第4話 目を盗んで
それからドライと
見張り台に登ったときには真上に浮かんでいた太陽(?)は、既に斜め35度くらいの位置にまで下がってきている。つまり、今はおそらく午後の3時とか4時くらいの時間だろう。
その間、見張り台から見える里の外の様子は、なーんも変化がない。
誰も来ないし、何も起こらない。
ド○クエ風に言うならば、「しかし、なにもおこらないのであった!」。
「あー……暇だ」
後ろを向くと、ドライのやつも相当
会話もなくなってからというもの、コイツは自慢の足で見張り台中をうねうねうねうね登ったり降りたりを繰り返していた。
しかし、今はもうそんな元気もなく、ただ天井からだらーんとぶら下がっているだけである。
……その見た目は十分おぞましいのだが、しかしどうやら俺の目が慣れてきたようで、もう何も特別な感情を抱いたりはしない。
前世の感覚で例えると、ただ友人がベンチでぼけ~っとのけぞっているようにしか見えないのであった。
「暇だぁ……暇すぎて石になっちまう。なあレフト、何か面白い話してくれよ~」
「面白い話ったって、思いつく限りはもう全部話し終わったよ。あまりに話しすぎて、俺の思い出
「俺もおんなじ。ああ、何か刺激的なことでも起きねぇかな……」
この会話も、もう何度目だろうか。
数え切れないくらいに無駄な話を繰り返した俺たちの頭は、もうのぼせ上がって使い物にならなくなっていた。
――と、そんな俺達の中に、ひとつのアイデアが降りてくる。
「――なぁレフト。一瞬だけ抜け出さねぇか? な、一瞬だけ」
「……はぁ? そんなことしたらダメだろ。俺たちは『見張り番』の仕事を――」
「だーかーら、一瞬だけだって! ちょこっと川に行って、水飲んでくるだけだよ!
いくら魔力がエネルギーのモンスターだからって、考えたら俺たち、ずーっと水すら飲んでないんだぞ!
このままじゃ干からびて、
乾燥目玉……それって
手遅れじゃん。
……だが、そんな冗談も言えないほど、俺のほうも
だから、正直言うとドライの提案はとても魅力的で、何かもうひと押しあれば、俺の心は動いてしまうだろう。
そう、何かもうひと押しあれば……
「それによ……最近川底で見つかるらしいぜ、『アレ』」
「あ……アレ? アレってなんだよ……」
「とぼけるなって! 川底に見つかるアレっていったら、
「……(ゴクリ)」
「なんでも山の方でドワーフたちの大採掘があったみたいでな。そのおこぼれが川を伝って流れてくるらしいんだ。
だからよ……サイズもいつもの砂粒ぐらいのチンケなものじゃなくて、それこそビーンズぐらいの大きさのものもあるらしぜ! こんな大粒なの!」
「……(ゴクゴクゴクゴク!)」
魔鉱石とは、文字通り魔力の結晶だ。
そして魔力は、俺たちモンスターの『原動力』である。人間でいうと、タンパク質、脂質などの栄養素を全部詰め込んだ『完全栄養食』みたいなものだ。
ズボラな俺にはありがたいモノである。
……で、その魔鉱石だが、とってもうまい。
前世で食べた『完全栄養食』はなんかどれもイマイチパッとしない味わいなものが多かったが、しかし『魔鉱石』は『旨味成分』の塊でもあるのだ。つまり、
『魔鉱石』=『必須栄養素』+『旨味成分』=『
ってコト。
「どうだレフト? 魔鉱石は紫色だからな。日が暮れると探せなくなっちまうぜ……?」
「……ちくしょう! 鬼! 悪魔! 俺の心を惑わしやがって!(ニコニコ)」
と、そんな悪態をつく俺の表情は満面の笑みだったに違いない(目だけど)。
だってさぁ、仕方ないじゃん!
食べて生きる。
それだけのモンスター人生の半分を占める『食』、それも最高級の『魔鉱石』で釣られたら、大抵のモンスターはついてくよねって! 抗えないって!
……何なら前世の俺でもついていく可能性がある! 『食』ってそういうものなのだ。
「……へへ、その表情、決まりだな! だとしたら、早速ここを抜け出そうぜ!」
「おう!」
俺の表情を器用に読み取った(ほんとに器用だな⁉)ドライは、そう言ってうねうねと柱を伝って降りていく。
俺はと言うと、そんな便利な足は持っていないため、普通に階段で降りた。
「(よし、じゃあ『いつものとこ』から脱出だ! 見つかるなよ!)」
「(おうっ!)」
その後、俺たちは周囲にバレないようコソコソと隠れながら移動し、門の反対側――今は水の流れていない水路から、こっそりと外へ脱出した。
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(筆者からのメッセージ)
鉤括弧「」内の括弧表記 例:「(~~~)」は、「小声で喋っている」という表現のつもりです。
わかりづらいかも知れませんが、ご了承下さい。
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