

冬子の言葉を否定もできずにいた。


それでも。

私は春男さんが好き。


もう、この気持ちはとめられない。


だから。

今日、思い切って彼の住むマンションに行ったのです。


マンションといっても。

五階建てで、古い。


エレベーターはあるけど。

凄く、遅い。


「階段の方が早いくらいなんだけど、部屋が5階だから」

言い訳するように微笑む彼。


白い歯が私は好き。


私が寄り添うように歩く肩を。

そっと抱いてくれる。


フッと感じる。

タバコの匂い。


電車の中とかは、嫌だけど。

春男さんなら、大人の匂いのような気がして。


好き・・・。(汗)


遅いエレベーター。

中々、来ない。


インジケーターが。

各階で止まるし。


でも、今は。

彼の腕の温もりが嬉しくて。


全然、平気。(笑)


むしろ。

もっと、遅くれれば良いと願っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※


彼の部屋。

初めての男の子の部屋。


春男さんは慣れた手つきでマールボロに。

ジッポーで火をつけ、煙を吐いた。


「フッー・・・」

大人感があって、嫌じゃ、無かった。


「今、コーヒー、入れるから」

キッチンで彼が支度している間、私は正座で待っている。


(うわぁ・・・)

私、今、恋人、してる・・・。


はにかむ唇を必死でおさえて待っている。


その時。

電話のベルが。


今時、自宅に電話って、珍しい。

両親が転勤で留守になっての一人暮らし。


(だから、かぁ・・・)


春男さんは気づかない。

代わりに取るわけにもいかず。


留守電のコメント。

ピーッの電子音。


その時。

液晶画面に浮かんだ文字。


(秋江・・・・)


苗字も無い。

名前だけなんて、彼女以外、あり得ない。


しかも。

伝言の女の人の声。


「ハルッー・・・?

アタシ、アキちゃん。


 携帯、出ないし。

 明日、泊まるからぁ・・・。

 

 愛してるよぉ・・・」


酔っぱらってるような感じ。

凄い、彼女感。


やっぱり・・・。

タラシ、なんだ。


コーヒーを入れている彼の後姿。

急に怒りがこみ上げて。


差し出されたカップをスルーして。

立ち上がった。


「クズ・・・」

言ってしまった。


いつも冷静な彼なのに。

目を泳がす様にしている。


私は焼きもちやき、なのだろうか。

タラシと知ってて、部屋にきたのに。


でも。

やっぱり、無理。


そのまま。

部屋を出て。


エレベーターのボタンを押した。


振り返ると。

彼は追いかけてこない。


やはり。

慣れているのかしら。


そのまま。

エレベーターに乗る。


そう。

これで、良かった。


付き合う人じゃない。


でも。

好き、だったの。


エレベーターの扉、閉まるのが遅い。

彼に追いつかれちゃう。


でも。

来ない。


やっと閉まり、動いた。


だから。

少し、賭けをしたの。


私が駅まで着く前に。

彼が追い付けば。


別れないでおこうと。


フフッ・・・。

嘘つき。


まだ、未練を残している。


「最低なヤツだよ!」

冬子の声が頭に響く。


やっぱり。

1階に着いたら。


そのまま。

帰ろう。


そう、思っていたのに。


4階で。

母娘が乗ってきた。


2階で。

おばあさんが、ノロノロと。


少し、期待したけど。

どうせ、タラシの彼だから。


目を伏せてボタンを押さえながら。

みんなが降りるのを優先していた。


そして。


「夏子さん・・・」


子犬のように怯えた瞳が待っていた。

吐き出す息を押さえて、肩が震えている。


多分。

階段を走ってきたのかな。


「違うんだ、ちが・・・」


言い訳をさえぎるように。

私は彼の胸に飛び込んだ。


「夏子・・さん・・・」

呟きながら彼の両腕がギュッとしてくれた。


私も春男さんの腰をギュッとした。


だって。

タバコの匂い。


嫌じゃ、ないんだもん。(笑)


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