第10話 ギルドみたいなところイベント起きがち

 しかし、ここまでおおっぴらに風俗の職業も斡旋しているとは。ファンタジー小説とはいえ、世知辛い世界観だ。奴隷制度とかあってもおかしくないな。


「この求人一覧は論外として」


 アスミは職員が奥から持ってきた書類の大半を投げ捨てながら討伐・捕獲依頼のクエストを手元へ引き寄せた。


「さっきのピンクスライムは素材買取の対象だね」

「ドロップ素材が対象で、生死は問わないってことですか?」

「ええ! ただ、捕獲して持ち込まれた場合は討伐報酬は折半とさせていただいております!」


 つまり倒せば500zで運が良ければ+300z。捕獲すれば確実に250z+300zが手に入るってことか。ドロップ率にもよるがまあ、経験値が手に入ることを加味すると当面は討伐でいいか。


「わかりました。クエストは受注形式ですか? 後、素材持ち込みはこのカウンターでいいですか?」

「そうですね。一応コンニチワークが斡旋しておりますので、こちらを通して頂かないと買取カウンターからの買取は致しかねます。正面の建物が素材買取所になっておりますのでお持ち込みはそちらへどうぞ~!」

「どうもありがとうございます!」


 よし、とりあえず金策は固まった。後は狩って狩って狩りまくるだけだ。


「よし、アスミ。初日と言うか日が落ちるまでは乱獲だ! 確か宿代は一人3500z。ノルマは一人最低7匹! 素材が出たら貯金だ!」

「うっし! そうと決まればチサトさん達と合流して……」


 アスミがそう言いかけたところで、後ろからドカドカと足音が聞こえる。


「おう、姉ちゃん。今日も来たぜ」

「これはこれは、オニモッツ様! いらっしゃいませ! 奥で所長がお待ちです!」


 人相の悪いやたらガタイのいいおっさんが一人。取り巻きみたいなのが二人。絶望した顔の女性が一人。明らかにただ事ではない。


「ちょっと! あんた達! その人とどういう関係!? まさか人身売買とかじゃないでしょうね!」


 俺よりも早くアスミが現れた一団に対して喰ってかかる。


「おっとっと? そいつは誤解だぜ、嬢ちゃん。俺達はの話をしに来たんだ。なあ? 姉ちゃん」


 男の放つ三人称が適当なせいでややこしいが、男につき従っている女性はコクリと頷いた。


「どう見ても脅されてるじゃん!」


 俺はアスミの服をちょいちょいと引っ張ると少し男たちから離れたところでヒッソリと耳打ちした。


「これ、多分イベントが進行してる」

「それは……分かるけど!」


 なおも納得しないアスミを丁寧に説得する。


「このまま関わり続けて強制イベントが発生したら厄介だ。あの女性には悪いがここは一旦退こう。俺達は無一文のレベル1なんだから」

「(私もそう思うわ! アスミちゃん)」

「(チサトさん、聞いてたんだ!)」


 途中から『意図念話』を発動してこちらの状況は既に二人に共有してある。廃ダイバーとはいえ、小説の内容に必要以上に感情移入してしまう例は珍しくない。それほどに、このインスタントワールドは精巧に世界を体感させてくれるのだ。


「まずは今夜の宿を確保しよう。もうチサトさんとケンジさんもそこまで来てる」

「……わかった」


 どうにかアスミを落ち着かせ、その場を離れた。オニモッツと呼ばれた男は取り巻きと女性を連れてニヤニヤしながら奥の部屋へと消えて行った。


「必ず、借りは返そう。俺達はもう読者じゃない。モノ言う読者、しゃだ!」

「うーん、いまいち!」


 アスミも少しは元気を取り戻したらしい。コンニチワークを出てチサトさんとケンジさんと合流した俺達は街の外に出て、無限に湧いてくるピンクスライムを狩りまくった。その結果、


レン:Lv3

アスミ:Lv3

ケンジ:Lv4

チサト:Lv4


 所持金は50000z、ピンクの液体×43となった。100体で打ち止めにしたのは、日が暮れてきたのとアイテムのドロップ率を計る為だ。だいたい40%ってところか。


 俺達は宿屋のロビーに集まり、今後を話し合う事にした。


「レベルって上がるだけで特にステータスとかが表示される訳じゃないんですね」

「レベルが上がるごとに倒しやすくなった実感は有るけどね」


 ナーロウに置き去りにされたせいで全てが手探り状態だ。だが、ケンジさんの口撃もチサトさんのヲニ召喚もうまく戦闘に活用できてたし何とかなるだろうか。


「にしても、だいぶ貯金はできたんじゃない?」

「楽観はできないが、そうだな。ひとまず屋根があるところで一晩過ごせるのはありがたい」

「でも、状況は厳しいわね。早くその人身売買イベントらしきものを進めないと。結局街の外にもナーロウは居なかったし」


 そう、最大の懸案はそこだ。イベントを進めたところでどうなるかは未知数だが、少なくともワイワイ敵を倒して喜んでるわけにはいかない。先に進まないと待っているのは確実な“死”だ。


「ナーロウに会えたとして、突然消えた奴を信用していいものですかね?」


 ケンジさんの疑問も最もだ。イベントをクリアしてのこのこ現れた奴を信じて行動できるかどうか。先々の不安は数あれど、今取りうる選択肢は非常に少ない。


「信用するかどうかは置いといてまずは会う事が先決ですね。とりあえず全員のLvが5を超えたらイベントに挑みましょう」

「そうね。私は今日は疲れたからシャワー浴びて寝るわ」


 そう言うとチサトさんは部屋へと戻るべく手をヒラヒラと振りながら去って行った。


「あたしも~」


 チサトさんを追いかけてアスミも駆けて行った。去り際に「部屋に来たら殺すから」と脅し文句を置き去りに。


「――さて、ケンジさん。俺は実際のところ初心者の館には何かあると踏んでるんだが」

「僕もです。立て看板の示す先にイベントが無い筈がない」


 俺とケンジさんはガッチリ握手を交わし、裏の目標設定を確認し合った。


 しかし、もう、疲れた………。今日のところは眠るとするか。


【レンとケンジの絆が1上がった!!】

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