平成後期
「いいか、
「…………」
「だから、気軽にエロいものを手にすることが出来なかったんだ。エロ本が捨ててありそうな場所を巡ったものだ」
「…………」
娘の梓は俺に蔑みの視線を送る。
「楽して、エロいもんを手にしようとしたから、こんなトラブルに巻き込まれるんだよ」
「…………ワンクリック詐欺に引っかかるようなサイトを見ていたことは反省するよ。でも、パパの言っていること、おかしいと思う」
梓は反論してきた。
これが反抗期、ってやつなのか。
「まったく、今の子は道端に捨てられたエロ本に魅力を何も感じないのだろうな。パパはな……」
「あなた、なに、娘にセクハラしているの!」
俺は妻に頭をパーン、と叩かれてしまった。
「何を言っているんだ? 俺は真剣に……」
「だとしたら、もっと問題です!」
妻は俺に迫ってきた。
如何わしいサイトにアクセスして高額な請求をされてしまった、と梓が俺と妻に言ってきたので、現在、俺は娘の説教をしていたところだった。
なのに、なぜか、俺が妻から怒られてしまう。
「あの、パパ、ママ、こういうのってどうしたら良いの?」
梓は不安そうに言う。
「無視でいいじゃないのか?」と俺は軽い口調で言う。
「だ、大丈夫なの? 振り込まないと延滞料金がかかるって……」
「そういうのも気にしなくていいから。こういうサイトは大体、言っているだけだよ。俺も若い頃はワンクリック詐欺によく騙された。全部、無視したけど、全然大丈夫だった。ウイルスに感染もしてないみたいだし」
俺が説明すると娘は安心したようだった。
「ごめんなさい」と梓は謝る。
「でも、娘からこんな相談をされるなんて、驚いたな。クラスメイトとかに聞けば、同じような目に遭った子がいたんじゃないのかな?」
何しろ、今は子供がスマホを持っている時代だ。
こういったトラブルは身近な気がする。
「相談できる友達なんていないよ。みんな、私を特別扱いするし……」
梓の表情は何だかとても懐かしかった。
昔、見た気がする。
娘の梓は中学校で生徒会長をし、女子野球部のエースとして全国大会へ出場、勉強の成績も良い。
遺伝なのかな。
「な、なに?」
妻に視線を移すと動揺していた。
「いやさ、懐かしいな、って思ってね」
「なんのこと?」
妻はフイッとそっぽを向く。
今日は親の俺たちにすら、隙を見せない娘の意外な一面を見れた。
「私もママにとっての、パパみたいな人が現れないかな」
問題が解決し、心に余裕ができたのか、梓は笑いながら言う。
妻に似て、娘も切り替えが早い。
エロいサイトを見ていたことを親に知られるなんて、俺だったら、死にたくなる。
「どういうこと?」と妻は首を傾げる。
「廃墟の廃車のトランク」と梓は口にした。
「な、なんのこと?」と妻は動揺を隠しきれずに声が震えた。
「だって、ママとパパの出会いは廃墟でしょ。そこでエッチな本について、語り合ったんでしょ?」
「あなた、娘になんてことを教えているの!?」
妻の元栗林さんが俺に迫った。
「落ち着くんだ。俺は言っていない。言ったのは君さ」
「えっ? 私? いつ、そんなことを……」
「この前の結婚記念日の時」
俺が言うと妻は「あ……」と声を漏らす。
妻は結婚記念日で浮かれて、お酒を飲み過ぎた。
泥酔した妻は俺と出会った『あの廃墟』の出来事を娘の梓に話して聞かせてしまった。
梓がぐったりとした表情で妻の話を聞いていたのを覚えている。
両親の馴れ初めがエロ本だった、と聞かされるのは娘として地獄だろう。
「梓、ママの話は忘れなさい」
「どうして? 中々、いないと思うよ。エッチな本がきっかけで結婚までした人たちなんてさ」
梓は完全に妻をからかう口調になっていた。
「やめなさい。あれはママの黒歴史なの。あなたからも何か言ってあげてよ」
妻は俺に加勢を求めた。
「しょうがないな。じゃあ、ママの好きなシチュエーションについて……」
「娘になんてことを教えるつもりなの!?」
俺はまたパーン、と頭を叩かれた。
「何か言って、と言ったのは君だろ」
「そうだけど、そういうことを言って欲しかったんじゃない! それをしゃべったら、離婚するから!」
「えっ、なになに? そんなに特殊なものなの? もしかして、SM、とか?」
梓は興味を示す。
「いや、それは一番じゃなかったな。一番は……ぐえっ!?」
俺は妻に首を絞められる。
「言ったら、離婚! って言ったでしょ!」
「ママがそんなに焦るなんて珍しい」
梓は笑っていた。
多分、妻も本気では怒っていないだろう。
現在、エロ本で繋がった俺と妻はこうやって楽しい家庭を築けている。
【短編】才色兼備・品行方正の生徒会長、俺が集めたエロ本を物色する 羊光 @hituzihikari
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