鍛治職人イサク

脇野オズ

鍛治職人イサク(1話完結)

魔術武器専門鍛冶屋【ニジマチ鍛冶屋】

王都の端に位置するこの鍛冶屋には国1番の鍛冶職人ザグロという老人がいる。

一人ひとりの魔術量を見て、その人に適した武器を生成する技術で右に出るものはいない。

ただ、この世界で武器を使うのは基本的に魔術節約の為だ。

魔術を使用しながら戦う魔術武器使いは少数しかいないのが現実である。


そんな場所にある日、1人の青年が訪れてきた。


カンッカンッカンッカンッ

カンッカンッカンッカンッ

「失礼します!!」

鉄の打つ音が響く中、負けないくらいの大声でそう叫ぶ。


カンッカンッカンッカンッ

「悪いな、今日の予約は埋まっとるぞ」

カンッカンッカンッカンッ

「失礼します!!」

カンッカンッカンッカンッ

カンッカンッカンッカンッ

「しつれいします!!!」


「うるさいわボケェ!!!聞こえとるわ!ドアの張り紙が見えんのかぁ!」


ーーー予約受付終了ーーー

その張り紙のドアを開いて来たんだから見えている筈だろというのがザグロの言い分だ。


「あっ、聞こえてた。ザグロさん初めまして!貴方の弟子にして下さい!」

受付のカウンターまで来て、いきなりそう叫ぶ青年にザグロは溜息を吐いた後に1度作業の手を止めて歩み寄る。

「今弟子はとっとらん!!これからも取る気はねぇから帰れ!!」


「嫌です……!」


「ハ?」


「あなたの弟子になるまでここを動きません!」


「だからな、もう弟子は取っとらん。お前さんみたいなのがたまに来るが毎回断っとんじゃ」


「それでも!」


「無理じゃ!!……一人前に育てるには最低でも3年はかかるが、わしはあと1年程でこの仕事から引く……他にも優秀な鍛冶屋は沢山ある……悪いな」

口元の笑みとは裏腹にその眼は鋭く、そして真っ直ぐに青年に向けられていた。


そう言ってまた鍛冶場に戻ろうと後ろを向くと青年が顎を下げて歯を食いしばった。

「ダメなんですここじゃなきゃ」


「ラドルフ、外まで付いてってやれ」

「はい」

ラドルフはザグロの元で修行している弟子だ。

特に水属性の上級武器の精錬を得意としていて、その腕はザクロも既に認めている。


「君ごめんね、ザグロさんは1度決めたことは曲げないんだ」

青年の肩に手をやるとラドルフは直ぐにその違和感に気づいた。


(これは……!?)


「あの時の恩を返すんだ……」

青年は語り出した。


ーーーまだ齢5の時、青年の住む村が盗賊に襲撃された


村には魔術学校を卒業した者もいたが、それは穀物の発育促進魔術だったり、病気の治療魔術などを履修した人で戦闘経験があるものなどいなかった。


そんな村の人間が実戦経験豊富であろう盗賊から身を守る術などない。


【各地区には何か異常が発生した時の報告係として国が派遣した軍隊員が最低3人おり、さらに魔術石で作られたタイルが外部の侵入時に警告音を発する警備体制を取っている】


その日、そいつらは周りにいた軍隊員を音も立てずに次々と殺し、警告音も気にせずにズカズカ乗り込んできた。

目的は売り物になる体つきをした女と労働力として調教しやすい男児、そして皆が汗水だしながら働いて貯蓄した穀物。


盗賊は逃げ惑う人々を脅しながら1箇所に集めてリーダーと思しき人物が口を開く。


「俺達はフィリッド盗賊団だ。国軍が来るまでに立ち去りたいから耳かっぽじってしっかり言うこと聞けよ。ここに溜め込んでる穀物は全部頂く。それと今から選別した者は一緒に付いてこい」


「もし、抵抗するものがいた場合は……皆殺しだ」


その言葉に村人一同慄く


「それじゃ、手っ取り早くやりますかと」


「何をしているんだ!」


その声に盗賊も村人も同じタイミングで目を向ける。

「てめぇ誰だ!お前ら軍隊員3人如きもやれねーのか!!」

「兄貴違うっす!こいつは3人いた隊員の誰でもねぇす!」

「おかしいな、今日は3人って情報が入ってたんだけどな。でお前誰だ?」


「俺はカトリヌ地区隊所属!訓練生の…」


「訓練生だ?ハッハッハッハッ!笑わせる。そうか、今日はお前の訓練も兼ねてたから1人多いのか。お前の上に当たる国軍隊員様はもう全員殺っちゃったよ。お前も死にたくなければ回れ右してどっか行け!……まぁ矢には気をつけろよー」

「ハッハッハッハッ」

「ハッハッハッハッ」


笑う盗賊の声が周囲に響く中、その訓練生は静かに背中の剣を抜いた。


「なんだ剣聖魔術師志望か?でも悪いが反抗するなら……殺すぞ」

リーダーのその言葉と同時に周りにいた取り巻きの片手に風が纏い、一斉にその訓練生に襲いかかる。

怖くてよく分からなかったけど4、5人はいたという。


「ヒャッハー!!」


もうダメだ……当時の青年も含め村人の誰もがそう思い、目を瞑った刹那だった……


あれ……?


先程まで勢いよく飛びかかっていた筈の取り巻きが剣を構える訓練生の周りで煙を出しながら倒れている。

それを見向きもせず、盗賊のリーダーを炎炎とすべてを飲み込むか如き目で一直線に凝視していた。


「今すぐこの村から立ち去れ」


「貴様ぁ…」


そういうと怒れるリーダーに呼応するかのように地面からふつふつと水滴が出てきてそれはクナイの様な見た目に変形し、訓練生に標準を合わせていた。

すると盗賊の取り巻きの1人が慌てた口調でリーダーに近づく。


「リーダー!ここで戦闘している間に国軍が到着してまう!」


「チッ!!クソが!!」


するとクナイの方向は1箇所に怯えて集まる村人に変わった。その時当時の青年は盗賊団リーダーと目が合う。


「もう用済みだ、消えろ」


その言葉と共に水のクナイは弓のようにさらに細くなり、伸びきったところで同時に放たれた。

今まで見る機会もなかった攻撃魔術の絶望感に目を瞑ったところで気を失ってしまった。


次に起きた時には国軍の治療隊に保護されていた。

「あら、起きたのね」


「みんなは……?」


「無事よ。あなたみたいに魔術の衝突で発生した魔術片に当たって怪我をした何人かがここに運ばれてきているわ。でも全員軽傷よ」


「あの人は……?」


「あの訓練生の子ね、あの子があなた達を救ったのよ。国軍隊員がやられている以上本当は国軍への報告が先なんだけど、大した度胸だわ」


医療隊の人によるとその訓練兵は剣を地面に突き刺して盗賊と村人の間に炎の壁を出現させ、盗賊リーダーの繰り出した魔術を防いだらしい。その後盗賊は消えていったそうだ。


「でも一介の訓練生があの土壇場で上級魔術を地中越しに発動させるなんて考えたわね〜。あの子火属性の魔術使いだから、もし一直線に防ごうとしてたらあなたも大火傷だったわよ」


話によると剣聖魔術師は通常の魔術師より魔術発動の早さは劣るものの、その武器に元から宿してある自分の魔術と練り合わせ、高威力の魔術の発動に長けているという。


「……僕もあんな剣聖魔術師になれたらなぁ……」



ーーーーーー


「という話でして…」

顔を俯かせながら話を終えた青年。

「そうか…ってあれ?」

それを真剣に聞いていたラドルフは1拍子経ったあと冷や汗をかきながらザグロに目をやる。


「ふむふむ、そんなことがあったんじゃな……ってわし関係ないじゃろーがぁぁ!」


鍛冶場に響き渡るザグロの咆哮

何が起きたか分からず目を丸くする青年


「それってその訓練生が凄かった話じゃろーが!その訓練生みたいになりたいなら分かるが、そこからなんでわしの弟子になりたいになるんじゃボケェ!ハァハァ……」


「あっ…その後その人に会いに行ったんです。なんでそんなに強いのか知りたくて。そしたらその人が言ったんです」


ーーーー

「国軍には俺なんかじゃ歯が立たない人達がいっぱいいるよ。んー、強いて言えばこの剣があるからなんだか自信が漲ってくるんだよね。まだこれを使うには俺の魔術は不十分なんだ。だからこの剣に相応しい魔術師になりたいんだ。でもそしたらザクロさんがもっと難しい武器作るんだけどね、ハハッ。あっザクロさんって人はね、レベリオ鍛冶屋の……」


ーーーー


「ハァ……なるほどじゃな……」


「あとザクロさん、さっきこの青年の肩に手を置いた時に気づいたのですが、彼からは様々な属性魔術を感じます。君、ちょっと腕捲ってみてくれないかい?」


「え、はい」


恐る恐る腕を捲るとそこには魔術片による痛々しい古傷と最近出来たであろう切り傷がそこにはあった。


「坊主、これはどうした?」


「あっ、これは……」


「魔術武器生成でやったのか?」


「はい……お金もなく学校に行けないので独学で色々練習してまして……ザクロさんに会う迄に少しでも技術をつけたくて」


ザグロは作業服も着ずにひたすら練習に打ち込んだであろうその傷を見ながら視線を青年の顔に向ける。


「坊主、名前は?」


「えっと、イサクです!」


一呼吸置いてから自分の持ち場へ静かに戻る。


「えっと、あの!」


「明日から扱いてやる……」


「えっ…」


「そんな魔術武器生成のやり方を続けてたら腕が使い物ならんくなるぞ。わしが扱いたる」


それを聞いたルドルフが青年の肩をポンッと叩いた。

「君、良かったね。これからよろしくね!」

青年は理解するのに時間がかかったが、その言葉の意味を理解し、目から溢れんばかりの涙が自然と湧き出してきた。

「ヒッグ…ごれから…よろじくお願いじます!!!」


鍛冶屋を出てから暫くラドルフが着いてきてくれた。

「驚いたよ。ザグロさんが今から初めての弟子を取るなんてね。あの人ああいう性格だから何十人も来た弟子希望者全員を大声で怒鳴っては渋々帰らせるんだ」


「鼓膜破れるかと思いましたもん……」


「でも明日から君もレベリオ鍛冶屋の仲間だ!何か分からない事があったら僕に相談してくれて良いからね!」


「はい!ありがとうございます!」




ーー翌日ーー


あの場にいなかったレベリオ鍛冶屋の仲間もイサクの最初の日を出迎えてくれた。

「今日からお世話になります!イサクです!精一杯頑張りますのでこれからよろしくお願いします!!」


「坊や、歳はいくつ?」

正に妖美な魔女という言葉がしっくりくる女性が長い脚を組み直しながら聞いてきた。


「あ…えっと…あの14です…!」

イサクはその女性の身体に魅了されてしまい、目を外すことが出来なくなっていた。


「んふ。そのくらいの年頃だと私はちょっと激しすぎたのかな?じゃあこんなのは…どう?」

そう言いながら胸元のチャックを下ろして豊満な上半身を露にしようとするとザグロが間に入ってきた。


「止めんかニカ!」


「そうですよ、今日から仲間が増えるのにふざけすぎです。あとザグロさんもまた鼻血出てますよ。」


ラドルフがそう続けてニカも不貞腐れながら服を直した。


「イサク君ごめんねって大丈夫!?……」


興奮して放心状態のまま後ろに石像の如く倒れる


「あの〜大丈夫ですか〜」

心配そうに上から見つめる少女…いや、天井に張り付くようにしてイサクを見ている。


「また遅刻か!!」

ザグロが鼻にちり紙を詰めながら怒鳴ると少女はふわっと降りてきた。


「ごめんなさい〜。途中で小鳥さんと話してたら遅れちゃった〜」


(カオス過ぎる……。念願のレベリオ鍛冶屋の仲間になれた筈だけど本当にやって行けるかな……)


5分後


「もう大丈夫かな?じゃあ次は僕達の紹介をするね」

ラドルフはそう言うと一人ひとりの紹介を始めた。


「先ずは国1番の鍛治職人ザグロさん。主に火属性の武器を専門にしているけどその技術は他の追随を許さないほど洗練されていて、」


「こっちはニカ。風属性の武器を担当してるよ、見た目からは想像出来ないかもだけどかなりの腕前なんだ」


「そしてクロナ。この国で最年少の光属性の鍛治職人なんだ。光は回復武器も兼ねててかなり複雑なんだけどどんな要望でもこなせちゃう天才肌」


「で、最後に僕がラドルフ。水属性の武器を専門にしているよ。改めてようこそ!レベリオ鍛冶屋へ!」


この日から僕の鍛冶屋ライフが始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「イサ坊、普通の武器と魔術武器の大きな違いは何か分かるか?」


「えっと、使い手が魔術を武器に添加させるかさせないかですか」


「まぁ半分合うてるが半分違うな。普通の武器は基本的に魔術を外側にかけて強度を押し上げて戦う。じゃが魔術武器は予め作る過程で属性魔術が染み込むようになっておる。じゃから武器本体が身体の一部のように動かせるのじゃ。要は人間の可動域からは予測できないタイミングで魔術を使いながら戦えるっちゅうことや」


「なるほどなるほど」


「それでおまえさんは自分の持つ火属性以外の武器も練習してたみたいじゃが、そんなことやろうと思ってできる事じゃねぇ。どうやってやった?」


「えーと、各属性の魔術石を一緒に打ってました」


「バカモン!!!」

鍛冶屋に響き渡るザグロの怒号にイサクは軍隊員かのように直立姿勢になってしまった。


「そんなことしたらおまえさんの身体が壊れるぞ!」


「はい……一度風属性の魔術石を打ち込んでいたら暴発して1ヶ月入院したことがあります…」


「良いかよく聞けイサ坊。人は産まれながらに火、水、風、光の中からひとつの属性を覚えておるな。それ以外の属性を使えないのと同じで火属性の奴が水の魔術武器を作ろうとして、鉄に川の水をつけながら精錬しても塗ってるだけじゃからできん。魔術石でも同じじゃ」


「ならどうしたら…」


「じゃからできん!お前さんができる火属性、そのひとつを極めるんじゃ。わしがビシバシ鍛えちゃるから覚悟するんじゃな!」


「はい!!」


ーーーーーーーーーーーーーーー


「みなさん!うちの村から届いた野菜です!肉厚で美味しいので食べて下さい!」


「おお!一つ一つが大きくて美味しそうだ!こんなに沢山良いのかい?」


「はいラドルフさん!村の人が皆さんでどうぞって」


「カプッ……あら、ほんと美味しー!もう一段階肌がツルツルになっちゃうかもしれないわ!」


「わ〜!わたし野菜大好き!ねぇねぇ、友達の小鳥さん達にも分けていい〜?」


「うん!いいよ!」


「やった〜!」


「……」


休憩中、イサクの持ってきた野菜を食べながら談笑する4人を尻目にザグロはそそくさと作業場へ戻ろうとしていた。


「ザグロさんも食べてみてください!」


「ギクッ……わ、わしは大丈夫じゃ……」

イサクの言葉に口を詰まらせながらそう答える。


「イサク君、ザグロさんは野菜が大の苦手なんだ」

悲しむイサクにラドルフが教えた。


「ザグロ爺もこれ食べたら若返っちゃうかもしれないわよー」


「こんなに美味しい野菜食べないなんて子供です!子供以下です!」


「えぇーい!分かったわい!どうなっても知らんぞ!」

……ガブッ

悲しむイサクに悪いと思ったのか、テーブルに置いた沢山の野菜から1番大きいものをとり、大きく口を開けて頬張った。


「これは……うまい……」


「ほらね〜!良かったねイサク!ちょっと小鳥さんにもおすそ分けしてくるね〜!」


「私も付いていこーと!」


そう言ってにかやかな表情のニカとクロナは出ていった。


「イサ坊。またこの野菜持ってきてくれんか?」


「分かりました!」


「驚いた、ザグロさんが野菜を食べているところなんて初めて見ましたよ!後で残りの野菜で料理もしてみても良いかな?」


「是非!」


野菜をムシャムシャと頬張るザグロを見て微笑みを浮かべるイサクとラドルフ……




ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーー



「3年半経った今でも沢山の思い出が蘇ってきます。そっちでも元気してますか。ザグロ師匠」


ザグロはイサクに3年間みっちり教え、1人前にしてから引退した。

その半年後に病気が悪化して亡くなった。


「あ〜もう!ニカ〜ラドルフ〜!やっぱりイサク先に来てるよ」


「あはは、ごめんごめん。これ新鮮なうちに食べて欲しくて」


ザクロの墓の前には大きく新鮮な野菜が供えられていた。


「ザグロさん、君の持ってくる野菜が大好物だったもんね」


ラドルフが菊の花を献花しながらそういうとニカも続けた。


「イサクが来てからザグロ爺だいぶ柔軟になったわよねー。よく笑うようになってたし!」


その後、ザグロの墓の前で4人でたわいもない話を楽しんだ。


「僕もうちょっと残りますね」

「分かったわ、ほら、クロナ行きましょ」


ニカとクロナが帰っていき、墓の前でイサクが黄昏ていると後ろから共に残っていたラドルフが口を開いた。


「イサクに渡さなきゃいけないものがあるんだ」


「なんですか?」

そう言うと1枚の手紙を渡された。

イサクは恐る恐る封を開けた。




イサ坊へ


これを読んどると言うことはワシはもうこの世にはいない。

お前さんが弟子になりたいと来た時はまた同じ様な若造が来たかと思っておったが、イサ坊の覚悟と努力には正直脱帽じゃ。


お前にはワシのうるさい教えにも耐えられる強靭な精神力とそこはかとない優しさがある。

それを最大限に活かしてこれからも頑張ってくれ。

3年間よう頑張った。これでワシの弟子は卒業じゃ。

手紙なんか書かんからこれでおうてるのか知らんが、ワシからは以上じゃ。


今までありがとうな。


ザグロ



ザクロの手紙を読み終わり、今まで出したことの無い大粒の涙を流しながらその場で佇むイサク。


「実は死ぬまで言うなって言われてたんだけど、君がうちに来た時にはもう生きられて1年って宣告されてたんだ。だけどザクロさんは3年以上生きたんだ。君に教えている時が1番生き生きとしてたし、野菜も食べるようになったもんね」


「ヒッグ……ヒッグ……」


「君はもう一人前の鍛治職人だ、なんてったって名匠のあのザクロさんが認めたんだからね」


「ヒッグ……はい……これからも頑張ります……」






ある日ーーーーーー


カランカラン

「いらっしゃいま……!?」


「君がイサク君だね」


「は、はい」


そこには昔助けてくれた訓練生、いや今は地区隊長の男が尋ねてきた。


「漸く今の魔術武器に適応できてね。ザグロさんが言ってた最後の武器を貰いに来たんだ」


「はい……!ありますよ!」


そう言うと布に丁寧に巻かれた武器と鞘を箱ごと持ってきた。


「これです!」


「ありがとう」


すると今持っている剣を鞘ごと両手で持った。


「実はザグロさんには仕事終わったあとにこいつのメンテナンスをしてもらっててね。俺は支給刀を使うのも嫌でザグロさんの精錬した剣しか使いたくないんだ。君が最後の弟子だった子だろ?」


「はい……!」


「鍛冶屋で君に会うことはなかったけど話は聞いているよ。優秀な鍛治職人になったそうじゃないか」


「いやそんな。自分はまだまだですよ」


「これを君に受け取って欲しいんだ」


そう言うと持っていた剣をイサクに差し出した。

ずっしりと重量感がある


「え……」


「最初はザグロさんが亡くなった時、一緒に墓に入れてもらおうとも考えてたんだけどさ。君に貰ってもらった方がザグロさんも喜ぶと思うんだよね」


ザグロの顔を思い出し、これからその意志を継いでいく覚悟を決めた顔になり答えた。


「はい!」


「おっと、俺訓練中に抜け出してきてるんだよね、そろそろ戻らないと」


そのまま出口のドアノブに手をかけると地区隊長は一度振り返った。


「あの時のお前とは思えない程に逞しくなったな。これからもよろしくな!」


そう言うと鍛冶屋から出ていった。


「はい」


小さな声の返事だった。

しかし、それは今まで出逢ってきた人々に深く感謝すると共に大きくて強い意志を秘めていた。

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鍛治職人イサク 脇野オズ @wakino_oz

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