第3話・転生じゃなくて転移だよ♫コマのワク線ブチ抜き異世界転移

 ショウリョウバッタの父親に、虫異世界に行くコトを伝えた勝彦は、家の階段を上って自分の部屋に向かった。

(異世界に持っていく、荷物をまとめないと)

 勝彦は自分の部屋に入る前に、妹の『エマ』の部屋に寄った。

 部屋の中で、室内着でリラックスしてスナック菓子を食べているエンマコオロギのベータ種虫人の、エマに勝彦が言った。

「エマ、勝彦お兄ちゃん、しばらく虫異世界に、受験修行で行ってくるから」


 頭部をコオロギ頭に部分変身させたエマは、素っ気ない口調で言った。

「あ、そう……留守中に妹に見られて困るモノは、ちゃんと処分しておいてね」

「おまえ、オレの部屋に入るつもりか」

「お兄ちゃんだって、あたしがいない時に、この部屋に勝手に入って、マンガとか自分の部屋に持っていって読んでいるじゃない……お互いさまだよ」


 勝彦は、妹の言葉に何も言えずに自分の部屋に入って異世界に持っていく荷物をまとめた。

「百均で買った、メンズのヘアジェルはディバッグに入れたし……忘れ物はないな」

 ビニール紐で結わえた雑誌の束を勝彦が、部屋の前の通路に置くと、隣の部屋のエマがドアを開けて人間顔を覗かせた。

 勝彦がエマに言った。

「この、雑誌は玄関の所に出しておくから、明日の回収日にゴミ収集場のところに頼む……お兄ちゃん、お風呂に入って汗を流すから」

「わかった、出しておく」

 階段を下りていった勝彦が、バスルームに入ったのを確認したエマは、ニヤッと笑いながら。

「隠したブツは、あの縛った雑誌の中か……フフフッ」

 と、呟いた。


 バスルームでお風呂椅子に裸で座って、体を洗いながら勝彦は思った。

(いつ、異世界転移してもいいように、体は洗ってキレイにしておかないとな……それにしても、子供の時はどうやって虫異世界に転移したんだっけ? 覚えていないや……まさか、どこかの児童文学じゃあるまいし。子供部屋のクローゼットの奥とかが、異世界と繋がっているなんて陳腐ちんぷなパターンあるわけないし)


 触角を千切らないように注意しながら、シャンプーの泡をシャワーで流していると、近くから男性の声が聞こえてきた。

「風呂、終わったか? そろそろ異世界に転移するか?」

 見ると、お湯が張られたバスタブの縁に。

 メキシカン髭を生やして、白字で『黒い呪術師』とプリントされた黒いTシャツを着ていて。        

 膝上丈までのハーフパンツと、ビーチサンダル姿のちっちゃい男がスルメのゲソ足を噛みながら立っていた。

 男の頭には長い触角が下がっている。

「ちっちゃい、おじさん?」

「なに驚いた顔している、小学生の時に会っているだろう……もっとも、あの時にオレが見たのは寝顔だったからな……おまえの異世界転移を頼まれた」

「もう、虫異世界に転移するのか?」

「そうだ、体は隅々まで洗い終えたか。異世界によっては水は貴重だからな……こちらに、人差し指を出せ」

 勝彦が、言われた通りに人差し指をメキシカン髭のちっちゃいオッサンに近づけると、オッサンは背負い投げの体位に入る。


「異世界転移の背負い投げぇぇ! どんどんどんだけぇ」

 引っ張られて、体勢を崩してバサタブの中に頭から落ちる勝彦。

「どわぁぁぁ⁉ パンツも穿かずに異世界転移⁉」

 バスタブの底が抜けてコマ割りされた、さまざまな異世界をドンッ! バキッ! ブチッ! と、続けてワク線を突き破って。

 勝彦は虫異世界に転移した。


 大樹の近くに裸で落下した勝彦の上空から、ちっちゃいオッサンの声が聞こえ。

「ほらっ、おまえがまとめたディバックの荷物だ……サービスで勇者っぽい服もくれてやる、防具付きだ」

 勝彦の頭に落下してきたディバッグが当たり、異世界勇者の武器を除いた装備一式が入った布袋が落ちてきた。

 最後にストライプ模様の下着が二枚、ヒラヒラと落ちてきた。

「いてぇ、なんだよこの乱暴な異世界転移は……とにかく、パンツ穿かないと」 


 勝彦は、空から落ちてきたニ枚のパンツを横線半点目で、凝視する。

 一枚は、縦ストライブ模様の男性トランクス。

 もう一枚は、横ストライプ模様の女性下着だった。

「穿くのは、こっちのパンツだな」

 選んだパンツを穿いて、勇者の装備を装着した勝彦は、それなりに十四歳の異世界転移者っぽくなった。

 勝彦の近くに生えている草の葉や花は、四角い電脳ブロックだった。


「さて、これからどうするかな? マンガ受験の修行ってどうやるんだ? 武器が無いと単なる勇者のコスプレをした一般人だよ」

 勝彦が腕組みをして思案していると。

 突然、大樹にしがみついていた等身のセミが、大音量で鳴きはじめた。

 両耳を手の平で押えて、地面をのたうち回る勝彦。

「ぐわあぁぁ! うるせぇ! 昆虫採集して虫ピン刺して標本にしちまうぞぅ!」

 セミの鳴き声がピタッと止むと。今度は、もの凄いスピードで飛んできた等身のカブトムシが、勝彦に向かって怒鳴った。


「今、なんっう言った! おまえか! 夏休の自由研究で、我が同胞を捕まえて昆虫標本作って、提出していた小学生は!」

 カブトムシの角が勝彦を空中高く、弾き飛ばす。

 勝彦は空中に現れた四コママンガの、コマ割りの中に入った。

 カブトムシが叫ぶ。

「起・承・転・結」


 勝彦は四コマの中を、流れるようにポーズを変えて移動しながら地面に落下した。

「どべっ⁉ (なんだ、今の?)」

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