第5話・受験旅の新たな仲間「ボクが勝彦くんの仲間になってあげるミン」ラスト

 勝彦が地面でピクッピクッ、蠢いている黑ベタ全身タイツ男を眺めていると、勝彦の後から女性の声が聞こえてきた。

「久しぶりゼラ、勝彦。相変わらず間抜けな顔しているゼラ」

 勝彦が振り返ると、そこに勝彦と同年のエルフ耳の異世界風な女の子が立っていた。


 頭には小さなクワガタのツノと虫の触角、頭の左右にクワガタムシの目。腰には白と黒に色分けされたヒョウタンと、Gペン剣と丸ペン剣が吊られている。背中には甲虫の背のような盾の中に、折り込まれた妖精フェアリーの羽が少し見えた。 


 勝彦が女の子に訊ねる。

「もしかしておまえ、夏休みに虫異世界で遊んだ『ゼラ』か?」

「そうゼラ、思い出したかゼラ」

「大きくなったなぁ、いろいろな意味で……あの時は、手乗り妖精フェアリーだったじゃないか……うん、胸もお尻も大きくなった」

 勝彦のいやらしい視線に、少し赤面したゼラは体を両腕で抱え隠す。

「どこ見ているゼラか! 変態! オレがこうなったのも、勝彦の世界のAIが虫異世界に変な干渉をしたせいゼラ!」

 ゼラは頭のクワガタ角で勝彦の体を、挟み締めつける。

 ギリッ、ギリッ、ギリッ。

 悶絶する勝彦。

「ふごぉぉぉ!」

 勝彦をクワガタバサミから開放して、ゼラが言った。


「こんな世界になる前は、昆虫の楽園だったゼラ……虫だけの世界で、オレも虫けらでいられたゼラ……早く立ち上がるゼラ。オレの師匠はクワガタムシ……ゼラ。勝彦と一緒にマンガ受験修行の旅をするゼラ」

 ゼラが仲間になって勝彦の旅がはじまった──数々の受験ライバルたちが待ち受ける、修羅の受験旅に。


  ◇◇◇◇◇◇


 旅をしていた勝彦たちの前に現れたのは、歌劇団の男役のような派手な衣装を着た、虫人の受験修行生だった。

 背後に細い針のような放射線が御光のように拡がっている。男装の麗人が華麗な、ポーズを決めて勝彦に言った。

「君に恨みはないが、これもワタシの受験の合格率を上げるためだ……悪く思わないでくれたまえ、一点『集中線サラウンドsurround』華麗にゴージャスに」


 勝彦の周囲が、放射線で取り囲まれる。

 勝彦が少しでも動くと、放射集中線が勝彦の体に刺さる。

「いてぇ! うっかり動けねぇ」

「あはははっ、華麗にゴージャスに、受験合格発表のスポットライトを浴びるのはワタシだ」


 ゼラは少し離れた場所で立って、少女マンガを読んでいる。

「マンガ読んでないで助けてくれよ、うわぁ! 集中線の形が手描きのグニュグニュ線に変わった、気持ち悪りぃ」

「他人にばかり頼らないで、そのくらいの技巧攻撃。自分の力で弾き返すゼラ」

 Gペン短剣を引き抜く勝彦。

「どうやって? オレなんの技も持ってないぞ」

「そんなはずないゼラ……虫の師匠が弟子に技を伝えずに、旅立たせるはずないゼラ、よく思い出すゼラ」

「そんな、あの化け物カブトムシから何も教わっては……あっ、もしかしてアレか」

 勝彦が四コマ技の構えに移る。

「起・承・転・結」 

 最初のコマの中に、集中線男装の姿が閉じ込められて、最後のコマで落下のオチがつく。

「ぐはっ、さすがだ……華麗にゴージャスに、敗北を認めよう……ガクッ」

 受験ライバルを、初めてマンガ技で倒した勝彦はドヤ顔で、のけぞる。

 Gペン短剣がGペン剣へと変化する。

「見たか! オレつぇぇぇぇぇ!」

「調子に乗るなゼラ」 

「おごごごっ、頭がぁ」

 ゼラのクワガタ角に挟まれた勝彦は、悶絶した。


  ◇◇◇◇◇◇


 旅を続ける勝彦とゼラの前に、仲間を名乗る同年の虫男子が現れた。

 前髪で片目が隠れた、そのイケメンの受験修行男子は、滑郎なめろうと名乗った。


「ボクの師匠は、ミンミンゼミですミン。師匠から仲間になるように言われましたミン……お力を試させてください、それから仲間になるか決めたいと思いますミン」

 すでに数人のライバルを倒した勝彦は、いい気になって慢心していた。

「かかってこいや!」

「では、遠慮なく『洞察眼どうさつがん』ミン」

 滑郎の片目が鋭い眼光を放つ、まるですべてを見通しているような眼光。

 身構えた勝彦は、滑郎が何も攻撃をしてこないコトに、イラついて先制攻撃する。

「驚かせやがって、コケ脅しか! 起・承・転……」

「おそいですミン、一コマ『風刺マンガ〔世相〕』」

 勝彦の体が、一コマのワクの中に閉じ込められる。

 風刺マンガの強烈な一撃に、勝彦の体はワクの中から飛び出してフッ飛んだ。

「ぐあぁぁぁッ(なんだ、今の技?)」


 大地に激突した、勝彦はカマドウマのように跳ね起きて再度、滑郎に攻撃する。

「まだだ、起・承・転……」

「何度やってもムダですミン『風刺マンガ〔流行〕』」

 フッ飛ばされて落下する勝彦。

(ダメだ、こいつには勝てない起承転結じゃ長すぎる……いったい、どうすれば? ん、待てよ、アレなら風刺マンガに勝てるかも)

 勝彦の構えが変わる。

「どんなマンガ技の構えでも、ムダですミン! 風刺……」

「序・破・急!」

 わずかに早く、三コマの最初のコマに閉じ込められた滑郎の体が、三コマ目でオチがつく。

「ぐはぁ! ですミン……やられたですミン」

 立ち上がった滑郎が、爽やかな笑顔で握手をするために、片手を勝彦に向けて差し出す。


「仲間になりましょう……受験修行で一緒に合格をミン」

「やなこった、おまえみたいなイケメンを仲間にしたらオレが目立たな……ぐおぉぉ」

 ゼラがクワガタバサミで勝彦の頭を挟み込んで、ギリッ、ギリッと締めつける。

「思い上がるなゼラ! 滑郎を仲間にするゼラ、素直に仲間になってくださいとお願いするゼラ」

「な、仲間になってください……がぁぁぁ」

 滑郎は爽やかな笑顔で、勝彦と仲間の握手をした。


~滑郎を仲間に迎えた、勝郎たちの受験旅は続く~


★注意事項・クワガタムシのツノで人間の頭を挟んで遊ぶのは大変危険です。

保護者の方は、お子さんがクワガタムシで頭を挟んで、遊ばないように注意してあげてください。

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勇者中学生【勝彦】十四歳☆メタバースな虫異世界でマンガ学園入学に向けて受験修行中 楠本恵士 @67853-_-

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