11ch\待ち人の謎とは…。

―【寺町通り占いの館「平安」】


――トボトボっトボトボっ――


「結局あの撞木は、どこにあるのだよ――」「遅くなりました――」


――ポリポリっ―


「おはようございます」

『おはようございます――』

「ご予約の方、大変お待ちです――」

『あっ、はい』


―ガチャ――っ


『大変お待たせ致しました――。占い師の卜部のっ』

「ん? 杏南じゃなくて、坎人(アナト)に戻ったの?」

「てか、右目どうしたの?」

『えっ! 志季っ――』

『いゃ――これは…』『何? 予約の人って――』


―ポリポリ――


「僕だよ。 志季……」

『えっ! 今、何してんの?』

「今は、世界を旅している――」

『旅?』『どうして、旅なんか――』

「小さい頃の夢で、世界中を旅して見たかったんだ――」

『そうなんだ――』

『久しぶり――』

「ホント久しぶりだね――」


「僕って…、小さい頃、幼稚園にも入っていなかったし――」「毎日……」

「夢を描いては、消して――」

「また、描いたりして――てね……」

「こんな世界になれば、いいな――って…」

「そして、ほら! 実家が市営団地になって…。 これを見つけたんだ――」「でもね――」

『えっ! それは……志季?』

「使い方を間違えると、この栗の木で出来た橦木は、とんでも無いことも起こせるんだ――」


「知ってる?」


『……』


――ポン――

――ピロリンっ――


【速報! 琵琶湖の水位が上昇率前年15%アップ】


『えっ! 何をした――。 どっかの鐘を鳴らしたのか?』

『志季?』

「何もしていないよ――。 世界のありとあらゆる鐘を鳴らしただけ……」

「北東の表鬼門に位置する梵鐘たちだょ……」

『何て事をするんだ! 志季――っ、お前も卜部家の血筋なら、悪い事だって解るだろ!』

「僕は、卜部の血筋じゃないょ――」「だって、顔も丸いし、鼻も低いじゃん――」

「……」

「小さい時は、毎日その事で虐められたょ――」

「覚えてるだろう? 坎人――っ」

『ちょっと…、待ってくれっ』


―カキカキ―


「坎人になっても僕と顔も似ても似つかない――。 僕は、まるでホトトギス――」

『どうしたんだ! 行きなりやってきて――』『何がしたいんだよ!』

「御礼参りだょ」「今まで虐められてきた分の御礼をしないと――」

「こっちは、気が済まないょ――」

『止めろよ! 志季!!』

「それで、この橦木を返しにきた……。 俺はもう長くは、無いし……。 結核も患った――」

『えっ!』


―バキッ――


『何してんだ――っ……、バカやろ――』『大事な撞木を折るなんて――』

「杏南と蓮歌は、全然遊んでくれなかったよね?」

「苦虫燃やしの時も……」

『あの時は、志季も小さくて体も弱かったし――、しょうがないだろ?』

「ま――、いいや――。 ゴホンっ、ゴホンっ――。 俺には、もう関係ない――」

『僕の本当の橦木を……』『おい! シキ――、いつ橦木を入れ換えた!!』

『どうやって複製を作れたんだ?』

「え――? 知らないの?」

「あの橦木は、中村さんが『ト術て』を持ってきた時に、すぐ開けたょ」

「だって、僕には、怖いモノなんてない――。 人間は、いつか死ぬじゃん?」

『そう言う問題じゃないだろ?』

『複製は、どうやって作った?』

「えっ? 小栗栖天神宮の赤い楓の木を折って、おおちゃんにお願いした――」

「それだけ――。 おおちゃんは、やさしいもん……」

「母親は、僕たち三人を幼い頃に見捨てた――」

『コノヤロ――』

『どうすんだよ! あの赤い樹は、御神木だぞ! 志季――』


――ガリガリ――ガリガリ――

―つ――っ ―ぼたっ


「どうするも、ゴホンっ――、こうするも……。 僕は、後は死を待つだけ――」

――ポンっ――

――ピロリンっ――



【続報! 琵琶湖の水位が上昇中―】



『何とかしないと――』

「フフフ…っ」

『琵琶湖の水位が上がると、鉄道トンネルを伝って山科に水が流れ出すぞ――』

「フフフっ……。 ハハハっ……」

『何がおかしい!』

「おかしいやん! 琵琶湖の水位が、上がれば京都まで流れ出て――」

「京都は、盆地だから……。 カプチーノみたいになるって事?」

『……』

「あり得ない――、あ――、あり得ない――」「都市伝説だょ。 それは――」

『もう、いいよ! 俺は、行く――』

「坎人――っ、僕を占ってくれょ――」「僕は、どうなるの?」

『占っても意味無いじゃん! お前、死ぬんだろ?』

「人は、いつか必ず死ぬ? じゃ――、今を必死に生きろよ!!」

『バカやろ――」

「……。 もう…、後の祭りだょ――。 実は、祇園祭りって云うのはね……、」

「前祭りと……、後祭りがあってさ――」

「何でも…、後…、祭りかと云うとね――」

『何とかしないと……、何とか――、ヤバいな――』

「ブツブツブツブツ」




梵鐘(ぼんしょう)とは、寺・寺院などで使用される釣り鐘を指す。そもそも撞木(しゅもく)で撞(つ)き鳴らすと、重く余韻のある響きが特徴であるのだが、一般には、除夜の鐘事でもっとも知られている。又、響きをよくする為に鋳造の際は、指輪や金を入れる事があると云われていた。他にも、江戸時代には、本当に小判を鋳込んだ例がまた、あったと云う。後は、音色「調和」が似ている事からも雅楽と鐘の関係性を示す文献も残っている。




―【妙心寺の法堂前】―




――ハ――っ、ハ――っ、ハ――っ

――ハ――っ、ハ――っ、ハ――っ――


「お――い。 おっちゃん――」「おっちゃん――」「牛王の…っ」

「ん?」

「ん? 何、何」

「呼んだ?」

「ん? どうした――」

「?」


「振り向かないで、いいから…、ここのおっちゃんに用があるの――」

『どうした? 偽「ニセ」橦木の方――』

「……」

『琵琶湖のニュースは、見なさったか? 世も末じゃ――』

「何とか…、何とか出来ませんか?」

『ワシはもう、六根の力、不浄なモノは捨てた――。 見ない・聞かない・臭がない』

『味わわない・触れない・感じない』『俗世との接触を絶った――』

「じゃ――、なす術は?」

『ワシは、何も感じない……』『だから…、あなた自身が感じるモノがあるじゃろ?』

――ポリポリっ――

「僕の中のココが……」

「靈(たましい)が、駄目だって――、このまま見過ごす訳には、いかない……」

「どうしたら?」

『ワシが煩悩を絶ってから……、ワシは、八正道へ住く事も出ない未練たらしい僧侶…』

「何だよ。 ソレ」

「僕は、戦う!」「いや…、戦いたい――」

『ワシは…、路を極める事は、出来んかった……』

「そんなのどうだっていいだろ? おっちゃん――」「何かあるだろ?」

『高貴な王と呼びなされ――』

――ポンっ――

――ピロリンっ――

【速報! 大津市皇子山陸上競技場水没―】


――トボトボっ、トボトボっ――

『……』

『承知した…』

『こちらの法堂の上をみなせぇ――」『四隅の瓦が、東西南北に見えるじゃろ――』

「あつ――、ホントだ!」「?」

『そして、鬼瓦の額を見なさい――』

「えっ!」

「五芒星――。 こっちは、六芒星だ……」「何か意味があるんですか?」

『五芒星は、世界の魔術の「記号」…、逆さにすると「悪魔の象徴」に変わる――』

『六芒星は、別名「籠目(じゃのめ)模様」と云われ、中の八方睨み龍の魔除けとなっとる―』

「じゃ――、龍が何とかしてくれるのですか?」

『それは――、やってみんとわからん……』『誰もそんな事、した事がないから――』

「でも、一刻を争う事態です……。 琵琶湖の水位がドンドン上がり続けています!」

『そ…、その隣の鬼瓦を見なさい――』

「えっ! 小槌の瓦がある……」「これが、もしかして……」

『あれが……、徒然草にも出てくる黄鐘調の音色を奏でられる――』

「撞木だ!」

「いえっ……、やって見ます! 『僕』が……」


昔から、和鐘の頭部は唯一、「龍頭(りゅうず)」と呼ばれ、最上部の環状をなしている物は、二個の獣頭からなる。そして、龍頭は、口唇の部分で梵鐘の上蓋に接している。

又、それ以下を鐘身と呼ばれ、龍とは全く関係のない言い方をするのである――。

――ハ――っ、ハ――っ、ハ――っ――

――ハ――っ、ハ――っ、ハ――っ――


「何とかこれで――、黄鐘調の鐘をならして、龍を外へ出すぞ!」

「よし!」「叩く――っ」


――:*o♪:*o♩:*o――

――:*o♬:*o♪:*o♩――


「何て綺麗な音なんだ――」

『祇園精舎の鐘の声……』


――トドドドっ

――――バコ――ンっ――!

――ドドドドドドドドっ――

―バ――ンっ――


「八方睨みの龍――」「いけ――――っ」


―すんっ――


『あつ!』『諸行無常の響きあ…、り……』


「オイオイオイオイっ――」「どこへ行く――」

『あ――ぁ、あ――っ』

「……、西の方角に…」

『そっちは――』



――パキパキパキっ――

――ド――――――ンっ――


――ぼとっ

―ぬるんっ―


『今度は…、南東の瓦が落ちよった――』

「何っ、コレ――――――っ」

『ハンザギじゃ、ハンザギ――』

「えっ!」「オオサンショウウオ――」

『山椒魚じゃ、山椒……』『食えば、山椒の味がする――』

「そんな事、今は、どうでもいいだろ――」「捕まえよう!」

『止めなされ――』『何が起きるか分からぬぞ――』

『南東の瓦は、龍の瓦のはずじゃが――』

「じゃ――、どうして山椒魚に――」「何とかしてくれるかも……」

『うぬの力が弱いのか…、龍の瓦が山椒魚になってくれたのか……、』

『盛者必衰の、理を表すか――』

「も――、どうだっていいよ――。 そんな事!」「俺は、やる――」

『何をじゃ――』『喰うのか――?』

「……」「雲龍もどっかへ行ってしまったし――」

「川へ戻したら何かが起きるかも…」

「だから、コイツを川に帰してやる――」「在るべき所に、在るべき場所に――」

『その鐘の音色は、絶えず変化していく響きにも似て……』

「あ――っ、うるせぃ――、うるせぃ――」「偉そうに――っ」

「も――っ、僕が何とかする――。 自分で! 何とかする!」

「このハゲタコ!」

――うっうっ――っ――ひっ――

う――ん、うっ、うっ、う――


『……』

「もう、悲しいよ……。 この山椒野郎――っ」「山椒の癖に、おおをつけるなよ!」

「お・お・をつけると言うことは、な――っ」

「敬意や親しみを込めて――」「つける物なんだよ!」

『……』「――」

「乗りやがれっ――。 この一輪車に! 山椒野郎――っ」「俺が、川へ帰してやる――」


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黄鐘サラウンド~7.9.4ch~ ヨシムら マヒと @yoshimura_mahito

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