食堂

 一人の男が暗い食堂のテーブルでうなだれている。

 男は、元々この食堂を経営していた料理人であった。小さいながらも近くの大学生が贔屓にしてくれる食堂で、料理の値段も安く、ボリュームある料理が学生たちには好評だった。しかし、未知のウイルスが世界的に大流行してしまい、食堂が経営困難に陥ってしまい、ついには食堂を休業する事になってしまう。


 男は食堂を休業した後、自宅に引きこもってしまった。彼は自分がしたことが正しかったのか、もっと努力していれば食堂を救えたのではないかと、悔やんでいた。


 ある日、男が長年、食堂で使用していた調理器具で料理を作っていると、不思議なことが起こった。鍋から出てきた湯気が、男に向かって手を振っているように見えた。


 男は驚いたが、それでも湯気が手を振るのを見続けていた。そして、湯気が男の方に来ると、男はその中に何かのメッセージが込められているように感じた。


 次の日、男は再び料理を作り始めると、今度は鍋から現れた湯気が彼の手を引っ張って、以前に経営していた食堂に連れて行くのだった。


 男は、自分が見たのは夢ではなく、本当に湯気が彼を誘っているのだと確信した。そして、男は湯気に導かれ、再び食堂に行き料理を作り始めた。


 すると、食堂には元のように大勢の学生たちが訪れ始めた。男の料理は、以前と変わらず美味しく、安く、ボリュームもあった。しかし、学生たちが不思議に思うのは、男が料理する時に出る湯気が、彼らに向かって手を振るように見えることだった。


 男は、休業したはずの食堂を、湯気が彼を導いて再び開業することができた。それからというもの、食堂には学生たちだけでなく、不思議な現象を目撃しに来る人たちも訪れるようになった。そして、男は自分が開いた不思議な食堂で、独自の料理を提供し続けて、一躍人気店になるのであった。


 男はふと思う――長年使っていた調理器具に神様が宿っていて、自分を導いてくれたのだと。

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