第2話 妄想には病的なものもあります
ある晴れた休日のこと。
大柄の男と小柄な少女は、一緒に喫茶店でコーヒーをすすっていた。
コーヒーにはレモンケーキとチーズケーキが添えられている。
少女はチーズケーキをフォークで一口大の大きさに切って、一息に口の中に入れた。
目を閉じてケーキを味わい、そしてコーヒーを運ぶ。
(うん、やっぱりこの豆を選んでよかったわ。苦みできりっと後味が締まるし、ケーキにも合う)
そんな感想を持ちつつ向かいにいる男性を見てみる。
おいしそうにもぐもぐとケーキを食べている男性に気づくと、少女は、
「私の分のケーキも食べる?」といいながら、ケーキの皿を男性に寄せた。
「うん、たべりゅ~」男性は幸せそうにあくびしながらそう応え、フォークをケーキに突き刺した。
そんな時だった。
「あら、おふたりとも仲のいいことで~」
二人に声をかけてきた女性がいた。
ショートカットに黒縁の眼鏡、清潔な白のシャツに黒いスラックスを履いている。
少女が着ているような、少女趣味全開のフリフリとは対極の位置にある服装だった。
「やあ、シオリさん」男性は女性に声をかけた。「どうしたの?こんな日にまた仕事?」
「仕事の準備ですね。私の場合、仕事はほとんど大学で準備することが多くて」
二人は何やら「仕事」について話し始めた。
こうなると長いのだ。男性にとっては、自分の「仕事」にも関係している「シオリ」は、いなくてはならない存在である。
だが、ただひとり、話に混ざらないという形で自己主張をしている少女だけが、彼らの裏の顔を知っているのだ。
こんなに顔を近くにして話していて――
こんなに意味の通った話ばかりして――
何の関係もないなんてありえないでしょ。
(きっと、私なんかよりも勉強ができて、私なんかよりあいつの仕事について理解ができるんだろうな)
その時、彼女の脳裏にある情景が浮かんできた。
暗い部屋の中、ベッドはひとつ、まくらはふたつ。
そのまくらでさえも、ベッドからずり落ちている。
ベッドの上で一つにつながっているのは、まぎれもなく「あいつ」と「シオリ」だった。
男性の上にまたがって、上下に体を揺らすシオリ。
息を荒げながら下から彼女を責める男性。
(もしそうなっていたらどうしよう、シオリに勝てるところがないよう)
そこに行きついた少女は、はらはらと涙を流し始めた。
「え?なんでこの子泣いてるの!?」
「取るなよう」
「取りませんよ、ふふっ」
少女の泣き顔に驚く男性と、少女の突然の発言に面白そうな顔をするシオリ。
今日は平和だった。
妄想狂日記 名無しの詩 @nanashi_no_uta
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