第11話 シレっとレアアイテム手に入れがち

「(言い忘れたけど、明日の集合は7時です!)」


 俺は念話で集合時間を伝えると、仮想世界で眠りについた。一応、これでも肉体や脳への負担は減るらしい。だがしかし、寝ているだけでは何も解決しない。未知への道をただひたすら歩むのみだ。


 翌日、早朝(ニートにとって)に起床した俺は身支度をスマートに済ませると、ロビーへと続く階段でアスミに出会った。


「おはよう! よく眠れた?」

「………………うん」


 どうやら寝起きは良くないタイプのようだ。身なりこそ整っているが目はまだ半分閉じている。二人して降りると、すでにロビーではケンジさんとチサトさんが待っていた。


「おっと、誤解はよしてくださいよ! こんな状況で昨晩はお楽しみでしたね、なんて事にはなりませんから!」

「まだ何も言ってないんだけど?」

「……………うん」


 寝不足っぽいと説得力が失くなってしまう。目覚めろ! アスミ!


「やはりと言うかなんと言うか、強制ダイブアウトはなかったわね」


 それなりに強制ダイブアウトへの期待もあったがやはりダメとなるとイベントを進めるしかない。


「さて、ちゃっちゃとレベル上げと今夜の宿代を稼ぎましょうぞ!」


 ケンジさんは元気だ。まだブラック企業に勤めていた頃の名残だろうか。


「そうですね、全員揃いましたし急ぎましょう!」


 俺達は揃って街の外へ出た。来たときは気付かなかったが周りは平原になっており、所々でピンクスライムが跳ねているのを目視できる。


 さて、ピンクスライムとの戦闘をメモしておくか。後の小説にリアリティーが増すだろうしな。


 えー……、弱い。はっきり言って魔法もそこまで必要じゃない。全員でタコ殴りにすればあっという間に動かなくなる。現実で言えばせいぜいでかいナメクジだ。


 昨日もレベルが上がってからは魔法に頼らず、蹴りだけで倒していた。というかケンジさんは魔力らしきものが枯渇したらしい。その後はどれだけ呪文を唱えても手のひらからポスッと間の抜けた音がするだけだった。今日はイベント進行が控えているので、全員力で押し切る事にした。


 結局全員のレベルが5に上がりきるまで235匹を討伐し、液体のドロップは91個に及んだ。これで、アイテムを納品すれば手元には約20万zが残る。割と余裕が出来たのではないだろうか。


 割と余裕が出来たのでは、ないだろうか!!!


 だが、しかしに行くと半分まで目減りしてしまう。ポーションや少なくとも棍棒ぐらいは手元に欲しいところだ。


「アスミ、チサトさん。俺達、もう少し狩りを続けてから合流するから悪いけど先に納品と情報収集進めててくれないか?」

「べつに良いけど」

「はいはい。なるべく早く合流してね」

「じゃあ、アイテムはそっちに預ける。資金は二人に50,000zずつ預けておく」


 残金は約70,000z。60~70匹狩れば目標達成だな。


「さあ、ケンジさん。続きを!」

「いざ!」


 しかしこの平原、ピンクスライムしか出てこないな。序盤の街だからか? 資金稼ぎも経験値稼ぎもメチャクチャ効率がいい。


「し~と~さ~ら~」

「ん? 何か言いました? ケンジさん」

「いや? レン君こそ」


「し~と」

「さ~ら」


 声の方に体を向けるとそこにはピンクスライムより遥かに粘性の少ないスライムが出現していた。表示上はしっとりさらさらスライムとあるが。


「とりあえずモンスターみたいなので倒しましょう!!」

「えいや!」


 賢二さんがいつも通りスライムを踏んづけるが、物理攻撃耐性が強いのか、全くダメージが見受けられない!


「ちょっともったいないけど、ケンジさん!」

「おうさ! 【バッカヤロー】!!!!」


 賢二さんの手のひらから火球が飛び出し、しとさらスライムを焼き尽くす。やがてしとさらスライムはパスンと音を立てて消えた。後に残ったのはなんと紙幣! 5,000zだ! アイテムドロップは……しっとりさらさらな液体? なんだかよく解らんがゲットしておこう。


――数時間後――


 ふう、しっとりさらさらスライムのおかげで少し早く目的の金を集め終わったな。


「では、ケンジさん。早速……!」

「うむ。参ろう! レン君!」

「その前にこの謎のアイテムだけ納品に行きましょうか。アスミとチサトさんには装備とアイテムの下見に行ってもらって」

「よきに!」


 御意……!


「(アスミ、チサトさん。先に回復アイテムや装備品を見繕っといてくれる?)」

「(はいは~い、じゃあまた適当な時に念話してね)」

「(了解です!)」


 さて、これで我らの行く手を阻むものは無くなった。いざゆかん、桃源郷。


 早足でコンニチワーク前の素材買取屋に辿り着くとまずは60体の内から20個ドロップしたピンクの液体をとっとと売り払った。若干、ドロップ率が下がってしまったが、俺達のどちらか、あるいは二人ともラック値が低いのかもしれん。


「はい、確かに。では、報酬の6,000zです」


 これで手持ちは10万zを超えた。後はしっとりさらさらの液体がいくらで売れるかだが……?


「こ、これは……!!!?」


 担当者の目の色が変わる。存外、いいものを拾ったのかも。


「この『しっとりさらさらの液体』はただのローションを超高級ローションに変えるレア素材ですよ!!」

「で、いくらになる?」


 問うてみると、担当者の声が小声に変わる。


「本来ならこれはレア素材故に、乱獲を防ぐ為に指定クエストになるんで買取品目にないんですが、懇意にしているお店がこれをすぐにでも欲しいと言ってましてですね」


 ふむふむ。


「お金は出せませんが、こちらのタダ券二枚とお引替えという訳にはいきませんでしょうか……」

「してその店とは?」

「この街にある『初心者の館』ってとこです。旦那」


 やはり、あそこはイベント進行に不可欠なようだ。話が出来過ぎている。とは言え、断る理由はまるでない。


「いいだろう、商売成立だ」


 ケンジさんも親指を立てて祝福してくれている。



【レンとケンジは『初心者の館』入場券を手に入れた!!】

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