卵が先か?鶏が先か?
コッコッコッコッコッコッ。
ニワトリの鳴き声がする。……私は鳥が全般的に苦手だ。特に足の部分。
バサッとニワトリが羽根を羽ばたかせた。
「キャアアア!」
その私の反応にプッ!と吹き出して肩をふるわせて笑ってるヴァン。……イラッとする私。屈辱すぎる。この天才バイヤーのアリシアが、こんな小心者と思われたくはない!
「アリシアに苦手な物があるんだなー。ほら、早く卵を集めないと、依頼主の時間に間に合わないぞー」
ヴァンは楽しそうに卵を籠に入れていく。な、なんで!?怖くないわけ!?ここの養鶏場の卵は美味しいという評判を聞いてやってきたのだけど、ここの主が『うちの鶏に気に入られたら、売ってやっても良い!卵を集めてこい』と言う条件を出してきた。
私が恐る恐る手を伸ばすと………コッコッコー!と怒り狂って、グサッとくちばしで手を突き刺された。
「痛ーーっ!!」
涙目になる。ヴァンがしかたねーなーとやっぱり笑いを堪えて言う。
「クククッ……あ、いや、悪い。オレが集めてやるよ」
何故!?ヴァンが手を伸ばすと怒らない鶏たち。
「なんで、そんなに上手いのよ!?」
「たぶん、アリシアが怖がっているのがわかるんじゃないか?後は躊躇なく卵をこうやって……素早く取ることだな」
確かにヴァンの手は素早い!鶏が取られたことに気づいていない!なるほど……と、思ったけど、やはり怖くて手が出せなかった。
「不覚すぎるわ……」
「そんなこともあるさ」
ヴァンがものすごく頼もしく見えた。しかし……何故彼がここまで、やる気を出していたのか?というのは後でわかった。
「ほぅ!さすがだな。あの野性味溢れる放牧の鶏の卵を採れるとは!」
「立派な鶏だな。卵の味もさぞかし……」
「当然だ!……よし、どんなものか味わわせてやろう!」
そうこなくっちゃなあ!とヴァンがホクホクしている。
「まさか、卵料理のために?」
「当たり前だ。食べてみたいだろ?アリシアがこれは最高級の卵になる!って言ってたよな?それくらい美味いんだろ?」
……この卵を手に入れる前に、私はいつものように夢を見た。確かにヴァンに、この卵は金の卵!将来的には最高級になるわ!と力説したのだった。
養鶏場の主は得意気に卵料理を出してきた。確かに黄身が普通の卵よりも濃い色をしている。オムレツの色が違う!
「お日様色のオムレツですね!」
「フフン。わかるか?食べてみなさい!」
口に入れるととろける卵。それなのにフワフワ。ヴァンが美味い!と声をあげた。
「最高だな!いい仕事してるな」
ヴァンが褒めると主は悪い気がしなかったらしく、オムレツのおかわりを作ってくれたのだった。
のどかな鶏の放牧地を見て、ヴァンがポツリと言った。
「こんなのんびりとしたところで、アリシアと暮らせると良いな……」
「えっ!?わ、私で……良いの?」
「アリシアといたら、美味いもの食えるしなー。最近、食い意地のはってる使い魔のロキがアリシアに仕えてる気持ちがわかるよ」
深く考えていないセリフだったらしく、軽くそう言うヴァン。しかも使い魔のロキと同等で良いのね……。それなのに私はドキッとさせられた。
そんな未来を私は夢で見てみたい。……未来を見る夢なら、そんな幸せな夢ならいいのに。ヴァンが苦しむ夢なんてみたくない。
「そうすると、やっぱり鶏を飼いたいな。卵、美味いよなー」
「えっ!?……鶏だけは嫌よ!」
それなら卵を産ませる鶏じゃなくて、むしろ卵を買えばいいじゃなーいっ!と私は大反対したのだった。未来に鶏はいらない!絶対にいらない!
……やっぱり、鶏は苦手なのだった。
落ちこぼれ魔道士バイヤーは最強魔道士の破滅の運命を救いたい! カエデネコ @nekokaede
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。落ちこぼれ魔道士バイヤーは最強魔道士の破滅の運命を救いたい!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます