人生を変えた一冊/矢野徹『折り紙宇宙船の伝説』

晴れ。

人生を変えた一冊を選ぶなら、これ以外にはない

『折り紙宇宙船の伝説』



日本にSFというジャンルを根付かせた人物

矢野徹やのてつ 1923年(大正12)~ 2004年(平成16)


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 あのとき、

 美しい狂女・お仙は、平和な山村で、

 夏は裸、冬もうすい浴衣一枚でいた。


 そして彼女は、折紙の飛行機を飛ばして遊ぶ。

 が、不思議にも飛行機は、いつまでも落ちることなく、飛んでいる……。


 そんなお仙がひとりの男の子を産んだ。

 その子に降りかかる運命は、

 生物との激烈な闘いと、

 セクシュアルな世界の彷徨……?


 そして今、僕は昔、お仙に出逢った村を探していた。


 リリカルに綴られた“叙情SF”の傑作。


 <角川文庫 本書紹介文>


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矢野徹という人


小説家というよりSF小説の翻訳家として

多数の海外SF小説を日本に紹介し、

「SF」というジャンルを根付かせた。


日本の「文学」界への影響も絶大。

人の価値観・認識にすら影響を及ぼしている。



まだ日本に「SF」が存在しない頃。

大正期から昭和初頭に掛けて

人々の「宇宙」の認識は

今では考えられないような

社会現象を巻き起こした。


人々は本気で信じていたのだ!

 「悪魔が人類を滅ぼす」

明治末「ハレー彗星」襲来の報

人々は心底恐怖した。

長く伸びた「ハレー彗星」の姿。

「悪魔の髪」

「悪魔の尾」

本気だった。


一部の天文学者は

「悪魔の尾には猛毒がある」

「空気が無くなる」

「人類は滅亡してしまう」

発表。

真顔で断言した。


地球を通過する5分程の間どうするか

当時の「識者」と呼ばれた人々によって

真剣に論じられた。


日本では

5分の間を耐えるよう

自転車のチューブが買占められ

桶やタライに水を張り

息を止める訓練をした。


当時の新聞、

ラジオ、

ニュース映像にも記録されている。




「SF」のない時代、恐るべし!

『「ハレー彗星」と人類』

これだけで 面白い話が山盛りだ。



「SF」というジャンルが定着していない時代

最新の宇宙の情報は こんなもんである。


学びは娯楽と興味から。


「SF」が定着した現在

人々は

「彗星」を観測し眺め

「月食」を「天体ショー」として楽しんでいる。


100余年での人々の変化。


矢野徹の偉大さは

多少でも感じて頂けるだろうか。


おまけ話として

一般に「PC」が普及し

ゲームの「RPG」が定着することになったのも

「矢野徹」は大きな存在だと記しておく。


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『折り紙宇宙船の伝説』(1978)

矢野徹の代表作とも呼ばれている。

知名度でいえばアニメにもなった「カムイの剣」の方が上か。

それよりも

古すぎて誰も知らないかも知れない。


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出会いは本当に偶然なのだ。

仕事での

出先で見かけた古本屋。

棚に入りきられない本が

うず高く積みあがる。

埃臭さも合いまって

気分はトレジャーハンターだ。

今では

古本屋自体に

骨董的価値を感じる。



『愛すべき 汚さ』



無造作に置かれていた文庫本だった。


タイトルはおろか名も知らぬ作者。


竹林に浮かぶ女性の顔。


その時

何を思って購入したのか。

全く覚えていない。


例えるなら

偶然は必然。


呼ばれたのだと

思っている。


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衝撃を受けた。

たぶん そうなのだろう。


「物書き」として存在する自分が

この本に出会わなければ

「物書き」にはならなかった。


この本に出会ったおかげで

たぶん「生き延びた」


「琴線に触れる」全てが詰まっている。


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どこへ行くにも

『折り紙飛行船の伝説』の文庫を持ち歩いていた時期がある。


なんといえばいいか。


お守り?

「ライナスの毛布」?

ないと不安だったのかも知れない。


隙間時間には適当なページを開き文章を追った。


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仕事先の廊下の隅。

自販機の陰でページを開いていた。


「僕もそれ好きなんだよ」


白い髭も長い、老人と思えた人が声を掛けてきた。


初めて出会う

『折り紙宇宙船の伝説』を知る人。

嬉しくて舞い上がったのは覚えていた。


のちに 

その老人が、その業界では重鎮と称される人物と知る。


あまりに嬉しくて嬉しくて。

相手がどんな人物かも聞かずに夢中で語りまくり。

老人が語り聞かせてくれる数々の逸話に

胸躍らせた。


「ラジオドラマ 聞いたことがある?」


そう言って後日

ダビングしたのだと言う

カセットテープをくれた。

再生するものがなかろうとの気遣いで


「古いけど まだまだ現役だよ」


やや大きいラジカセもくれた。


かなり古い放送なのだと教えられた

ラジオドラマ『折り紙宇宙船の伝説』


声は

果てしなく広がる。

その世界は

ただただ 美しかった。


声の導きで小説の世界に降り立った。


文章を追う以外の

その世界への入り方を

初めて知った。


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創作方面の業種に身を置き、

文筆を生業とし始めてから随分になる。


名前が表に出る事は

これからもないだろう。


それでも

いつも『折り紙宇宙船の伝説』が

自分の中のどこかにいるのだ。







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人生を変えた一冊/矢野徹『折り紙宇宙船の伝説』 晴れ。 @Nirvana852

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