re第17話

 俺は“やるべきときはやる”人間だったはずだ。

 しかもその主義を、他でもない紫香にも教え込んできた。

 その教えを自分が放棄するようなマネはできない。

 俺はしれっとしているが、正直なところ我慢の限界が来ている。

 紫香みたいな可愛すぎる女の子に、あれだけ誘惑されてよくこらえているとすら思う。


 むしろ、紫香を昔から知ってる俺だからこそなんとか我慢できているんじゃないか。

 迂闊に手を出して、長く築いてきた関係を壊したくないと――

 だが、それももう限界はとっくに越えている。


「ヒカ兄ー、ヒカ兄ー?」

「え?」

「さっきから呼んでんのに。ほら、味見してって」

「お、おお」


 リビングのソファに座っていると、キッチンから紫香が呼んでいた。

 つい、今夜の展開について考え込んでしまっていた。

 立ち上がり、キッチンに行く。

 そこには長い黒髪をポニーテールにして、エプロンを着けた若妻――

 じゃなくて、最高に可愛い女子高生がいる。

 なんだここは? 天国か?


「ヒカ兄、これこれ」

「ああ、うん。うーん……おお、美味い。腕を上げたな」

 紫香に渡された小皿のスープをすすり、素直に感想を口にする。

「よかったー。じゃあ、これで仕上げちゃうね」

 紫香は本気でほっとした顔になる。


「ロールキャベツはスープが命だから。ま、おじいのレシピ丸コピーなんだけど」

「誰でもコピーできるわけじゃないって。俺がつくっても、この味は出せないからな」

 ロールキャベツはシンプルな料理だが、だからこそ微妙な加減が難しい。

 あまりファミレスでは見かけないものの、実はエンジェリアでも出している。

 密かに人気メニューで美味いのだが、わかふじの味にはかなわない。


「基本、俺のほうが料理の腕前は上なのにな」

「むっ、いつまでも勝ってると思うなよ?」

 紫香が、軽すぎるジャブを俺の腕に当ててくる。

 実際、俺は料理してないから、追い抜かれるのは時間の問題だ。

 じいちゃんの料理のコピーなら、孫の紫香のほうが既に上回ってるわけだしな。


「でも、エンジェリアのロールキャベツ、どことなくわかふじに似てるんだよな」

「うん、わたしも似てるなと思った。まあ、ロールキャベツはどこも見た目はあまり変わんないけど」

「そりゃそうだ」

 斬新なロールキャベツなんて、そうそう見かけない。

 ただ、微妙な味付けがわかふじとエンジェリアでよく似てる気がする。

 まさかウチの会社が、わかぶじのレシピを盗んだわけじゃないだろうが。


「じゃあヒカ兄、もう少しだけ待っててね。それとも、待ちきれないかな?」

 ずいっ、と紫香が身体を寄せてくる。

 豊かな胸のふくらみの先端が、わずかに俺の胸に当たっている。

 こいつ、わかってて押しつけてきてるな……。


「つくってもらってる身なんだから、いくらでも待つ。ゆっくりつくってくれ」

「はぁーい」

 挑発に乗ってこなかったのが残念なのか、紫香がちょっと拗ねたような顔をする。


「でもさ、洋食でよかったの? ヒカ兄、洋食なんて食べ飽きてるでしょ?」

「紫香が一番得意なのは洋食だろ?」

「そりゃ、洋食屋の娘ですから」

「だったら、一番得意で一番美味いのを食ったほうがいい」

「ありがと♡」

 ぎゅっ、とまた抱きついてくる。


 今日はひときわスキンシップが激しい……。

 メシも美味いが、紫香はもっと美味そう――って、ダメだろ!

 そんな欲望全開の目で紫香を見てはいけない。

 今はまだ。



 紫香のロールキャベツは本当に美味かった。

 ご飯と味噌汁もついて、定食という感じで出てきたのも嬉しい。


「毎日、ほとんど立ち食いみたいな晩メシ食ってるからなあ」

「えぇ~……ヒカ兄、せめて本社勤務に戻ってほしいな」

「俺に言われても」

 二人で食器洗いを済ませ、リビングに戻ったところだ。

 俺はまだ若手もいいところで、社内人事をどうこうできる立場じゃない。

 なんなら本社勤務に戻っても、多忙すぎて状況が悪化する可能性もあるが――紫香には黙っておこう。


「ヒカ兄、これ以上痩せないでほしいなあ。もうちょっと太っててもいいよ?」

「そうやって油断すると、すぐに太るらしいぞ。おっさんになると一度太ったら戻らないとか」

「ヒカ兄、まだ全然おじさんじゃないでしょ。ヒカ兄は、お兄さんだもん」

「紫香はいい子だなあ……」

 俺は思わず、紫香の頭を撫でてしまう。

 まだ今年二十六歳、おっさんと言われる筋合いはないが。

 口の悪い女子高生には、オジサン呼ばわりされることもある。

 ウチの女子高生バイトにも一人いるしな……あのガキはいつかわからせる。


「ヒカ兄が、わたしをいい子に育てたんだよ」

「そこまでじゃないって」

 俺は苦笑いして、ソファに腰を下ろす。


「わたし、ヒカ兄に育てられた子なのになあ。ほら、こんなおっきくなったよ」

 紫香はポニーテールにしていた髪をほどき、くるっと回ってみせる。

 薄手のセーターの胸元を押し上げているふくらみが、弾むように揺れる。

 こいつ、マジで大きくなったな……背も高いが、胸も大きい。

 胸のサイズだけなら花井さんのほうが上だろうが、背が高くて胸もデカいというのは迫力がある。


「あ、えっち」

「……そりゃ見ちゃうだろ」

「あー、開き直ったー。えっちえっちー」

 紫香は顔を赤くして、胸を隠す――というか、腕で胸を押し上げるようになっていて、余計にエロい。


「え、でもどうする? 見たかったら……そ、そろそろ見せてもいいけど?」

「…………っ」

 思わず絶句してしまう。

 そろそろって、なんだ。

 もう“そういう”タイミングなのか?

 メシを食い終わったばかりで、いきなり――


「……風呂を下ろすか。紫香はメシ食ったら、すぐに風呂に入りたい派だったよな」

「うん、よく覚えてたね」

「そりゃあな」

 はっきり言って、紫香がウチに泊まるのは初めてじゃない。

 子供の頃から何度もこの水元家に泊まってきた。


「最後に紫香が泊まったのは……いつだったか?」

「二年前。中二のときだね。おじいとおばあが知り合いのお葬式に行って、わたしをヒカ兄に預けていったんだよ」

「そんなこともあったなあ」

 あの時点で、紫香はもう高校生に見えるくらい背が高かった。

 正直、紫香と一つ屋根の下にいるのは理性との戦いだったな……。

 俺もまだ学生だったし……中学生に手を出すのはさすがにヤバいので気にしないようにしていたが。


「あのときも、ヒカ兄の部屋にこっそり夜中に行こうかだいぶ迷ったなあ」

「おおいっ!」

 そんな前から、その……性的な関係も視野に入れてたのか!?


「今のわたしは、もうためらう理由はないから。ヒカ兄がわたしに手を出さなくても――夜中にこっちから行くかもね」

「あ、あのなあ……」

「へへー、逃がしませんよ♡」

 紫香は俺の隣に座り、ぎゅっと抱きついてくる。

 大きな胸のふくらみが腕に押しつけられ、デニムのミニスカートから伸びる太もものまぶしさが――


「ヒカ兄っ♡」

 そして、ちゅっと俺の頬にキスしてきて。

「お風呂……一緒に入っちゃう?」

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トシが離れた近所の子 ~年下JKとの合法的な付き合い方~ かがみゆう @kagamyu

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