最終話 自分が信じた道を歩く

「お綺麗ですよ~」


「あはは……」


 されるがままに受け入れるしかない私は、メイドさんたちが慌ただしく動くのをただ見守るしかできなかった。


「ルナ様。どうぞ」


 メイドさんが大きな鏡を持ってきてくれて、そこに映った自分を見る。


 真っ白なドレスは私の要望通り派手な装飾はなく、シンプルな薬草柄・・・が刺繡されている。胸元には送られた小さな翡翠色の宝石のネックレスが見え、そこから今でも慣れない顔と金色の髪が肩から下ろされている。


 どこかお母さんに似てるなという感想が出るくらいには、今でも私は自分の姿に慣れない。


 異世界に転生してから鏡を見ずに生活をしていたからなのか、はたまた夢の中にいる感覚だからなのか、私にもその理由は分からない。


 でも一つだけ確実なのは、今の私を生んでくれたお母さんの娘であること。


 ――――「自分が信じた道を歩きなさい」。


 ベッドの上で寂しそうな目で窓の外を眺めて、いつも口癖のように話してくれた言葉だ。まだ幼かった私に自分の夢を託すかのように毎日その言葉を話してくれた。


 まさか私が転生者で精神年齢も上で何を話しているのか、ちゃんと理解しているとは思わなかったと思う。


 でも今でも私の心には彼女の言葉が深く刻まれて、こうしてドレスを身にまとっている。


「ルナ様。とても綺麗ですよ」


「ありがとうございます。でも……やっぱりなれませんね……あはは……」


「今日が初めてのドレスですものね。また着る機会は多いですからすぐになれますよ。さあ、そろそろお時間ですので、こちらにどうぞ」


 メイドさんに案内を受けて部屋から出て廊下を歩く。


 所々に騎士さんが立ってこちらをチラ見しては少し顔を赤らめる。


 久しぶりにハイヒールを履いてゆっくりと歩き、大きな扉の前に辿り着いた。


 衛兵さんが大きな声で「ルナ様でございます!」と話すと大きな扉が開いていく。


 中から眩い光がこちらに漏れて来て、広大な部屋が見え始めた。


 大きな柱が並び、その中心を綺麗な赤絨毯じゅうたんが敷かれていて、その両脇に多くの貴族が立ち並んでいた。


「さあ、ルナ様。いってらっしゃいませ」


「ありがとうございます。行ってきます」


 親身になってくれるメイドさんのおかげで、少しは緊張がほぐれた。


 一歩足を踏み出して赤絨毯を踏み、前に歩き進める。


 私が決めた道だから。


 赤絨毯の先に歩き、スカートを軽くあげて挨拶をする。


「ルナと申します」


「面を上げよう」


 威厳のある声に顔をあげると、玉座に赤と黄の色で調和された服の男性が優しい眼差しで私を見下ろしていた。


 その頭には国を代表する冠が眩しく輝いている。


「初めましてだな。話はアデルシア伯爵からよく聞いている」


「恐れ入ります」


「本日其方をここに呼んだのは、其方の活躍に国王として応えなければならないと思ったからだ」


 実を言うと、王様が何をくださるのかはバルバロスさんから聞いていたりする。というのもこういうのは事前に知らされるという。


「ありがとうございます」


 前世の感覚が抜けきれない私には、この現状も慣れない不思議な出来事で王様の謁見が夢物語のように感じてならない。だからなのか、淡々と答えてしまう。


 隣で待機していた執事服の男性が一枚の羊皮紙を持って私の隣に立った。


「汝の功績を称えて、アーデンシェル王国の国王であるグランセル・ドルフ・フォン・アーデンシェルの名のもとに、貴族の爵位を与える」


「謹んでお受けいたします」


 今度は王様が声を上げる。


「家名をエルナスとする。皆の者! 新しいエルナス子爵・・に協力を惜しまずに!」


 後方に立っていた貴族のみなさんが「ははっ!」と一斉に声をあげた。




 ◆




「おかえり~ルナちゃん」


「リオネちゃああああああん!」


 すぐにたゆんたゆんのリオネちゃんの胸元にダイブする。


 疲れるとこういう癒しが欲しくなるよね。


 何となく、異世界に転生する前を思い出す。


 仕事に疲れてベッドにダイブしてから記憶がなかったりするから。


 それくらい今回の授与式は大変だった。ううん。その後が大変だった。


 祝いのために開かれたパーティで国中から来た貴族と挨拶をする羽目となった。バルバロスさんのおかげで、婚約を迫ってくる輩はいなかったけど、まさかの人に会って慌ててしまった。


 その名はリアム・ドルフ・フォン・アーデンシェル。王様の息子で王太子のリアム殿下は――――あの日、クマーデン街の牢で看守をしていた騎士さんだった。どうやら王太子自ら調査のためにクマーデン街に来ていたみたい。


 そんなこんなで初めてのパーティはどちらかといえば、疲れる結果となった。


「やっぱりここが一番落ち着くな~」


「ルナちゃん? 私の胸の中でそれを言わないで?」


 …………何を食べたらこんなに大きくなれるのだろう? 今度スラちゃんに頼んで――――って別に気にすることもないし、私は私だから気にしない。


 リオネちゃんと一緒に店に行くと、ハリーさんたちまで来て店を手伝っていた。


 ハリーさんたち。冒険者なのに依頼に出なくてもいいのかなと思うけど、依頼に出ると数日戻って来なかったりするので、うちの店で息抜きしているならそれでもいいのかも知れない。


 少しして、すっかり綺麗になった元スラムの従業員・・・・・・・・達が素材を採って来てくれた。


「あ~店長! おかえりなさい~」


「みんな、ただいま!」


 スラム街はハイレンの力ですっかり様変わりして、授業員達が暮らす宿舎の街に変わった。


 今ではアーデンシェル王国の一大事業なので、土地も全て私のものとなった。そのついでに子爵となったので、クマーデン街の一部は私の土地でいっぱいになっていたりする。


「店長~! 王都支部・・から大量の素材が届きました!」


 あはは……帰って来てもすぐに仕事だね。


「すぐに行く~!」


「ルナちゃん。私も一緒に行く~」




 異世界に転生して十三年。


 私を生んでくれたお母さんの言葉を胸に、私は今も自分が信じた道を歩き続けている。


 スライムに囲まれて、大勢の仲間にも囲まれて、気が付けば大きな商会まで開いて、貴族になったり、王様とも出会ったり、冒険者の仲間たちと依頼をこなしたり、忙しい日々を送っている。


 いつしかみんな私のことをこう呼ぶようになった。




 ――――――スライム聖女と。




――――【完結】――――

 最後まで【転生して最弱スライムテイマーからスライム聖女と呼ばれるまで】を読んで頂きありがとうございます。

 当作品は【賢いヒロインコンテスト】のための書き下ろし作品となっております。

 ここまで面白かったと思った方はぜひ★を入れて応援してくださると嬉しいです。

 他にも連載作品、完結作品が多数ありますので、ぜひ覗いてみてください!

 ここまでたくさんの応援ありがとうございました!

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転生して最弱スライムテイマーからスライム聖女と呼ばれるまで 御峰。 @brainadvice

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