マンガの師匠は地獄耳のカブトムシ……幼なじみの【ゼラ】も、いろいろな意味で成長しました

第4話・受験修行の仲間と妨害ライバル……「やっぱり、勝彦は変態ゼラ」

 等身のカブトムシは、地面で虫のようにピクッピクッしている。勝彦の防具に浮き彫りされている虫を見て言った。

「それは、マダラカマドウマ……そうか、おまえがカマドウマじいさんが話していた自慢の孫か。カマドウマじいさんには、日頃から世話になっているからなオレの弟子にしてやるマンガ修行に励めよ」


 立ち上がった勝彦が、ボソっと言った。

「やなこった……誰が、おまえのような得体が知れないカブトムシの弟子になんか、なるものか……だいたい、マンガなんて。人から教わらなくてもAIを使ってパソコンで描けば、トーン貼りとか、ベタ塗りやトーンの効果削りもあっという間に……」


 勝彦の言葉に怒り狂ったカブトムシ師匠が、ふたたび勝彦の体を空中に弾き飛ばす。

「ぶぁかも~ん! 楽して身につく技巧などないわぁぁ! 修行はアナログ作画だ! 必殺『ストーリー曲線』クリエイティブな世界を甘くみるなぁ!」


 勝彦の体が空中で、ジェットコースターのレールのような曲線に落下して滑り、さらに地面に落下した。

「どベッ! (また、変なのが空中に……なんなんだいったい)」


 カブトムシ師匠は、背中の羽の中から剣先がGペン型をした短剣を取り出して、勝彦の方に放り投げた。

「旅立ちの餞別せんべつだ……持っていけ、この剣は経験値に伴って成長する。

この先に旅先で出会う、ライバルとの技巧勝負や、パーティー仲間の友情や、旅の試練がそのまま受験結果に繋がる……わかったら、早く行けマンガ受験の時間は待ってはくれないぞ。勝彦の仲間になる者やライバルになる物も動き出している……師匠と弟子の、しばしの別れだ」

 Gペン短剣を手にした勝彦が、ふてぶてしう口調で言った。


「やなこった、どうして化け物カブトムシに、上から目線で命令されなきゃいけないんだ……オレは勝手に」

「ぶぁかもん! 思い上がるな! さっさと出発せんかい!『序・破・急』!」

「ひぇぇぇッ」

 カブトムシの角で弾き飛ばされた勝彦の姿は、お空の星となって遠方へと消えた。

 勝彦の姿が消えると、大樹にしがみついていた等身のミンミンセミが、カブトムシに話しかけてきた。


「相変わらず弟子には厳しいなぁ──滅多に人間の弟子を取らない、あんたが、あの子を弟子にした理由は。旧友のカマドウマじいさんから頼まれた孫だというだけじゃないだろう……久しぶりの弟子だ、もう少し優しくしたらどうだ。あの年代の子は将来への夢とか希望とか不安が入り混じった複雑な年齢だ」


「ふんっ、夢とか希望と言うのもわかるが。現実はそんなに甘くないぞ……水を与え育てる役目の大人が若い苗木に、多少の厳しさを伝えないとメンタルの人生免疫はできん」

「まるで、どこかの歌詞みたいなセリフだな……弟子に対する厳しさもほどほどにしないと、今の子はすぐに逃げ出すぞ」


 カブトムシ師匠は、どこからか取り出したバケツのようなカップに入った昆虫ゼリーを、食べながらセミに訊ねる。

「セミのところの弟子は、出立したのか? 一コマの風刺マンガを伝授した愛弟子は?」

「旅立った」

「クワガタムシの弟子は?」

「それも、旅立った。カブトムシの弟子が最後だ……オレが弟子に伝えた一コマ風刺マンガなんか今どき、誰もミーンミーンミィ~ン」

 カブトムシ師匠は無言で、昆虫ゼリーをナメた。


 カブトムシ師匠から、弾き飛ばされた勝彦は荒野のド真ん中に派手に落下した。

「いてててっ、オレが虫人じゃなかったら。死んでいたぞ……あの、カブトムシ勝手に師匠を名乗って横暴……」


 勝彦は、岩陰からコチラを見ている奇妙な人物に気づく。

 その人物は、頭の先から足の先まで、真っ黒な全身タイツで包んでいて、頭に虫の触角が生えた奇怪な男だった。

 黒マスクの全身タイツ男が、勝彦に話しかけてきた。

「もしかして、マンガ専科の受験希望生か? オレと同じ」

「そうだけれど」

「そうか、それなら受験合格のために……ライバルを一人減らす!」


 空中に✕印が現れたかと思うと、黒タイツ男の体から、墨汁のようなシミが吹き出して広がっていく。

 黒タイツ男の呟く声が聞こえてきた。

「ベタ塗り『ブラック・オーシャン』真っ黒になって消えろ」


 勝彦の体にも✕印が現れた部分がベタ塗りされ、黒色に呑まれていく。

「オレの体がベタされていく!」

「あはははっ、塗りつぶされて消えろ!」

 真っ黒なベタ塗り世界の中で、女性の声が聞こえた。

「情けないゼラ、勝彦は子供の時から変わってないゼラ……星雲効果『毒霧ホワイト・スプラッシュ』」

 黒ベタ世界に、ホワイトの銀河が煌めき、黒タイツ男の悲鳴が響き渡った。

「ぎゃぁぁぁぁっ! 眩しい」

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