容姿端麗で世話好きの女神の様な幼馴染みは俺のことになると滅茶苦茶めんどくなる件。〜俺に対してめちゃ甘だけどめちゃくちゃ嫉妬深い!〜
社畜豚
第1話
俺、吉川冬樹は『羨ましいやつだな』とよく言われる。
理由はただ一つ。
学校でも1番の人気を誇る司波いすずの幼馴染みだからだ。
隣の家であることから付き合い歴17年の仲。
見た目はロリ可愛、しかし中身は世話焼きのお姉さん系。コミュ力も高いし、背も低くてちょこまかと動き、表情が面白いほどコロコロと変わる。
何でも話せて、気さくで、俺のことを理解し、受け入れてくれる。
容姿端麗で男女ともに友好関係が広い自慢の幼馴染み。俺にとってはかけがえのない大切な人であり、家族のような女の子。
優しくて、滅多な事では怒らなくて不機嫌になることもない。それが司波いすずだ。
そんな彼女とずっと一緒にいるのは「幼馴染みの特権」だろう。
しかし、それはあくまで一部分しかない。
「実はこの前ね、男子生徒の先輩から告白されたんだけど……」
晩御飯を食べている最中、いすずがそんなことを言い出した。
ああ、確か結構話題になっていたなぁ。
顔はアイドルやれそうなくらい甘いマスクを持っていて成績優秀スポーツ万能とかなりハイスペックな人だと噂では聞いた。
そう、いすずはモテる。かなりモテる。
告白されるのは特に驚くことではなく、あーまたねってくらいには俺も聞き慣れている。
「まぁ、いすずはモテるからな」
「………………」
「それに聞いた限りだとすごい完璧超人みたいだし……よかったじゃん。そんな完璧先輩に告白されて。幼馴染みである俺も鼻が高いよ」
「……………」イラッ
あれ? なんでちょっとイラっとしてるの? なんか変なこと言ったけ……
「そうそう、そういえば告白された時ね。よかったら今度二人っきりでに遊びに行かないかって言われたの」
「……つまりそれはデートに誘われたってコト?」
「まぁー? そういうことになるのかな〜?」
「……いすずはしたいのか? その先輩とのデートを」
「うーん。デートというものに興味がないと言われると嘘になるかも……フユはどう思うの? 私はデートしてもいいのかな?」
何かを期待するような表情でいすずはこちらを見る。
…………ふむ。なるほど、いすず。お前の気持ちがわかったぞ!
俺だって伊達にこいつの幼馴染みを17年間していたわけじゃない。
言葉を用いずともある程度の意思疎通は出来る。
そう、俺といすずならね。
「わかった……いすずがその先輩とデートできるように協力するよ!!」
「!?」
「いや、いすずが言いたいことはわかるよ……毎日俺の家に晩御飯を作りにきていたら放課後デートする暇なんてないもんな……その日は自分達頑張ってみるーー」
「ッ!! もういい!!」
バンッ!! と机を叩きながら立ち上がる。
「!?」
思わずビクっと体が跳ねる。
「フユは本当に……っ。いや、何でもない!! もう知らない!! ふん!」
「えっ? えっ?」
困惑している俺をよそにいずすはそっぽを向きながらリビングから出て行った。
「………………」
ポツンと一人リビングに取り残されてしまった。
何で急にキレたんだいすずのやつ……何か気に触ること言ったか?
理解のある幼馴染みの振る舞いができていたと思うんだけど。
「一体どうして……?」
「やれやれ、本当に鈍ちんだな。この愚弟は」
「ね、姉ちゃん!!」
声がした方を向くとそこにはやれやれと言わんばかりの表情をしたお姉ちゃんが立っていた。
おそらく生徒会の仕事を終え、今さっき帰ってきたのだろう。
「ど、どういうことだよ!? 俺は理解ある幼馴染みとして正しい行いをーー」
「理解できてないからこんなことになってるんでしょうが!!」
「痛ったい!!」
俺の反論を許さないかのようにお姉ちゃんの強烈なビンタが襲いかかってきた。あまりの衝撃に俺は倒れ込む。
「わかってないようだから、教えてあげるけどさ」
涙目になりながら頬を押さえる俺を見下しながらお姉ちゃんははっきりと言った。
「いすずはあんたに嫉妬して欲しかったんだよ」
「はぁ!?」
「具体的に言うと『はぁ!? 俺のいすずが高校生のガキとデートォ!? ふ ざ け る な!! 甘いマスクかなんか知らないが調子の乗ってんじゃねーぞ! このヤ○チン野郎が!! デートなら俺とすればいいだろうがぁ!? いすずは俺ものだ!! 俺だけの幼馴染みだぁ!! 誰も手を出すなァァァァァァァ!!』 って言って欲しかったんだよ」
えぇ〜…………
「嫉妬って……俺、恋人でも何でもないただの幼馴染みなんだけど」
「幼馴染みであるあんただからこそ、いすずは嫉妬して欲しかったんだよ」
め、めんどくせぇ〜……
「本当にいすずのことを大切に思っているのなら、いすずの希望通りに嫉妬してあげたら? そうしたら機嫌も良くなるだろうし」
「……えー」
「これは、冬樹にしか出来ないことだと思うけど?」
姉ちゃん…………
「じゃあ、一つ聞くけど。恋人でも何でもない女の子が他の男とデートしようとしただけで嫉妬で怒り狂う弟を見たらどう思う?」
「キモ過ぎて即縁切る」
「ほらぁ!!」
「あーうるさいうるさい。いすずの機嫌が直らなきゃ晩御飯作る人居なくなるでしょ。そんなの死活問題じゃん。だからさっさと仲直りしてこい」
「結局自分のことしか考えてないじゃん!?」
「はいはい、ゴーゴーゴー!!」
ゲシゲシと蹴られながら階段を上がった。
いすずが今いる場所はどうせここだろ?
俺が開けたのは自分の部屋の扉だ。
……やっぱり居た。
扉の先にはむすっとした表情で布団に潜っているいすずの姿があった。
「……出て行ってよ」
俺が入ってきたのを気づいたのかそっぽを向きながら不機嫌そうにいすずは言った。
いや、ここ俺の部屋なんだけど、そこ俺のベッドなんだけど。
そう言いたかったが、心の中だけにとどめ、ベッドの前で正座した。
「あの……いすずさん。話だけでもいいので聞いてもらえませんか?」
「……なに?」
こいつの善人さのおかげか、不機嫌であっても一応、話は聞いてくれる。
「さ、さっきの話なんだけどさ。その……デートの件。やっぱり行かないで欲しいかなって……」
「えっ」
行かないで欲しいと言った瞬間、そっぽを見いていたいすずがこちらを見た。
「……何で?」
「えっ?」
「何で?」
「えっと、その〜いすずが……お、俺以外の男と一緒にいるのは嫌というか……お、俺がいるんだから、その〜デートなんか俺をすればいいだろ? 的な」
「………………」
う、まだ足りないのか?
「い、いすずは……お、俺だけの、お、幼馴染みで……お、俺のもの……だからぁ」
し、死にたい……なんだこの情けないセリフは……恥ずかし過ぎて過ぎて涙が出てきた。
「つまり、フユは嫉妬してるの?」
「……そうなんですかね」
「うん。それは立派な嫉妬だよ? フユは間違いなく嫉妬してる。それだけじゃなくて私とデートもしたがってるよね?」
「…………………………してます。嫉妬してます。デートもしたい……です」
ど、どうだ……?
「ふ〜〜〜ん? そっかそっか♪ フユがねぇ〜♪」
うっわ……めちゃくちゃ嬉しそうな顔してる。
「まぁ? 別に? フユが心配しなくても断るつもりだったし? そこは安心してくれていいよ?」
「ア、ハイ」
「それにしても……付き合ってもいないのにデートに誘われたくらいでそんなに嫉妬するなんて……子供じゃないんだから♪」
「そうっすね……」
「しかも、しかもだよ? いすずは俺だけの幼馴染みって、俺のものだって! もう! 独占欲強過ぎ!」
プークスクスと笑ういすずは今年一番嬉しそうだった。
「嫉妬深い男は嫌われるよ? だからその醜態は私以外は見せない方がいいと思うな〜?」
そう言い残し、いすずはリビングへと戻って言った。
司波いすずは面倒見のいい性格で誰にでも優しく滅多に怒らないし不機嫌になることはない。
しかし、幼馴染みである俺に対してのみクソめんどくさくなる。
俺の言動次第でかなり拗ねる。かなり不機嫌になる。こうなると頑固で最悪1ヶ月くらい口を聞いてくれなくなるのだ。
そう、これも「幼馴染みの特権」なのだ。
こんな特権欲しくなかったけどな!
翌日
「ほんと、冬樹って羨ましいよなー」
何百回聞いたかわからないセリフを親友である哲彦から聞く。
「そうかー?」
そんな哲彦の言葉をプリントを書きながら聞き流す。
「だって、司波さんお前にだけはゲロ甘じゃん。距離も近いし、近過ぎてお前に司波さんの匂いがついてるもん」
まぁ、俺といすずの距離は肩が平気で触れ合うほど近いからな。実際に自分の匂いを俺に移すようにすりすりとしてくる事あるし。
「それに全く動じないお前は男ではない」
なんて失礼な事を言ってくるんだこいつは……
「……あいつはもう家族みたいなもんだから」
「出たよ……家族みたいなもん発言。何と言うか、それってさーある種の逃げなんじゃないの〜?」
逃げって何だよ逃げって……
「何の話してるの?」
哲彦と話していたらいすずがひょこっと声をかけてきた。
「んー? 俺とお前の距離が近いって話」
「ふーん? まぁ私にとってフユは幼馴染みであり、弟みたいなものだからねー」
そう言いながら後ろから抱きつき、俺の頭におごを乗せる。
「いすず……近い」
「なになに? 照れてるの? 可愛いところあるじゃん〜そういうところお姉ちゃん好きよ?」
照れてるんじゃない。周りの殺気がやばいからやめて欲しいんだよ。
「幼馴染みだからって調子に乗ってんじゃねぇぞ。ポコチンがぁ」
「……ロス」
「……っち」
え? ちょっと、待って。なんかハサミを舐め回しながらこっち見てくるやつがいるんだけど。
めちゃくちゃ怖いんだけど。
「それにしても、早く日曜日にならないかな〜? フユとのデートすごく楽しみ!」
「はっ?」
一瞬、クラスが静まり返る。
まるで時が止まったような。全身から血の気が引いていくのを感じる。
こいつ、爆弾どころか核ミサイル並みの発言を投下しやがったっ……!!
静まり帰った教室に授業開始直前のチャイムがなり響いた。
司波いすず視点
私は昔、自分の家が嫌いだった。
それは帰ったら誰もいないから。
お父さんが小さい時に天国へ行って、お母さんは夜遅くまで頑張って仕事をしてくれていた。
私を為に必死で働いてくれているお母さんは大好きだ。
……でも、誰もいない家に一人でいるのは寂しい。
でもそういう時、いつもフユがそばに居てくれた。
何をするでも、言葉をくれる訳でもないけど、お構いなしに居てくれた。
それに何度救われたことか。
「いすず姉最近、機嫌いいね? ふゆきちと何かあった?」
ふと従妹である沙貴がソファーで寝転びながら聞いてきた。
ちなみにふゆきちはフユ……幼馴染みである吉川冬樹のことだ。
「んふふー実は……フユとデートに行くんだ!!」
「へーよかったね。いすず姉から誘ったの?」
「違うよ〜フユくんが誘ってくれたの!」
「なるほど、そう仕向けたのか……」
何かとてつもなく失礼なことを言われた気がしたけど、気にしないことにした。
「ほんと、いすず姉はふゆきちのことが好きだねぇ〜」
「もう好きとか嫌いとか超越してるの。あれはそう……小学校の時、私が一番辛かった時期ーー」
「あっちゃーそこに繋がっちゃたかーもういいよ。その話。20回は聞いたもん」
「フユはいつだって、そばに居てくれてーーー」
「うん。ハイ。そうね。あ、ちなみになんだけど。もしふゆきちにプレゼントをもらうなら何がいい?」
スマホを見ながらいきなりそんなことを言い出す。
え? うーん。そうだな……正直、フユがくれるのなら何でも嬉しいけど……今欲しいのは。
「……指輪?」
「うわ、重い」
「ちょっと!? 重いとか言わないでよ!」
だって、だって! 欲しいんだもん!! 夜景が見えるところでこうパカっと小箱を開けるとそこには指輪があって、真剣な表情でユフその指輪をくすり指に……
「きゃー!!」
「あ、だめだ……これはしばらくは帰ってこないやつだ。え〜週末なら大丈夫っと」
そう言いながら沙貴はスマホを弄っていた。
冬樹視点
「フユ〜? ちょっといいかな? かな?」
現在、放課後。
教室で緊急事態が起こっていた。
ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたまま、いすずは負のオーラを発している。
一見普通の笑顔のように見えるが、俺にはわかる。張り付いた笑顔の裏にある怒りを。
レベルと言うとムカ着火インフェルノといったところだろうか。
教室内の視線が集まる。
「あのねー? 私、日曜日のデートすごく楽しみにしてたんだ〜? 延期になっちゃたけど?」
「は、ハイ」
そう、実は日曜日のデートは訳あって今日に延期してもらったのだ。
幸い、明日は祝日だったのでゆっくりとできるということで学校が終わってから。ということになっていた。
「別にさ? 延期はいいんだよ。急な用事は仕方ないし……でもね?」
スマホを取り出し、いすずはある写真を見せてきた。
その写真は俺といすずの従妹である沙貴が一緒にパフェを食べている写真だった。
…………ヤッベ。
「これ、日曜日だよね?」
「ハイ……」
「急用って沙貴とおデートすることだったんだ〜? へ〜? ほ〜?」
ひぃ! 目のハイライトが、ハイライトが無くなってる!!
教室中の視線が敵意ある視線に変わった……!!
く、ここで出すのは嫌だが……出さないと終わる!! 俺の命が!!
「実は……これ! 買いに行ってたんだよ!」
即座に鞄の中から袋を出す。
「え、これ……プレゼント?」
「本当はデートの最後サプライズで渡すつもりだったんだ。沙貴はいすずの従妹だろ? だから、その……色々とアドバイスをもらった」
「あ、え? そ、そうだったんだ……開けても……いい?」
「いや、俺が開ける……」
袋をから小さい箱を取り出す。
プレゼントはこの箱の中だ。
「……な、何だか。ゆびーー」
「もらってくれるか?」
いすずの言葉を無視して小箱を開けた。
「!? これ……指輪……?」
「ああ、そうだ」
「え? え? え? これって……? どういう意味の?」
「意味なんて一つしかないだろ? これは俺の……(日頃の感謝の)気持ちだ」
「!!??」
「「「「!!??」」」」
一気に教室がざわついた。
デートをするなら日頃お世話になっている感謝の気持ちにといすずに何かサプライズプレゼントをしようと思っていたのだが、その相談を沙貴にしたらやけに指輪にするべきだって主張してきたので言う通りにした。
まぁ、これはファッションリングなんだけど。
「……いすず。ちょっと手を出してくれ」
「え? う、うん」
えっと確か指輪をはめる時は薬指以外ありえないって沙貴が言ってたっけ?
沙貴の言う通り、ファッションリングをいすずの薬指にはめる。
「よかった。ちゃんとはまったな」
「〜ッ!?」
いすずは驚いた表情をしながら顔を真っ赤にさせる。
とりあえず、装着できることが確認できたので、指輪を小箱に移して袋の中に入れてカバンにしまった。
先生にこんなもの見られたら没収されるからな。
いや、でもよかった……沙貴の言う通り何かあった時の為に持ってきておいて。
「お前……まじか? そこまで司波のことを想って?」
哲彦は呆然としながら俺に話かけてきた。
いや、そこまでって……
「言っただろ? 俺にとっていすずは家族(のような存在)だって」
「……そ、その言葉にはそれほどの重さと覚悟が込められていたんだな……すいませんでした……俺の理解が浅かったです」
何を言ってるんだこいつは?
なぜか送られる拍手大喝采。
なんだこの盛り上がりは? ただの日頃のお礼としてファッションリングをプレゼントしただけなのに……
「うっ……ひっく……うぇぇん」
「ど、ど、どうしたいすず!? い、嫌だったか!?」
「ちが、ちがくってぇ……嬉しくてぇ……これ夢じゃないよね?」
号泣しながらほっぺたを引っ張るいすずさん。
「うぇへへ……いたいぃ」
なんで痛いのに喜んでいるんだ?
困惑を隠せないまま、いすずが泣き止むのをまった。
「えっへへ〜♪」
デート中、自身の薬指にはまっている指輪を眺めながらニコニコとするいずすを隣で見ていた。
そんなに学校を出た瞬間、はめるなんてよっぽど欲しかったんだろうか?
「嬉しそうだな」
「そりゃもう!! とっても嬉しいよ!! でも、ちゃんとしたものを買う時は、その……一緒に買おうね? 二人で決めたいから……」
ごにょごにょしながら言ういすずに疑問符が浮かんだ。
ちゃんとしたもの? なんのことだ? まぁいいや。とりあえず頷いておこう。
「でも、これは……一生の宝物にするね!!」
そう言いながら笑ういすずを見て、買ってよかったと心から思うのであった。
この笑顔を隣でみれるのはきっと「幼馴染みの特権」だ。
容姿端麗で世話好きの女神の様な幼馴染みは俺のことになると滅茶苦茶めんどくなる件。〜俺に対してめちゃ甘だけどめちゃくちゃ嫉妬深い!〜 社畜豚 @itukip
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