第2話・虫だらけの虫異世界転移……宿題なくて最高!
パソコンのスケルトンカバーで、メタバースな虫異世界のコトを学び直した勝彦に、人間の頭にもどった女性教諭が言った。
「どう? 虫異世界のコトわかった?」
「なんとなく……オレ、あっちの世界に行かなくちゃいけないんですか?」
「虫異世界の高校に入るためにわね、学校の方には長期の受験休みに入るって届けを出しておくから……家に帰ったら、いつ異世界転移してもいいように。持っていく荷物まとめておきなさい……それから、一つ言っておくけれど」
カミキリムシの触角が、ツインテール髪のような女性教諭が念を押すような口調で言った。
「あちらの世界では、こっちの学校の宿題は免除してあげるから」
「やりぃ! 宿題やらなくて済む……異世界最高!」
「その代わり、スマホとかゲーム機の電子機器の類は、全部こっちの世界に置いて行きなさい。
持ち込んでも電気無いから充電とかできなくて、使えなくなるから……乾電池も電気無くなったら、売っていないから」
「えっ! まだ、電気通じていないの? 小学校の夏休みで田舎に遊びに行く感覚だった時から変わってないのかよ……じゃあ、異世界に行くのやめ……」
バチィィィィッ!✕2
イナゴ頭から人間の頭にもどった、母親と女性教諭のWハリセンが勝彦の、空っぽの頭に炸裂する。
「いてぇ、暴力母親と暴力教師」
鼻息も荒く、母親がアホ息子を叱咤する。
「勝彦! あなた、異世界に遊びに行くんじゃないのよ! だいたい、異世界なんて年中キャンプしているようなもんよ!
あんな不便な世界、母さんだったら絶対行きたくないわ。コンビニとかファストフード店ないんだから。ついでに、異世界は花粉アレルギー体質の人間には転移すると……厳しいかも知れないわね」
女性教諭も母親の言葉に同調する。
「二刀流で活躍している大リーガーだって、大きな声では公言しないけれど。人知れず黙々と日々の練習を続けてきて、目に見える成果を出しているんだからね……異世界に行っただけで秘められていた力が覚醒して、無双? つえぇぇ? アホか!」
女性教諭は、机の引き出しから引っ張り出した、数冊の異世界ラノベや異世界コミックを床に叩きつけた。
なぜか、母親と女性教諭がハイタッチをする。
女性教諭が、両目が横線半点目になっている勝彦に言った。
「勝彦くんは、先に家に帰って異世界に持っていく荷物まとめていなさい。先生とお母さんは、もう少し話しているから」
「了解っス、中二は好き勝手に行動する……これでいいのだ」
部屋から勝彦が出ていくと、母親と女性教諭は大きなタメ息を漏らした。
「勝彦くんの、お母さんも大変ですね……はぁ」
「いえいえ、あんなアホ息子の相手をしてくださっている先生の方こそ、頭が下がります……はぁ」
「やっぱり勝彦くんを、虫異世界に転移させるには。あの方の力に頼りますか」
「そうですね、『ちっちゃい、メキシカン
自宅にもどった勝彦は、食卓でお茶を飲んでいるアルファ種虫人の父親を見て言った。
「父さんはなぜ、トノサマじゃないんだ?」
「なんだ、帰ってくるなり、いきなり?」
体の一部が、常に昆虫の形態をしている。
尖った頭のショウリョウバッタ男の父親が、
「仕方がないじゃないか、父さんは虫異世界から来たんだから」
「学校の友だちに父さんのコトを説明するのに、ショウリョウバッタを説明するの大変なんだよ! 『あの、頭が尖ったバッタ』って説明するのが、恥ずかしくて……どうして父さんは、トノサマバッタじゃないんだ!」
湯呑みをテーブルに置いた、父親が少し厳しい口調で息子の勝彦に言った。
「反抗期の勝彦、ちょっとそこに座りなさい」
勝彦が椅子に座ると、父親の説教がはじまった。
「いいか、勝彦……父さんはバッタだ。それは変わらない事実なんだ、どんな種類のバッタでも、父さんは父さんなんだ! 現実は受け入れなければ!」
「何が言いたいの?」
「えーと、とにかくな……父さんだってトノサマバッタに生まれたかった、でもショウリョウバッタを漢字で書くと【
「意味わかんねぇ……父さんオレ、近いうちに虫異世界に転移して。マンガ専科の受験修行するから」
「そうか、勝彦は、虫は好きか?」
「嫌いじゃないけれど……小学生の時は、虫捕まえて遊んでいたから」
「だったら、虫異世界はワクワクじゃないか、毎日楽しいぞ……たぶん」
父親は壁に掛けられている、マダラカマドウマの写真を眺める。
「あっちの世界にいったら、田舎の便所で跳ねている──おじいちゃんに、よろしくな」
そう言って、父親は飲みかけのお茶を飲んだ。
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