第5話 もうどうにでもなれ
事故チューから二週間が経とうとしている。
あれから日南くんには会っていないし、連絡先も知らない。相も変わらず、僕は平凡な高校生ライフを単調に過ごしていた。
「ねえ、ねえ。紬くん。ねえっ」
「あっ、ごめん。どした横尾くん」
「……なんだか最近上の空だね。なにかあった?」
ギクッ
なにかあった、程度の言葉では収まらない出来事が僕の胸に引っかかっている。
これを出会って二年にもなる横尾くんに話すわけにはいかない。
逆に話すとしてなんて切り出せばいいのだ。
『僕、マッチングアプリやってて待ち合わせしてたんだけど、間違えて違う人に声かけちゃってさ〜』
『話してたら意気投合して、その人の家に行ったんだ。そしたら事故チューしちゃって』
『僕のファーストキス取られちゃったよ〜参った参った』
言えるわけがない!
「い、いやあ~別になにもないよ。なんともないさっ」
「ほんとに〜?」
「うっ……うん」
横尾くんに嘘をつくのは、ものすごく心苦しい。けれどこれも僕の威厳のためなんだ。仕方ないんだ。
「あっ、そういえばこの前日南先輩とご飯に……」
「日南くんっ!?」
「う、うん。先輩が『どう?』って誘ってくれて行ってきたんだ」
……それだけ?僕のこと、なにか横尾くんに話したのだろうか。アプリのこととか、そのあとのこととか。ぐぬぬ、気になる。
もし話していたのだとしたら、横尾くんは僕のことをどう思っているんだろう。幻滅、したかな。それをわかったうえで「なにかあったの」なんて聞いてきたのだろうか。だめだ、疑問が尽きない。
「その、日南くんから……日南くんとなにか話した?」
「えっうん。話したよ。中学時代の話とか、この前のこととか」
この前のこと!?
このまえのことって、このまえのことだよな。というかこの前っていつのことなんだ。この前って。
……だめだ、思考が巡らず頭がパンクを起こしている。ここは素直に聞こう。
「こ、この前のことって」
「ああ、久しぶりに会ったときのことだね。紬くんのことも話したよ。」
「えっ、僕のこと」
うっわ。やばい。何を話したんだろう、僕のこと?こんな盲信で嘘つきなやつのこと、話すような価値なんてないと思うのだけどなあ……
「日南先輩、紬くんのこと好きみたいだよ」
「そうなんだ」
そうなんだ。
……えっ、そうなんだ!?
遅れて言葉の意味を理解し始めて、思わず伏せがちな顔をガバっと上げた。
そこにはニヤニヤした表情で、いかにも笑いを堪えている横尾くんがいた。
「えっ、な、なにどういうこと?!日南くんが……えっ」
「なにって言葉の意味そのままだよ。先輩、紬くんのことを相当気に入っているみたいだよ」
「……まじかぁ」
「まじだあ」
頭が良く、いつも穏やかで冷静な横尾くんがニシシと笑う。
好きって、えっ。好きかぁ……好き。
たった二文字の言葉にこんなにも胸が暖かくなる魔法がかけられてるなんて、思ってもみなかったな。
「これからも友達として仲良くしていきたいってさ」
「えっ」
”友達として”
やけにその言葉が引っかかった。
あっそういう”好き”なのかな。loveじゃなくてlikeの方だったのかもしれない。
そういうこと?
「あ、そうなんだ。友達が増えて嬉しいよ……」
無理やり喉に空気を押し込んで、ふっと笑った。
そうだよな。あの事故チューも普通に男とだったら嫌だよな。
「ねえ、よかったら三人で温泉に行きませんか!」
「うん……ん?」
さっきと変わらない表情で僕に笑顔を向ける横尾くん。オンセン?
「これもまた縁だし、せっかく仲良くなりはじめたんだから遊ぼうよ!」
「え……ちょっと───」
日南くんとあんな感じで別れたのに、それは気まずい。
何か取ってつけたような理由を探さなくては、と考えている隙に横尾くんがスマホをポケットから取り出して耳にあてる。なんか嫌な予感……
「あ、もしもし。先輩?今度の週末紬くん連れて、温泉に行きま……っはい。じゃあまたあとで」
「ねえ、待ってよ。まだ行くって言ったわけじゃ───」
「はい、けってーい!たっぷり遊ぼうね」
早くねっ!?
そして日南くん、多分即決だよね……い、行きたくない。
「遊ぼうね」
「……はい」
こ、こんあ横尾くん初めて見るよ。目が、目が笑ってないよう。怖いよう。
そうこうしてるうちにお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。パラパラと人の集まりが
僕らのLOVEは恋より難し 九重いまわ @nikibi
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