追放した魔術師のハズレスキルが覚醒してざまぁしに来たので返り討ちにしてやった

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本文

「うちに呪われた魔術師はいらない、出ていけ」


 そう言って俺は、半年ほど前に冒険者ギルドから魔術師のルイン・ディシアを追い出した。


 ダンジョン攻略中ステータスに常に下降補正がかかっている「身代わり」とかいう変なスキルを持っていたからだ。周りからはハズレだと言われ、足を引っ張ってばかりだったにも関わらず、俺がいないとダメなんだとかぬかしやがって、いっつも後ろをくっついてきた。


 魔術師のくせに使う魔法の威力は弱いし防御面では耐性もないし、殆ど役に立たないやつで邪険に扱っていたが、飯の腕はあって料理番として使っていた。


 追放したのは、ギルド内で不満が続出したのもあったが、自由にしてやろうと思ったからだ。世界を回れば、変なスキルの解決方法も見つかるだろう。ここにいればいつまでも役に立たずの料理番だ。本人の様子を見ていても、ここでの生活は不本意そうだった。


 しかし、本当に追放すべきなのか心の奥で引っかかっていた。どうにも嫌な予感がする。言葉に出来ないが、うちに不利益なことが起こりそうな気がしてならなかった。


 俺の予感は当たっていて、ルインがいなくなってから攻略に支障が出始めた。


「身代わり」のスキルはパーティの能力を低下させる呪文や罠を全部自分で受けるものだった。ルインがいたから安全に冒険ができていたと、そういうわけだったらしい。


 連れ戻そうかという意見も出たが、散々あいつを馬鹿にしてしまった今となってはもう遅い、確執が解消できるかわからないと首を横に振った。

 ギルド長クライン・バースである俺は全員の幸福と利益を考えねばならない、どんなに有能であれたかが魔術師一人を連れ戻して厄介事になってもらっては困るのだ。


 それから数カ月後のことだった。ルインが魔術師として名を挙げ始めた。最初は嘘だと思ったが、話を聞くに本人らしい。噂話は広まって、他のギルドからもあいつの名前を聞くことが多くなった。相当稼いでいるらしい。


 だが、おかしいことになっていた。どこかに所属して身代わりをやっているのかと思ったのだが、ソロでダンジョンを攻略しているらしいのだ。

 俺は偵察部隊を組織し、こっそりやつの後を追わせた。自分でもスキルに関する書物を読み漁り、どういった特性を持っているのかを時間の許す限り調べた。


「なるほどな……このスキルは覚醒、派生することがある、か。そっちも調べないとな」


 ダンジョン攻略とスキル研究の両立は難しく、またメンバーの能力低下に対抗する手段を得ねばならず、そちらに注力してる間に、うちにくる依頼は徐々に減っていった。SS級ギルドが落ちぶれた評判も、あっという間に広まって、俺達は酒場に行くと馬鹿にされることも多くなった。


 一人でやりくりしていたら過労から倒れてしまい、たまには頼ってくれよとメンバーに励まされた。ルインがいなくなってから団結力は向上し、落ち目だからこそ支え合おうと皆の心は一つにまとまっていった。


 そんなある日のこと。ギルドの門を叩く者がいた。ルインだ。落ちぶれているうちの評判を聞いて、買収しに来たのだ。


「やあ、クライン。懐かしいね」

「よおルイン。手料理を振る舞いにきてくれたのか? 嬉しいぜ」


 冗談を飛ばすと心底嫌そうな顔をした。嫌々ながら作っていたのか、美味かったのにもったいない。


「それはそれとして、今日俺がここに来た理由はわかっているよな?」

「ああ、うちを買い取ろうってんだろ。決闘の準備は出来てるぜ」


 俺はギルドの裏手にある魔術や剣術の練習場へルインを案内した。ギルドの買取は双方の合意がない場合決闘で決まる。負ければあいつの配下、勝てば戻ってくるという約束で、勝負が始まった。


 ルイン側はたった一人で、俺は新しく雇った聖女のルミナス・ピークとペアを組んで臨んだ。ルインは俺が美少女と組んでいることに歯ぎしりをしている。別に容姿で雇ったわけじゃないんだがな……。


「お前のスキル、実はめちゃくちゃ強かったんだってな」と軽口を叩く。

「はっ、だったら勝てないことくらいわかってるよな? 負けを認めるなら今のうちだぞ」ルインは勝利を確信した声で言った。


「そいつはどうかな? 行くぜ! 速度上昇スピードアッパー! 魔力上昇マジックフォスメント! 」

「なっ……!」


 俺は強化呪文をかけまくった。そう、こいつのスキルは「身代わり」から「能力反転」に覚醒しており、不利な状況になればなるほど強くなるのだ。とすれば、逆をやってやればいい。偵察班のおかげだ。


「うっ、ぐうっ……くそっ……」

 移動速度が遅くなったルインは、それでも魔法攻撃を仕掛けてくる。放たれた業火は、まだ練習場を粉々にするくらいには強い。ったく、誰が修理すると思ってんだか。あの装備品のせいだな。


「こっちが調べもせずにのんびり過ごしてるとでも思ったのかよ、呪われた装備を逆手に取って自分の能力を上げてることくらい調査済みだ! ルミナス、喰らわせてやれ!」


「はい! 汝帰るべきは母なる海、汝還るべきは父なる大地! 光により導かれよ! 聖なる加護ホーリーライト!」


 ルミナスがオーブを天に掲げて捧げた祈りで呪いが解けて、ルインの身につけている杖も、ローブも、ガントレットも装飾品諸々も、元の性能に戻った。ということはつまり。


「な、なんで俺のこと……」

「ばーか、しっかり調べておいたんだよ、お前がただスキルを使って成り上がってる間に、こっちはいつ復讐されてもいいようにな」

「お、お前達だって、スキルに頼ってばかりだったじゃないか!」

 悔しそうに反論してくるルインは、まだ諦めていなさそうだった。


「ああ、だから見直してさ、皆で魔術剣術を一から訓練していたんだ。今お前が壊しちまったここでな。後悔と反省をしたからこそ今の俺達クラインズギルドがある。成り上がり者のお前には、わかんねぇだろうけどな」


 俺は剣を抜き、すっとルインの間合いに入り込んだ。目では追えているが反応できないのを、少しだけ哀れに思いながら装備品を切り刻んだ。防御力さえ失ってしまった装備品達は、紙切れのようにポロポロ零れ落ちて風に吹かれていった。


 ルインは膝をつき、観念した様子でうつむいた。


「約束は約束だ。俺はこのギルドに……」

「いや、やっぱうちにお前みたいなのはいらねーわ、出ていってくれてありがとな」


 ルインは何か言いたそうだったが、俺はルミナスを連れてギルドに戻った。うちが買収されなかったことはギルド間で大いに話題になり、その後ルインの姿を見たものはいないという。

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