バタフライエフェクト 🦋
上月くるを
バタフライエフェクト 🦋
人心を動かす偉大な力を持つ芸術は、ときの権力者にとって自らの野望に水を差す翳と映るらしい、とりわけ戦争という世界的大事業を準備or遂行中の者にとっては。
つど忸怩たる思いに駆られるドキュメント(といっても主に過去の)番組がある。
NHK『映像の世紀 バタフライエフェクト』、キーワードは「罪と勇気の連鎖」。
バタフライエフェクトとは蝶の羽ばたきが巡り巡って竜巻を起こすという暗喩で、かすかな蝶の羽ばたきの積み重ねで編まれたものが歴史という考え方であるらしい。
当然ながら大半が極めてダークな映像を伴う暗鬱な内容で、ヨウコさんが標榜するポジティブシンキング&ハッピーエンドと真逆なのだが、毎回、観ずにいられない。
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先回は、第二次世界大戦時、たまたま生まれたという因縁から身を置いていた国家の独裁者から絶対的な戦争協力を強要された音楽家&作家の苦悩を振り返っていた。
スターリンの粛清から逃れるため、表面上の服従を装わざるを得なかった作曲家・ショスタコーヴィチはのちに「社会主義国家の芸術家の運命は国家と共にある」と。
海外退避の道を選ばず、配下のユダヤ人楽団員をナチスの迫害から守った指揮者・フルトヴェングラーは、戦後、裏切り者の烙印を負ったままタクトを振りつづけた。
代表作『麦と兵隊』など「兵隊三部作」でベストセラー作家になった火野葦平は、陸軍報道班に抜擢され、菊池寛、林芙美子ら作家によるペン部隊の先鞭を切った。
芥川賞の授賞式を戦地で行うなどパフォーマンスに利用した菊池寛は戦後まもなく急死し、戦争協力批判の世論に堪えながら昭和三十五年まで生きた火野は自滅した。
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テレビの前で正座して息も継がせぬ一時間番組を観終えたヨウコさんは自問する。
もしも自分が優れた芸術家だったら(あり得ないが(笑))時代に抵抗できたか。
自答するまでもなく、否、である、自身ならまだしも家族を人質にされたら……。
一応は平和な現在の日本においてさえ、書きものへの固有名詞には神経をつかう。
そして、そんな憶病体質でありながら、せっかく与えられた機会に当たらず触らずのスタンスで逃げを打つ無関心には賛同できない、矛盾&葛藤に満ちた自分がいる。
バタフライエフェクト 🦋 上月くるを @kurutan
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