第12話 緊張でがちがち
俺達は、たどり着いた。長い苦難の時を経て。ここには恐らく重要な情報が眠っている。そうに決まってる。何故ならここは『初心者の館』なのだから。
RPGの基本と言ったらまずここだ。ここで戦い方、アイテムの回収、装備の方法などを学べるはずだ。初心者に優しくない料金設定なのはこの世界の厳しさを身を以て体験させる為だ。
でなければこんなにすんなりタダ券が手に入るわけがない。謂わばここまでが一つのチュートリアルだったと言えよう。
「(わかったから早く行こう! レン君!)」
全く、ケンジさんと来たら、ナニを勘違いしてるんだか。これは全て攻略に必要な………。
「僕は先に行ってるからね!」
俺はあわてんぼさんの後をクールに追走する。どんなときだって紳士のたしなみは崩さない。
「いらっしゃいませ! お客様! お一人様50,000zでご案内となりま~す!」
「これで頼む」
俺は二枚分の無料券を店員にヒラリと渡した。
「おお、御愛用者様でしたか! では、早速ご案内~!」
まず先にケンジさんが入る。ここは年長者の顔を立てよう。というかぶっちゃけ残り物には福がある狙いだ。
「続きまして、はい、そちらのあなた! ご案内で~す!」
店員が入り口にかかった赤いカーテンをサッと開くとそこには刺激的な姿をした女性が立っていた。細身だが出るとこは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。
顔は………可愛い。正直好みだ。さすが仮想空間。
でも………あれ?
何処かで見たことが………。そして何やら嫌~な予感が………。
「い、いらっしゃいませ………お客様。エリナと申します」
女性は僅かに震えていた。
なるほど、これは完璧なイベント進行だ。今からアスミとチサトさんへの言い訳をフル回転で考えなくてはならない。何も知らずに楽しんでいるだろうケンジさんを思い浮かべて少し腹が立つ。
「あ、あの? お客様? どうされましたか? な、何か不手際でも御座いましたか?」
「いや、大丈夫。個室の方へ行こう」
「え、ええ………」
俺はケンジさんに念話で呼び掛けた。
「(ケンジさん、ストップ。ここは人身売買の宿だ)」
「(なな、なんですとぉ!?)」
「(俺はとりあえず今目の前にいる娘に話を聞いてみます。ケンジさんも何か引き出してみてください)」
「(りょ、了解!)」
俺は改めて目の前の娘に視線を戻す。確かにあの娘だ。
「君はコンニチワークで会った娘だね?」
「あ! あの時の!」
やっぱり。
「ここじゃまずいから中で少し話せる?」
俺が促すとエリナは扉を開けて中に案内してくれた。
「サービスの事は一旦忘れてちょっと話を聞かせて欲しい。君は恐らく自分の意志でここに勤めてるわけじゃない、でしょ?」
エリナはコクリと頷く。初めに出会ったころの震えは少し納まったようだ。
「あの、オニモッツって人はどういう人なの?」
「オニモッツ様はツイフォン商会の会頭です。この街の物流から金融まで幅広く担っておいでで、あの方に逆らってこの街で生きていくことはできません」
なるほど、攻略の道筋は見えてきた。が、ツイフォンてまさか……? ナーロウが紹介してくれた四天王の中にそんなのが居たような……。
「君はどういう経緯でここに?」
「仕事のミスが原因で商会に損害を出してしまったのです」
世界観が違うから何とも言えないが、ペナルティが重すぎないか? どんなミスをやらかしたんだ?
「ちなみにそのミスとは……」
「商品の発注ミスで桁を一つ間違えていたらしく、5,000万zもの損害を出してしまったのです……うぅ……」
エリナは顔を覆うと泣き崩れてしまった。
確かに5,000万zは大金だ。だが、個人が負うべき負債だろうか? 会社にチェック体制は整っていたのだろうか。
「それで君が返済しなければならないのは少し不自然だね」
「違うんです! それをきっかけに私の処理した仕入を洗い直したら改竄された書類がいくつも出てきて……。挙句の果てに横領までしてた事に!」
「身に覚えは……」
「もちろんありません!!」
間髪入れずにエリナが否定する。目に涙をためながら訴える姿は俺には嘘に見えない。
「事情は分かった。今すぐ君をここから出すことは残念ながらできない。だけどこれから起こる事にちょっと話を合わせて欲しい」
「え……あ、はい……」
エリナは涙を拭うとまっすぐに俺を見つめた。俺もそれに答えるように視線を返す。さて、まずは準備だが……。
ちょうど、俺にも便利なスキルが欲しいと思っていたところだ。そうだな……。異世界でなぜか不遇にされがちなバフスキルにしようか。
スキル名は『
まずは、上の技②ハートのエースと上の技③ダイヤのエースで心、防御を10%アップだ。いくぞ!
「おいおいおい!! どうなってんだこの店は!!!」
俺はおもむろに大声を張り上げると個室のドアを蹴り飛ばした。
「い、いかがなさいましたか! お客様!!」
黒服の店員がすっ飛んでくる。顔面蒼白だ。
「俺様の鑑定スキルによるとコイツ病気持ってんぞ! ああっ!?」
「お、お客様、イセカイの方でしたか! か、鑑定スキルとは……?」
「俺はなぁ! そのスキルを使うと相手のステータスが読めるんだよ!」
「そのような便利なスキルをお持ちだったとは!」
お? なんだかハッタリが通用しそうだ。
「今日の事はもういい!! だが悪いことは言わねぇ! こいつ4~5日休ませとけ! もしこいつが働いてるとこ見つけたらこの店ぶっ潰すぞ!!」
「お、お客様何卒穏便に……。おい、そこの女! 今日はもう帰れ!」
店員が虫を払うようにエリナに向かって手を振ると俺に向かって深々と頭を下げた。エリナは慌ててパタパタと走り去っていったようだ。
正直、ぶん殴られることも覚悟して防御ステータスを上げたが、杞憂だったようだ。さあ、猶予は多分4~5日。オニモッツとやらを探してカタをつけないと。
【レンはスキル『
【ラノベーション】 ~インスタントな世界で小説を楽しもう! ダイブ型小説へようこそ!~ 白那 又太 @sawyou
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