春疾風

西しまこ

第1話

 春、卵から龍の子どもが生まれる。

 そして、母龍は喜びに満ちて、空に昇る。父龍や赤ちゃん龍、そして子龍たちとともに。

 春だ! 命の芽吹き。全てが萌え出ずる。

 そして、龍が空に昇るとき、急に風が激しく吹き起こる。

 それを、春疾風はるはやてという。

 春疾風はるはやては新しい生命の喜び。


 龍が空を飛ぶと、蕾が花開く。若葉が芽吹く。

「おかあさん、どこまで行くの?」

 昨年生まれた子龍が話しかける。

「もっと上まで。……ついて来られる?」

「頑張る!」


 母龍は笑って、一声咆哮する。すると、山の雪が融け始める。父龍も咆哮する。喜びの咆哮だ。雪融けの水が川を下って、勢いよく流れ出す。

 空の高いところまで昇っていた父龍と母龍は、それを見て下降し、雪融け水とともに川を下っていく。子龍たちもそれに倣う。龍たちは気持ちよく雪融け水と踊るように飛ぶ。


 春だ! 全てのはじまり。冬ごもりからみな起き出す。

 春ですよ。

 春が来ましたよ。

 起きて!

 リスもくまも。眠っているすべての動物たち、冬の眠りから起きて!


「おとうさん、おかあさん、楽しいね!」

 昨年生まれた子龍は一生懸命飛ぶ。お兄ちゃん龍はお兄ちゃんらしく、胸を張って飛ぶ。

「春だよ!」

 父龍と母龍は誇らしそうに笑い、また咆哮する。

 それは春の喜び。


 *


「すごい風!」

 桜の花びらが舞い散る。

「きれい」

「うん、きれいだね」

「新学期、始まるね」

「いっしょのクラスだといいね」

 そう言って笑い合う。

 何かいいことが起こりそうな予感。

 ふたりは並んで歩き、学校へと向かった。



   了



一話完結です。

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