運の操作
人よりも運が悪い男がいた。彼は周りから「運が悪い男」と呼ばれ、どんなに頑張っても何事も上手くいかなかった。友達からは呆れられ、恋人にも見放されてしまった。彼は人生に絶望し、自暴自棄になってしまう。
ある日、男は自分の運を操作することができることに気付いた。最初は信じられなかったが、確かに彼が意識的に行動すると、運が上昇することに気付いた。彼は自分がもう運が悪い男ではないと実感し、喜びに包まれた。
しかし、彼が自分の運を操作すると、周りの人々の運が悪くなることに気付く。彼の運が上がると、彼と関わりのある人たちの運が下がってしまうのだ。最初は気にしていなかったが、次第に彼はこのことに不安を覚えるようになる。
彼は自分の運を操作しないように努めたが、自分の力についつい手が出てしまう。人というのは愚かな物だ…便利なモノがあるとそれを使わずにはいられない。その結果、彼の周りは次第に災難に見舞われるようになってく。
最初は些細な不幸であった…しかし、彼の運が上がるに連れてどんどん周りが不幸になっていく。車の事故で同僚がケガをする――会社の経営が下がっていく――ついには、自身の両親にまでも不幸が牙を向けてきた。
このままではまずい…もうこの力は使わない様にしよう――そう決めた彼であったが、もはや運の操作を止めることは出来なくなっていた。
彼は人々が不幸になっていくのをただ黙って見ている他なかった。
◇
数十年の時が流れ、彼は病室のベットに寝ている。身体は枯れ枝の様に細くなり、至る所に医療用のチューブが付けられていた。彼は生きてはいるが、もうかなりの年数をこの状態で過ごしていた。
運は彼を見殺しにしたりはしない…運の力によって彼は生かされ続けていたのだ。
――殺してくれ…
しわがれた声が誰も居ない病室内に小さく響いた。
奇々怪々 ゆりぞう @yurizou
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