最終話 ユキ君

 ダンジョンでは、未知の宝物が発掘される。

 たった一つの物で一攫いっかく千金せんきんなんて話はよく聞くものだ。

 だからこそ、人々は命を危険を冒してでもダンジョンへと潜り続ける。


 そして、俺と鈴花は今日もダンジョンに潜る。

 もしかしたら、これが最後かもしれないけどね。


「ここだね」

「ワフ」


 辿り着いたのは、一つの扉の前。

荘厳そうごんで、真ん中に一つの鍵穴が付いた大きな大きな扉だ。


「いこう。ユキ君」

「ワフ!」


 鈴花と出会ってから一年。

 たくさんの人と出会い、たくさんの人と協力してここまで辿り着くことができた。


「ユキ君」

「ワフ!」


 鈴花の胸元という定位置に抱えられ、一緒に扉に近づいていく。


 ああ、この柔らかな感覚も今日で終わりかもしれないのか。

 ……最後にちょっとだけ。


「あ! こら!」

「ワフっ!(いてっ!)」


 後ろに頭をかたむけて、ふよっとしたものに触れたら怒られた。

 くう、やっぱりあの日・・・から厳しくなったよなあ。

 

「もう、えっちなんだから。ほら、開けてみて?」

「ワフ!(りょ!)」


 首元にかけられた鍵を、扉に鍵穴に近づける。


 この鍵は、アリサさんのダンジョンでゴールドラッシュが起きた時に、首にかかっていたもの。

 何故か俺から離れなくて大変だったんだよな。


 でも、


「鍵が回った……!」

「ワフゥ」


 情報は合っていたみたいだ。


 じゃあ扉の先にあるのは……『運命の泉』か。


 それは死者すらも蘇らせるという幻の泉。

 ここまで辿り着いた者はいたけど、鍵がなくて開かなかったそうだ。


 その鍵を俺が持ってたなんてなあ。


「綺麗……」

「ワフゥ(そうだね)」


 泉の周りには、水色や黄緑のシャボン玉のような物が浮かんでいる。

 上からは一筋の光が差し、泉の中央を照らす。


「いよいよだね」

「……」


 死者すらも蘇らせるという『運命の泉』。

 

 だけど、生き返らせるには一つ条件がある。

 それは「相手が最愛の人でなければならない」ということ。


 そして、この条件は鈴花には隠してきた・・・・・

 泉の存在を知り、止まらなくなっていた鈴花に水を差さないためだ。


 死に別れた夫や不慮の事故で亡くなった恋人。

 最愛の人とは、そういうことを指すのだろう。


 俺は果たして、鈴花にとってそれを満たしているのかな。


「……心配しないで」

「ワフ?」

「とにかく行こう!」

「ワフ!?」


 鈴花にまた抱きかかえられる。

 この胸元に抱かれたら俺も抵抗できないな。


「はい。ここに」

「ワフ」


 そうして、泉の中央でちょこんと下される。

 俺たちは向かい合った。


「泉よ。ここにいるは〜」

「!」


 これは詠唱、めっっっちゃ長い詠唱。

 カンペを見ずに言えるまで練習したんだな。

 さすが鈴花だ。

 

「もう一度力をお貸しください」

「ワフ(お疲れ様)」


 詠唱が終わる。

 その途端、


「ワフ!?」

「ユキ君!」


 上から注がれていた光は強さを増す。

 なんだか体の内側に干渉されているみたいだ。

 なんか、くすぐったい!


「ワフゥン」

「ユキ君!? 変な声出てるよ!?」


 それに、視線も徐々に上がっているような……。

 でもやっぱりくすぐったい!


「ワフ、いやぁん」

「ユキく……って、え!」

「え」


 あれ、俺今喋った?

 ていうか鈴花がちっちゃくなったか?


「あれ、鈴花……?」

「ユキ君……。本当に……?」

「本当にって……はっ!」


 自分の体を見る。


 これは紛れもない人間の俺の体だ!

 すげえ、本当に戻ったのか!


「あはは。俺、本当に──って、うわっ!」


 鈴花が抱きつかれた。

 

「良かった! 良かったよお……!」

「鈴花……」


 鈴花は俺の胸元で泣いている。

 

「やっぱり、嘘つきだったんだ」

「さあ。なんのことやら」


 初めて鈴花に背いて、橋の下で雨宿りしてた日。

 鈴花に「君は犬成幸也君だよね?」と聞かれた。


 俺は結局、知らんぷりをした。

 「ワフ?」なんて言って誤魔化した。

 なんとなく関係が崩れてしまうと思ったから。


 でも、


「ユキ君は嘘が下手だからなあ」

「そうか?」


 鈴花にはお見通しだったのか。


「これからどうする?」

「今考えても分からないなあ」

「ふふっ。そうだね」

 

 鈴花がぎゅうっと強く俺を抱きしめた。


 ちょっと鈴花!

 俺はもう犬じゃないんだよ!

 そんなに強く抱きしめられると……豊満な胸が!


 それと同時に、何かむくりと下半身が起き上がる感覚がした。


 待てよ!?

 まさかこの感覚は!?


 俺は鈴花と離した。


「鈴花! 用意してた服あっただろ! 出してくれ! 今すぐ! 早急に!」

「え、あ、うん……! って、なんて格好してんのよー!」


 鈴花も俺が人間に戻った事にばかり気を取られていたのか、ようやく俺が裸だと認識したみたい。


「早く着てよ!」

「理不尽! でも助かる!」


 ポイポイポイ! と服が投げつけられる。

 俺は下からさっさと履いた。


 アレが起立しそうなところを見られると、俺はもう生きていけない!


 そうして、


「ぷっ。あっはっはっは!」

「鈴花?」


 俺がようやく着替えを終わった頃、鈴花がお腹を抱えて笑い始めた。


「なんだか本当にユキ君だなあって思って」

「そう?」

「うん! わたしの大好きなユキ君!」

「……!」


 急にぶっ込んできた鈴花に思わず赤面した。


「これからも付いてきてよね」

「もちろん!」

「けどまあ……」

「?」


 鈴花はうーんと考えて、やがて怖〜い目をこちらに向けてきた。


「聞かなきゃいけない事はあるけどね〜。色々・・と」

「ひいっ……!」


 色々っていうのは、お風呂とか赤ちゃんプレイとかの事ですか!?


「さて、帰ろうか〜。ねえ?」

「は、はい……」


 鈴花の声はとても怖かった。


「ははっ」


 けど、こんなドタバタな日々が始めると思うと楽しくはあるな。


「ユキ君。いくよー早く早く!」

「おう!」


 とりあえず、帰ってからの言い訳を考えるところからだなあ。




 終わり





───────────────────────

あとがき


まずは、この作品を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

今作はこれで完結とさせていただきます。


最後に★を一つでも二つでも、満足していただけたら三つ、押してやってください!


また、もしこの作品で作者に興味を持って下さった方、よければ『作者フォロー』をしていただけるとすごく嬉しいです!

新作の通知や近況ノート更新の通知が届くようになります。


これからもバンバンと新作は出すつもりなので、良ければぜひよろしくお願い致します。

早速、今日中にはこの作品の所感なども近況ノートに出せたらと思っております。


最後に一作品だけ、自作の紹介です。

現在、毎日更新を心がけている代表作ですので興味があればぜひ!


『小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。これならダンジョン&ペット配信でスローライフを送れそうです~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330654492604080


それでは、あとがきはこの辺で締めます。

皆様、改めて本当に応援ありがとうございました。

またどこかでお会いいたしましょう!

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【完結】子犬に転生して好きな人のペットになったら、一緒に配信でバズりまくった件~好きな女の子とお風呂も寝る時も一緒です。この状況に耐えながらも、彼女を幸せにする為ダンジョン配信で活躍します~ むらくも航 @gekiotiwking

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