第5話 目下、宝の山

「ヨッシャ、着いたぜぇぇぇぇっ!」


「Foooooo~っ!」


『見張り番』を抜け出した俺たちは、里の近くを流れる川の上流にいた。


 先述の通り、この川はドワーフの鉱山につながっているため、彼らが取りこぼした『魔鉱石おこぼれ』が流れ着くことがある。


 それも上流に行けば行くほどサイズが大きいので、俺たちは片道15分程度で来られるギリギリのところまで登ってきていた。


「つーことで、早速『魔鉱石』探しだ! 

 砂粒みてーなチンケなヤツなんて狙うんじゃねえぞ? 

 目指すは『豆サイズ』の発見! たっぷり食って帰ろうぜ!」


「おう!」


 俺たちは『お宝の宝庫』を目の前にして、とてもテンションが上がっていた。


 というのも……見える見える、川底に散らばる


『魔鉱石』は黒寄りの紫色をしているため、肉眼では中々見つけづらいのだが、真っ昼間の直射日光が当たる時間帯は別だ。


『魔鉱石』の内部の魔力は、直射日光にかぎって反応し、うっすら怪しい光――『魔晄まこう』を放つ。


 俺たちは、ただそれを頼りに『魔鉱石』を拾っていけばいいだけなのだ。


 現に、眼の前の川底には既にいくつもの『魔晄』が見え隠れしていた。


「5、10、15、20……一体いくつあるんだ、ウッヒョウ!」


「な……なぁドライ、さっさと取ろうぜ! な!」


 俺たちは顔を見合わせ、同時にうなずく。


 そして気持ちを抑えるべく、深―く深呼吸をして、いざ……


「「いっただきま~~す‼」」


 ザブーン!


 俺たちは勢いよく川に飛び込み、一心不乱に川底の『魔鉱石』に触手を伸ばした。


「わ、スゲェ! なぁなぁドライ、こりゃ本当に大収穫だな!」


「あたぼうよ! ホラ見ろレフト、俺なんかもうこんなに拾っちまったぜ!」


 そう言って、何本もの触手で『魔鉱石』を拾い上げ、俺に見せつけてくるドライ。


 対する俺は、手が2本しか無いため、必然的に持てる数も限られていた。


 ……あまり気にしたことはなかったけれど、触手が多いとこういうとき便利だなーと、少しねたんだり。


 まぁ、これは見た目をとるか実用性をとるか、みたいな話であって、どちらがいいかは一概に言えないのだろうけれど。



 ということで、俺たちは何度か川底と川岸を行ったり来たりすること数十分。


 気づけば、とても小脇に抱えきれないくらいの『魔鉱石』を集めていたのであった。


「……お、おいレフト、俺ぁまさかこんなに取れるとは……」


「う、うん……ちょ、ちょっと上手く行き過ぎた感じもするけど、い、いいんだよな……?」


 目の前に山盛りになった『魔鉱石』を眺めながら、俺たちはポツリと呟いた。


 こんなに量が取れるなんて、正直予想外にも程があるくらいだ。


 例えばの話だが、この量の『魔鉱石』を売ったりなんかしたら――純度にもよるが――家が1、2軒立ってもおかしくないレベルである。


「……どうするレフト。これ、持ち帰ったら間違いなく大事おおごとになるぜ」


「ああ、一度に持ち帰るのはやめたほうがいいと思う。かと言って、コレ全部食べるのもなぁ……」


「バカ! 全部食べるわけないだろ勿体もったいない! 

 俺はこの『魔鉱石貯蓄』で、老後もゆっくり暮らすんだ……」


「……そんなには持たないと思うけど。

 けれど、『貯蓄』っていうのはいい案だな……」


 こっちの世界に『銀行』なんてものがあるのかどうかは知らないが、少なくとも『目玉の里』には存在しない。


 だから、大事なものは皆個人管理が基本だ。穴を掘って埋めたり、どこかの木のうろに隠したりなど……原始的だが、そうやって保管している。


 ということで、俺たちもこの大量の『魔鉱石』をどこかに隠さなければならない。


 もちろん、俺たち以外の誰にも見つからない、2人だけの隠し場所に。


「……どうする? 埋めるか?」


「埋める……のが一番いいんじゃないか? それ以上の策もないだろ」


「だな」


 その後、俺たちは話し合って『隠し場所』を決めた。


 どこに隠したかって? それは……秘密だ。


「……ふう、ここなら誰にも見つからねぇだろ」


「まぁ、絶対大丈夫とは言えないけど……とりあえずの保管場所としては上出来じゃないか?」


 俺たちは一仕事終え、その場にふぅ、と座り込んだ。


 お互い泥に塗れた姿を見ると、何だかおかしくなってきて、俺とドライはどちらからともなく笑いだしていた。


「ワッハハハ! あーあ、今日は最高の一日だった! これも元を辿れば、全部俺がお前を誘ったからなんだぜ? 感謝しろよ、レフト君」


「……ああ、そうだな。てか、『隠し場所』忘れるなよ?

 もしお前が忘れたら、俺がぜーんぶそっくりそのままもらうからな!」


「バカ、誰が忘れるかこんなお宝! 自分の取り分はこんなにちっさな砂粒単位まではっきり覚えてるわ! 

 お前こそズルするなよ? やったら一発でわかるんだからな!」


「当たり前だろ! お前、俺たちのを見くびるなよ?」


「それもそうか! ワッハハハハ!」


 食用に少し取り分けておいた『魔鉱石』をかじりなら、俺たちは楽しい時間を過ごしていた。


 本当に、とても楽しい時間だった。

 経過した時間も忘れる程に。




 ……しばらく経って、俺はふと大事なことを思い出した。


「……おいドライ、そういえば俺たち、『見張り番』をサボってここに来てたんだよな?

 早く戻らないと、バレて怒られるぞ……!」


「っと、そうだったそうだった! 興奮して、ちょっと長居しすぎたな。

 十分楽しんだし、とっとと帰ろうぜ、レフト!」


「おう!」


 そうして俺らは、急ぎ足で里への帰路についた。


 だが、その間も俺の頭の中は『魔鉱石貯蓄』のことでいっぱいだった。


 このくらいは蓄えておいて、このくらいは食用。このくらいは売ってお金にして、あとはどんな使い道があるだろうか……と。


 身も蓋もなく言うと、俺はとても浮かれていた。




 ――だから、だったのかもしれない。


 そんな俺たちに、『天罰』が下ったのは。


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魔眼転生 ~転生したら「でかめだま」だった件~ 吉崎素人 @layman_2943

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