夢を叶えて、それから

 夢を叶えた。子どもの頃から大切に抱えてきたそれは時間が経つごとに大きく育って、花を咲かせた。良い仲間に恵まれた。仕事をすることが幸せで毎日が楽しかった。


 花に囲まれた生活は毎日素敵な香りに包まれて幸せ。お茶を楽しめる生活は毎日リラックスできて幸せ。あれもこれも、全部私のための幸せの一つ。生活のそこら中に転がる幸せの一つを大切に瓶に詰める。


 幸せを大切に抱えていた。毎日がゆったりと過ぎていく。振り返ればあっという間な気もする。それでも幸せな日々はいつも穏やかに過ぎていた。


 優しい日差しが心地いい。少し無理して作った自宅のサンルームはお昼寝にぴったりだ。意識が穏やかに沈んで、緩やかに持ち上がって。海を泳いでいるみたい。そんなことを考えると今度こそ本当に眠ってしまった。


 今日はお気に入りの喫茶店に行こうかと考えて化粧をした。服を着て髪を整えてから家を出る。知らない人のお家にカスミソウのドライフラワーが飾られているのが見えた。幸せ。私もカスミソウ好きだよ、なんて顔も知らない誰かに心の中で話しかけた。


 夢を見ていた。ふわふわと心地のいい夢。雲の上にいるような気分。あまりにも心地がいいからもう目を覚ましたくないと思ったくらいだった。私は起きたくないと思っているのに、夢は終わってしまう。


 目が覚めたら。見える世界はいつもと変わらない。白を基調としたその部屋は清潔感がある。今日のごはんはなんだろう。


 名前を呼ばれて意識が浮上する。女の人が心配そうに私を見ている。ああ、ああ、そうだ。そうだった。


 大丈夫、私は大丈夫だよ。なんの説得力もないような言葉を並べた。


 今度こそだめなんだろう。何度も繋ぎ止められて生きてきた。でももう大丈夫。怖くない。辛くない。幸せだった。夢の中の私はとても幸せそうだった。

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死にたい私の話 里中詠 @stnknosekai

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