『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』水鏡月聖著を読んで 笹葉更紗
『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』を読んで 笹葉更紗
「え、サラサ。駅そっちじゃないよ」と瀬奈が言った。
放課後の帰り道、電車の発車時間が近くなっているのだからそういうのも無理はない。田舎の駅ともなればそうそう次の電車が来るわけでもない。
「ごめん、瀬奈。ウチ、どうしても行かないといけないところがあるから。瀬奈は先に帰って!」
「あのさあ、アタシがサラサを置いてひとりで帰るわけないじゃん。こんなに愛しているのに!」
「うふ、うれしいわ。じゃあ、ちょっとだけ付き合ってもらうわ」
「ねえ、それでさ。どこに行くの?」
「うん、すぐそこの書店なんだけど」
「なあんだ。じゃあいつものことじゃん」
「ごめんね、今日は楽しみにしていた新刊の発売日だから」
「サラサが楽しみにしていたって言うんだから、そりゃあ面白いでしょうね」
「さあね。さすがにそれは読んでみないとわからないけど……」
と、その時ウチらを後ろから小走りで追い抜き、走り去っていく人物があった。うしろすがただけでそれが誰であるか迷いはない。彼は、ウチ等を後ろから追い抜くときに気づかなかったのだろうか。それとも、それほど急いでいたのか。
「あっ、ユウ! 無視すんなコラッ!」
後ろから走って追いつき、鞄で殴打する瀬奈。
「な、なんだよ。そんな声の掛け方ってあるか?」
「そっちこそ、なんでアタシ達を無視すんのよ!」
「いや、ごめん。ちょっと急いでいたものだからさ。売り切れると困るし」
「なによ。何買いに行くつもりなのよ!」
「えっと、すぐそこの書店まで。ロシデレと、ハルヒの最新刊が発売されるからさ」
竹久がその二冊を買おうとしていることには納得できる。だけど、果たしてそれだけだろうか? ウチが買おうとしているその本も、きっと彼は買おうとしているに違いない。
「本当にそれだけかしら?」と、ウチは言う。
「えっと、まあ。ほかに何か気になるものがあれば買うかもしれないけれどね……」
あきらかにはぐらかそうとしている。回りくどい言い方も面倒なので単刀直入に聞く。
「『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』は?」
「あ、あったなあ。そういうやつも……」
竹久は視線を逸らす
「そう、それほど興味はなかったみたいね。それじゃあ、もし一冊しかなかった場合はウチに譲ってもらってもいいかしら?」
「いやそれは!」
「めっちゃ興味アリアリじゃん! なにそれ、面白いの?」
「さっきうちが買おうと思っているって言っていた本よ。ちょっと淫靡な百合ミステリよ」
「ふーん淫靡か。要するにえっちいのね。ユウも、そういうの好きなんだね」
「いやあ、なんというかさ。百合が嫌いな男はいないと思うんだよね」
「それは偏見じゃない? つかさ、前にアタシがそういうこと言った時、ユウは偏見だって言っていたわよね!」
「あれ、そうだっけ?」
「そうよ。それにさ、ユウはえっちな百合が好きっていうことは、もしかしてアタシたちを見ながらそういう想像してたりするんじゃないの?」
「え、あ! いや、そんなことはないよ! ないない絶対ない!」
「えー、むしろないって言われるほうがちょっとムカつくんですけどー。少しは想像しなさいよ」
「え、あ、いや……」
竹久は、ウチと瀬奈の顔を交互に見て、それから照れくさそうに眼をそらした。そのしぐさを見逃す瀬奈ではない。
「あ! 今アタシたちでえっちな百合を想像したでしょ! このスケベニンゲン! 狼!」
気まずそうにそっぽを向いた竹久だが、今度は開き直って言い返した。
「ああ、想像した想像した。そりゃもう想像したよ。なんならおれも女の子になって混ざっているとこまで想像したよ!」
「はっはーん。ついに正体を現したわね。所詮ユウも――」と言いながら、瀬奈はウチに視線を向けた。
「つかさ、サラサ顔真っ赤だよ。サラサもいろいろ想像しちゃったのかなあ?」
「うっ、うるさい!」
『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』
本日発売です。ロシデレやハルヒの新巻と一緒にお買い求めください!
僕らは『読み』を間違える ショートストーリーズ 水鏡月 聖 @mikazuki-hiziri
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