ツバメ少年とフルート少女 ⛪

上月くるを

ツバメ少年とフルート少女 ⛪





 広い平野の田んぼという田んぼに水が張られると、空が二枚になりました。

 透明な水鏡に、さまざまな緑色に膨らむ里山や残雪の山脈が映っています。


 もしかしたら、田んぼの底にも、もうひとつの世界があるのかも知れない。

 去年、この平野で生まれ、青年になってもどって来たツバメは思いました。


 その水鏡をかすめるようにして素早く舞い上がったり飛翔したりして、家族と一緒の時間を過ごしていたツバメ青年の心は、しきりに東へ東へと行きたがっています。




      🎢




 広大な田園地帯から数キロほど行った郊外の住宅街に、三角屋根の音楽堂があり、観客が入る玄関口へのアプローチ付近で、等身大の少女がフルートを吹いています。


 少年だったツバメは、そのブロンズ像をひと目見て、すっかり心を奪われました。

 なんて清らかな少女だろう、あどけない口もとから笛の音が聴こえて来そうです。


 それから毎日、ツバメ少年は家族からはなれて音楽堂の少女に会いに行きました。

 さっと横ぎると、ブロンズ像のふっくらした頬に、ほんのり紅がさすようで……。




      🎼




 季節がすすんで別れのときがやって来ました。

 渡り鳥のツバメは南方へ去らねばなりません。



 ――チュビチュビチュビ チュルルルルル……。((((oノ´3`)ノ



 ツバメ少年が名残りを惜しむと、フルート少女の頬に水色のしずくがひと粒。

 声を限りのツバメに合わせ、どこからともなく美しい笛の音が流れ出ました。




      🔔




 そんな悲しい別れの末、ようやくツバメ少年とフルート少女は再会できるのです。

 いまは青年となった息子の気持ちを察した家族も揃って東へ移動してくれました。


 あ、見えて来ましたよ~、ティンカーベルの飾りをつけた、音楽堂の三角屋根。

 アプローチは……と見ると、懐かしい恋しい少女のブロンズ像が立っています。



 ――会いたかったよ、ぼくのかわいいひと……。(。・ω・。)ノ♡



 すっかり飛翔上手になったツバメ青年は、いきおいよく飛びながら叫びました。

 愛らしい唇に横笛を当てた少女の頬に、紅色の花びらが一枚、涙のように……。




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ツバメ少年とフルート少女 ⛪ 上月くるを @kurutan

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