第9話 レベルアップしがち

「さて、となると問題はパーティー分けだが」

「資金稼ぎと言えばRPGではモンスター狩りが一般的よね?」


 俺がナーロウに出した要望の中に経験値の概念があったな。ナーロウのことだ。RPGの世界観に合わせてくれていることだろう、とは思う。


 最も、今そのナーロウが居ないということは最悪この世界観が崩壊している可能性もある。さて、取るべき方策は……。


「何らかのノルマを果たして資金を得る。あるいはモンスターを倒して資金を得る。だいたいこの二通りだろう。情報収集班はお使いミッションを斡旋している業者がいないか探そう。資金調達班は街の外に出てモンスター狩りだ。街の外にナーロウがいる可能性もある」

「結界みたいのが張ってあって~みたいなやつね」


 アスミもそれなりにRPG的な小説へのダイブ体験はありそうだ。みんな飲み込みが早くて助かる。


「街の中にどんな危険が有るかもわかりません。ココは男女ペアが無難かと」

「そうですね。回復と攻撃のバランスがいいチサトさんと攻撃担当のケンジさん。頼めますか?」

「おっけ。私が居ない間にアスミちゃんに変なことすんじゃないわよ?」


 不思議と信用はまだ無いらしい。俺は深々と頷きすぐにアスミの手を握ってじっくりと目を見つめ言い放つ。


「君は俺が守ると言ったろ」

「そう言う事をすんなっつってんだよ!」


 擬音で示すなら恐らく“ドゴォッ!!”チサトさんの激しいツッコミ、いやグーパンが脳を揺さぶる。HPの表記は無いが恐らく20発もくらえば失神するだろう。おかしい。召喚士の拳力ではない。


「――冗談はさておき」


 パンダのような青あざを目元に作り、気を取り直す。


「危険な任務かもになるかもしれない事を任せるのは気が引けますが。モンスター討伐班(仮)のケンジさん、超舌魔法でブチかましてきてください。チサトさん、ヲニの召喚でサポートをお願いします!」

「承った!」

「任せときな!」


 頼もしい返事に俺の心は高鳴る。そういえば仲間と冒険なんてゲームでもやったことなかったな。ひたすらソロプレイソロプレイでいつしかリアルな人間との対話なんてほとんど忘れかけていた。


「アスミ、君は俺と情報収集。場合によっては俺を守ってくれ」

「何かカッコ悪っ! 自信満々なのに。さっき言ってたセリフと180°違うし」


 うむ。俺も何か戦闘系のスキルを身に着けるべきかな。何かと便利だし。暇な時に考えておこう。


「じゃあ、また何かあったら念話で!」



  ☆☆☆



「さて、俺達のやる事と言ったらギルド的な存在を探すか、職業斡旋所を探すかあるいは攻略に有益な情報を探すか、だな」


 あれ? ふと思ったけど、目的もなく男女でブラブラと街をふらつくことを世間ではデートと言うのでは? これはもしかして初デートという事では?


 俺の青春の1ページに遅まきながらJKと初デートなんて文字が刻まれることになるのか? 最高だ!


「(ならないから。念話で思考ダダ漏れだから)」

「(ゲッ)」

「後、目的は有るでしょ。お金と情報。二度と忘れんな」

「はい」


 という訳でとりあえず道行く人に色々話しかけてみる事にした。ナーロウが言うにはAIの生成したNPCと洗脳された人間がいるみたいだが。とりあえず気のよさそうな少し恰幅のいいおじさんに話しかけてみる。


「あの、そこの御方」

「うん? なんだい?」


 よし、会話は出来るみたいだ。ナーロウが万能AIとは言え、この街の全ての人間に会話設定できるとは流石に思えない。手当たり次第声を掛けるつもりだったが一人目で当たりを引いたようだ。


「ここらで、仕事かお使いか情報が得られる場所は無いでしょうか」

「ああ、君たちは冒険者かね。だったらこの先に『コンニチワーク』という場所があるからそこで色々尋ねるといい。君たちにピッタリの仕事を紹介してくれるはずだ」


 ギルドとはちょっと違うらしい。まさか異世界に来てまでを訪ねる羽目になるとは。


「ありがとうございました!」


 おじさんが指差した方向へ進むこと5分ほど。『職業安定所~コンニチワーク~』と言う看板を見つけたので早速中に入ってみる事にした。


 中に入るといの一番に目に飛び込んできたのは『働かざる者食うべからず』と書かれた掛け軸。ここに入ってきたものには必ず目に入るように配置されている。右手に続く廊下を抜けるとそこには受付のようなものが。着ている物こそファンタジー風だが、どう見てもハロワだ。


「いらっしゃいませ! お客様!」


 元気良く挨拶してくれるお姉さんとは対照的に中の雰囲気はそう明るくもない。


「お仕事をお探しでしょうか!?」

「ええ、まあ。俺達一文無しで、すぐにでも稼げる場所を紹介してほしいんです」

「なるほど、少々お待ちくださいませ!」


 お姉さんは裏へ引っ込むと大量の書類を持って再び俺達の前に現れた。


「そちらのお兄さんは健康そうですので指定モンスターの討伐から薬草の採取まで色々取り揃えてます」


 ドサッと音を立てて目の前に書類が積まれる。一応選り取り見取りの様だが……。これはマズイな。


「(ケンジさん! チサトさん! すぐに合流してくれ! やっぱりクエスト的なのがあった!)」

「(ちょっと待って! 今ピンクスライムとかいうのを一匹倒したところ!)」

「(あ、お金落としましたよ! 500z硬貨? 序盤にしては割ともらえますね)」

「(アイテムもドロップしたわ。『ピンクの液体』?)」


 既に敵と戦ってたか……。まあ、しょうがない。スライムぐらいならいくらでも湧いてくるだろう。


「スイマセン。ちなみにピンクスライムって討伐依頼有りますか?」

「ええ! もちろん! 良質のローションが生成できますので一体分の素材当たり300zでお取引きしております!」


 500z+300zで一体毎に800zか。中々いい稼ぎになりそうだ。


「いや、ローションの素材集めって」


 アスミは不満そうだが生きるためには仕方ない。割り切って働いてもらわないと。俺は念話のスイッチを切りながらそう思った。


「そちらの若いお姉さんは高収入・短期間の求人がたくさんありまして……」

「なんとなく察しちゃったけど、どんな?」


 あ、これ俺も察しちゃったな。何となく、何となくだが巨大な広告のトラックが街を走り回る姿が見えた。


「例えばこちらなんかは月に50万zも夢じゃない感じで、体験入店でも一日1万zと、かなり……」

「ぶっ殺すよ?」


 まあ、小説の中とは言えそりゃそうだよな。


【ケンジとチサトはレベルが1上がった!!】

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