第4話 そんな不揃いを

saido 日南


俺は恋愛とかあんまり分からない。

いつの日か元カノに言われた言葉を今でも鮮明に覚えている。


『ごめん、なんか想像と違ったわ』

『え、なに、それまじの夢?冗談やめてよw』

『ちょっとむりだわ』


高校の頃からあまり人と関わるのは得意じゃなかった。頑張って輪に入るのも、無理に笑顔を作ることも何も知らないし、できない頃の俺だったから。

いつも教室でひとり、本を読むだけ。

本当に読んでいるわけじゃなくて、フリね。

なにもすることがないから。”本を読んでいるから”ひとりなんです、っていうレッテルを貼ってほしかったから。

そんな様子が一部の女子にはかっこよく見えてくれたのか、放課後に告白してくれる子も珍しくなかった。でも、すぐにお話が得意で賑やかな男の子のところへ行っちゃった。


大学に入ってから変わろうと思ったのは、なんとなく?

長かった髪を雑誌で見るような俳優みたいに短く切って、猫背を無理やりに伸ばして息を吸った。

全部、なんとなく。

嫌いだった本もなんとなく好きになっていた。なんとなくに身を任せていればなんとかなる。そう思って頑張って輪に入ったし、無理に笑顔を作った。それができる俺になっていたから。

そしたら今度は元の俺を伝えることができなくなっちゃった。


「日南って夢とか将来ってイメージじゃないよね」

「ええ、なにそれ?」

「ああ、それわかる。いつかころっと大物になってそうな雰囲気でしょ。実際遥斗も夢とか語らなそう」

「お前の周りだけ、なんかふわふわしてるもんなあ」

「ええ!そうかな?でも俺、夢あるよ」

「まじか!言ってみてよ」

「……えっとね小説家って」

「まじ?遥斗があ?笑えるんですけど」

「それな!え、それで、ガチの夢ってやっぱない感じなんだ」

「あ、……そう、そうなんだ。そろそろ二年になるし決めなきゃ大変だよね」


もう、色々と限界だったんだ。

そんなときに現れたのが、君だった。



✧ ✧ ✧



「ゆるゆるドS会社員さんですか?」

「……は、はい?」


探るような瞳の真面目そうな人に話しかけられた。

お、俺か?

というか、今なんて言ったの。


「ベージュのパーカーに青いスニーカー。うん、昨日メールで送ってくれたどおりの服装ですね。ゆるゆるドS会社員さんで合っていますか?」


昨日メールで?

そんなメールなんて来てなかったと思うんだけど……

スマホの履歴を確認しようかと思考がよぎると同時に、一つの推測が浮かび上がった。

(多分だけど、誰かと俺を間違えているのかも)


「……あなたは」


「あ、先に僕の名前ですよね!すみません、そういうの至らなくて。やっぱりマッチングで会うってなると先に名乗らないとわかんないですよね。僕の名前はつむつむです」


嬉々としてポワポワした雰囲気だけど、俺にはわかる。

きっとこの人も今のこの瞬間が精一杯なんだ。どんな容姿をしている誰と勘違いしているのかはわからないけど、その違いに気づけないほどにこの人も頑張って笑っているんだ。


そう思うと、なんだか胸が焼けたように熱くなった。


「……あ、あの、やっぱり今日はお開きにしますか?」


この人のこと、もっと知りたい。

この人の気持ち、わかるような気がするよ。

もっと知りたいよ。


「行く。行こう、つむつむさん」


気づけば彼の手を強く握っていた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

突然すみません、作者です。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

更新頻度が遅くてなかなかお話が進まず、すみません…

ハートや作品のフォロー、大変励みになっています。

次回の話からは、また紬くん視点になります!

では、失礼しました

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