妄想狂日記

名無しの詩

第1話 はじまり

ごぉー、んごぉー……

んがっんむにゃ、ぐごぉー……


ここはとある港町のくたびれた旅館の部屋。

大きな体格の男が、鼾をかきながら眠っている。

その隣に寝ている少女は、閉じていた目を開いた。


(寝付けねー!)

少女は忌々し気に男の頭を睨んだ。

(睨んだら頭が破裂したらいいのにっ)

なんて物騒なことを考えているのだ。


仕方なしに布団から飛び起き、髪を梳かす。

一糸纏わぬその姿からは、男との関係が感じられた。

少女はバスタオルを体に巻き、カバンからメッシュケースを取り出した。

(こんなに眠れない時は、こうするに限る)

ケースからヒートの包装がされた薬――に見えるもの――を、少女は口に放り込んだ。


少女が飲み込んだ錠剤は、医師の処方さえあれば買える、ある意味よく知られている薬である。

その効き目が出ると、安らかに眠れるはずである。


彼女もその効用を得たいと思ったのか。

「違うわね」そう彼女は息を吐きながら呟いた。


「これは眠りよりもいいものを私にくれるの」


瞬間、少女の脳裏にいくつものワードがあふれ出した。

「カルフォルニアの水夫?そんなのいるのかしら?」

「私の水筒はもしかしたら冒険への架け橋になるかも?」

「異形の画家、異形なのは画家なのか、画家に描かれたモデルの方なのか」

彼女はぼうっとした目でつぶやきつつ、ノートPCを開きタイプを始めた。


開かれたノートPCには、雑多の事柄が記録されている。

少女はテキストデータに日付をつけ、とあるフォルダに保存した。

「妄想狂日記」

それは彼女が眠りと引き換えに得た物語なのかもしれない。

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