図星
高黄森哉
明白な探偵
「おいおい、まだついて来てるよ」
実際、今、隣に友人はいないのだが、一人で歩いていることを考えると心細いので、友人がそこにいる体で右隣に話しかけた。
「やっぱりついて来てる」
お日様はカンカンに照っていた。往来には人が大勢いて、八百屋からはおっさんの声が聞こえて来る。
「これ、もっと安くなりまへんか」
「いやあ、これはちょっとねえ」
「そこをなんとか。頼んます」
商店街に足音が二つ響く。一つは俺の、もう一つはあいつの。俺は架空の友人と相談して、遂に注意することに決めた。
「おい。お前、探偵だろ」
振り返ると、そこにいたのは、イカニモ探偵です、といった服装の男だった。彼は俺の言葉を耳にするなり立ち止まり、ギクッとした顔を作って見せた。足はがに股で、凄腕のガンマンや居合の達人のように見えた。実際、何か隠し持っていて、緊張状態にあるのかもしれない。
「わかればいいんだよ」
歩き出す。
しかし相変わらず、足音は二重に聞こえた。四つの足が地面を鳴らし、まるで、ケンタウロスかなにかになった気分だ。どうにかしたくて
通りでは子供がいて、無邪気な姿でアメをねだっていた。店員は、しょうがないから一粒あげようと棚から一粒持ってくる。子供は駄々をこねるのを止めた。
「おい! 後をつけて来るな! 怪しいんだよ。わざと怪しい格好をしているんだろ。わざと怪しい格好をして許されようと思ってるんだろう」
男は、またギクっという顔をつくった。泣き笑いのような。
「その変顔で許されると思うな」
彼の身長が、いちだん下がった。思い出したかのように、がに股をしたからだ。まるでカエルのような出で立ちである。つまり彼は、ギクッとした顔でがに股をしていた。
「わかればいいんだよ」
彼は、くしゃっとした泣く一歩前の表情を変えなかった。不気味だ。なにをされるか分かったもんじゃない。
歩き出す。すると、交番があった。交番の前では、警官が不良中学生に理不尽気味に怒鳴りつけていた。中学生はわんわん泣いていて、警官はがおがお吠えていた。まるで警察だからどんな罵詈雑言も許されると言った具合に。
尾行の件について、警察に相談しようか迷ったが、その前にこの男へ一言、一発言っておいたほうがいいだろう。
「分かってるんだぞ。お前の手の内は。そうやって、あからさまなら、逆に咎められないとか思ってるんだろ。大胆なら、見逃されると思ってるんだろ。自分はこういう属性の人間だから、仕方がありませんよお、じゃないんだぞ。この野郎」
そう怒鳴りながら、後ろを振り返ると、不思議な光景が広がっていた。だから俺は、まるでペンギンかのように顔を前方へ平行に突き出した。
男はギクッという顔をしたのはともかく、また、遠くで八百屋を値切っていたおじさんが同じ顔をして、こっちを見つめていた。そして、その手前で子供が、やはり泣く前の顔をして、俺に目線をくれていた。また、俺の横にいる警察官が例の表情で、許しを請うように俺を睨んでいた。当然、全員、がに股だった。
「わかればいいんだよ」
俺は震える唇で、虚勢をはるべく、なんとかその言葉を絞り出した。
図星 高黄森哉 @kamikawa2001
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