エピソード1 第4話
23:00。
彩人の作ったセキュリティソフトは、問題なくインストールできた。
インターフェースもシンプルで、ナナでもすぐ主要な操作方法は把握できた。
ナナは思った。
ほんとこの人すごいな・・・
でも謎な人だ・・・。
彩人が言った。
「さて、始まりだ。
さっきの説明のとおり、まずやつらが来るための「エサ」をまく。
やつらがしかけた不正ファイルを、オレの作ったファイルにすりかえる。
そして、わざとかかったふりをしてそれを作動させる。
そうすれば、やつらにそれがわかるはずだ。
やつらは、自分たちの企んでいることに気がついた第三者がいる、ということがわかれば、そしてそれがオレたちだということがわかれば、オレたちを攻撃してくる。
そこで、オレたちはやつらの攻撃を防御しながら、やつらの「穴」を見つける。
やつらの「穴」をうまく突くことができれば、やつらの正体がわかるかもしれない。
さきほどインストールしてもらったソフトは、説明したように、サイバー攻撃をリアルタイムでモニターし、攻撃を遮断する能力を持っている。
100%完全ではないが、ほとんどの攻撃から守ることはできるはずだ。
そしてもうひとつ、このソフトにはこういう機能もある。
複数のユーザー間でP2Pで情報共有し、他方をリモートで防御する仕組み。
つまりオレたちが、もう一方の状況を監視したり、攻撃を防御したりする機能も持っている。
たとえば、ナナさんが攻撃を受けそうになったら、オレのほうがそれを検知して防御することも可能、ということだ。
これを使って、オレたちはやつらからのアクセスを検知し、おたがいに協力してやつらの攻撃を遮断するんだ。
そして、オレのほうには、アクセス元を逆探知して攻撃を加えることのできるツールがある。
これでオレはやつらがどこから攻撃してきてるのかを探知し、やつらを叩く。
これが、オレのシナリオだ。
まあ、これでやつらの攻撃を防いで、さらにやつらの正体がわかれば理想的だが、正直どこまでいけるかわからない。
ファイルのすりかえと、やつらをおびき寄せる役目はオレがやる。
ナナさんの役割は、すりかえたファイルにやつらがひっかかるかを監視すること、そしてオレのPCにアクセスしてくるか、やつらの動きをモニターすること。
この二つだ。
モニターしていることが向こうにバレて、ナナさんを攻撃してくる可能性もあるから、そこはじゅうぶん注意して。
もちろん、オレができる限り協力して守る。
自分を守る手順はさっき説明したとおり。
さっき送ったマニュアルにも書いてあるから。わからなくなったらそれを参照して。
おたがい、可能な限り常時チャットで連絡は取り合おう。
そして・・・
ナナさんはくれぐれも無理はし過ぎないように。
調子が悪くなったら、できるだけすぐに連絡して。
オレのほうで、やつらがナナさんにアクセスできないように遮断することもできるから。
いいかな?」
「・・・はい。緊張してますけど、なんとかだいじょうぶです」
「うん・・・。じゃあ行くぞ」
彩人は、E社のサイトにアクセスすると、自作のハッキング用ソフトにキーを打ち込んでサーバに忍び込み、データファイルを交換することにすんなり成功した。
しかし彩人はこう言った。
「でも、これでうまくいったとは限らない。もうすでにやつらはオレたちに気づいていて、泳がせてるだけかもしれない」
彩人は注意しつつサーバから離れた。
サーバのセキュリティホールは、離れるときにふさいでおいたから、しばらくはサイトが隙だらけの状態から逃れられる。
彩人はそのまま、やつらが自分を追ってくるのを待った。
ナナは、セキュリティソフトのモニター画面を一心に見つめていた。
早く来て、来るなら早く来て、でもほんとは来てほしくない・・・
心臓がバクバク鳴りそうなほど脈打っていた。
だいじょうぶ、彩人さんがいるし、ひとりじゃない・・・
「落ち着いて」
彩人がチャットを送ってきた。自分のいまの気持ちを見透かされたようだ。
「・・・だいじょうぶです。ありがとうございます」
「やつら、オレたちの動きは絶対把握してるはずだが、しかけてこない。
様子を見てるんだろう。
オレたちがどうするつもりなのか、見極めようとしてるのかも。注意深くいこう」
「はい」
ナナはモニターアプリの画面を見つめ続ける。心臓の鼓動は鳴り続けている。
ふと、モニターがなにかの動きを検知した。443番ポートに怪しい通信。
「やつら、わりと素直なところから攻めてきたな」
彩人がチャットを送ってきた。
「ナナさん、443番ポートの通信A-1を遮断して! PCのリソース食うかもしれないから、これからケータイのほうにチャット送るよ!」
「了解!」
ナナは443番ポートに来た通信A-1を遮断しながら、ケータイで返事を送る。
80番ポートにB-2、22番にC-5・・・ 次々に攻撃がやって来る。
ナナは順々に遮断していく。
「オッケー。ナナさん、うまく遮断できてる。順調だ」
彩人はナナを元気づけようとことばをかけてくれている。
しかし、ナナは少しずつ包囲網にとらわれていくように感じる。
しばらく、攻撃が止まった。
「攻撃をやめたみたいだ。お試し、って感じか。
まだ油断はできない。すぐ遮断できるようにしといて」
「はい」
143番ポートに反応が来た。IMAPメール受信のポートだ。F-5信号。
「そう来たか。143番F-5遮断!」
「はい」
ナナはF-5通信を遮断した。
「ヤバい、オレのほうに複数、同時に来た。
自己防衛するからそっちに手が回らないかも・・・。
音声チャットに切り替えるよ!」
ナナも音声チャットに切り替えた。
と同時に、ナナのモニターにも複数のポートに反応が来た。
「ひゃっ!」
「ナナ!だいじょうぶか!」
「こっちにも複数来ました!
該当のアクセス、全部遮断します!」
「わかった!」
「該当のアクセス、全部遮断しました! ポートごと閉じたほうがよくないですか?」
「いや、そこまでしないほうがいいい。
やつらが攻撃できなくなったら、こちらから追えなくなる。
おびきよせるためにも、ポートは開いておいて向こうがアクセスできる余地を残しておいたほうがいい」
「だいじょうぶなんですか・・・怖いです・・・」
「だいじょうぶだ。しっかりして!
いま、オレのほうで相手の経路を探知できるプログラムを作動させてるところだ。
やつらのアクセス経路を辿ってる。
もう少しでやつらがどこからアクセスしてるか、わかるかもしれない・・・。
とにかくもう少しの辛抱だ、待って」
「・・・わかりました・・・ 早くして・・・」
彩人がものすごい勢いでキーを打っている音が、チャットソフトをとおしてナナのところにも聞こえてくる。
また複数の攻撃が来た。彩人のほうにも複数来ていると言ってきた。
おたがい、自分を守るのにせいいっぱいだ。
いったい何人で攻撃をしかけて来てるのか・・・
ナナの心に恐怖が増してくる。
しかし、モニターを見続けていて、はっ、とナナは気がついた。
多数押し寄せてきているアクセスのうち、いくつものポートをランダムに攻撃して来るのは一つの通信だけだ。
あとの通信は、一見ランダムなようだが、3つのパターンを順番に繰り返して攻撃して来ているだけ。
つまり、たぶん「ボット」なのだ。
ナナは叫んだ。
「彩人さん、ランダムに攻撃をしかけてきてる通信は一つだけです!
あとは規則的に443, 80, 22, 143・・・、80, 143, 443・・・、143, 22, 80・・・の3つのパターンを繰り返して来てるだけです! ボットかもしれません!
彩人さんのところに次に来るのは80です!
あたしが遮断します!」
そう言うが否や、ナナは彩人の80番ポートに来たB-5データを遮断した。
彩人が返す。
「ナナ、サンキュー!
そういうことか。
つまり、大勢で攻撃しているように見えるが、実は一人だけ、ということだな。
なら防御も少し楽になる。
よし、もうすぐ逆探知できそうだ。
待って、もうすぐ・・・。
これだ、これだ!
つきとめた。IPアドレスは1つ。つまりアクセス元は1か所。
やっぱり。
「やつら」じゃなく、1人なんだ。
場所も海外を偽装しているが、実際には日本国内だ。
よし、こちらから攻撃をしかける。
ナナ、いったんそっちのポートぜんぶ開ける?」
「ええ?」
「たぶんやつはもう一度襲って・・・ いや、アクセスしてくる。
そうしたらその瞬間、オレのほうから逆に攻撃をしかける。
念のため、いつでもすぐ全ポート閉じられるように準備しといて」
「え!? そんな、ヤバいですよ。危ないですよう・・・」
「もう遅い。全ポート開けて!」
「ええ? ・・・あ、ああ、はい!」
ナナは死ぬ思いでぜんぶのポートを開いた。
もう終わりだ・・・ 彩人さん、なんとかして・・・。
「・・・いま攻撃をしかけた。いけるぞ!」
彩人が、パチーンと力強くタイプを打つ音がした。
しばしの無音。
ナナは恐怖に凍りつきそうだ。
沈黙を破って、彩人が声を発した。
「くそ、やつ、逃げやがった。
ナナ、もうだいじょうぶだ」
ナナは全身が固まったようで、身動きできなかった。
マウスを持つ手も微動だにできない。
「・・・終わったんですか・・・?」
「ああ、たぶんな・・・。
こいつ、Webページの中にメッセージ残していきやがった。
しかも、ご丁寧にRSA暗号化してね。中身を秘密鍵で復号した。テキスト送るよ」
彩人はそのメッセージを転送してきた。
Vivid Colour 殿
お前らが、世界的ハッカー「Vivid Colour」とその仲間だということは、途中で気づいたよ。
さすがになかなかの腕前だな。ほめてやるよ。
こちらのやろうとしていることも見透かされたようだな。
今回は、これでいったん手を引くことにする。
ただし、お前に負けたわけじゃない。ボクは必ずお前らに勝つ。
それは忘れるな。
不正を表に出すという、こちらの目的は今回達成できた。いまのボクにはそれでじゅうぶんだ。
これ以上お前らと暇つぶしをしてる時間はいまはない。
まあ、お前らとは必ずまた出会うことになる。
その時には、また勝負だ。覚悟しとけ。
そうそう、自分が名乗るのを忘れていたな。
ボクは「L」。
またの名を「TOMNYAT」。
どうだ、驚いただろう。
お前が驚いてくれてると期待してるよ。ボクは人を驚かせるのが大好きだからね。
わざわざここで明かしたのは、お前がこんなことをWeb上に暴露したりするようなやつじゃない、と知ってるからだ。
つまり、ある意味、お前を「信用」してるということだ。光栄だろ?
これがお前らの善戦に対する、ボクからのささやかな祝福さ。
See ya!
"L" a.k.a."TOMNYAT"
「「L」・・・これがほんとうのコードネームなんですか? なんなんですか、こいつ・・・」
「ああ。まさかTOMNYATの正体が「L」だとはな・・・」
「・・・知ってるんですか?」
「ああ、「L」は伝説のハッカーだ。
ネットの世界ではホワイトハッカーだということになっているんだが、これがTOMNYATの正体だとすると、ホワイトハッカーであると同時に犯罪者でもあるということになる。皮肉な話だ・・・」
「え・・・そんな・・・」
「しかも「L」は日本人だといううわさもある。意外とオレたちの近くとかにいるのかも」
「ひええ・・・?」
「ま、そう心配するな。とにかく今回は、もうやつは襲ってこないだろう。
しばらくは来ないと思う。計画を立てて、次の機会を狙っていつかまたやって来るだろうが・・・。
とにかくナナ、おつかれさま。
きみは本当によくやったよ。正直、ここまでやれるとは思ってなかった。
オレも助けてもらったし・・・。
ありがとう。感謝するよ。いまからはゆっくり休んで。
あとのことは、また日をあらためて話そう」
ナナはまだ終わったという実感が持てなかった。まだ身体中が硬直している。
でも、少しずつ全身の力が抜けていくのを感じた。
そして同時に、彩人に守られて、なんとかここまでやれたという安堵も感じた。
「・・・ありがとうございました・・・そうします・・・それから・・・」
「ん?」
「・・・また直接会えますか? ミルトンででも、どこででも・・・」
「もちろん。また会おう」
「それでは、また・・・おやすみなさい」
「おやすみ」
時計を見た。朝の4時を回っていた。ナナはそのままベッドに倒れこんだ。
***
ナナがミルトンに入ると、奥のテーブル席のシートに、もう彩人は来て座っていた。
ナナを見ると片手を上げた。
「・・・すみません、おそくなっちゃって。いつも時間守れないんです、障がいの特性で」
「・・・ああ、そういう障がいだということも理解してる。だから気にしないで」
「先日は、本当にありがとうございました。いろいろ助けていただいて」
ナナは向かいのシートに腰かけた。
きょうの彩人は黒いTシャツに紺色のジャケット、黒のチノパンという姿だった。
初めて会って以来、ひさしぶりに見る彩人は、前見たよりもかっこよく、頼もしく見えた。
ナナは白のタートルネックの上にベージュのフルジップジャケット、紺のデニム。
ユニクロ中心のコーデで固めているきょうの自分を、やっぱりもっとおしゃれな恰好で来るべきだったな、と思った。
時間がなくて急いでたし、後の祭りだ。
「いや、こちらこそ予想以上に助けてもらった・・・。
その後、症状はだいじょうぶ?」
「はい・・・あれから3日ぐらい寝込みましたけど、いまはいちおう回復してます。
医者にはこっぴどくおこられましたけど。
だいじょうぶです。
B型事業所にも行ってますし、Webの勉強してます。
・・・あ、ポートフォリオ作ったんですよ。これ、見ていただけますか?」
「そうか。よかった」
と言って、彩人は自分のドリンクを一口飲んだ。たぶんジントニックだろう。
ナナが差し出したポートフォリオを、彩人は1ページ1ページ、じっくりと見た。
彩人が見ている間、ナナはかしこまったように両ひざに手を置いて、彩人の様子を神妙な面持ちで眺めていた。
やがてポートフォリオを閉じると、彩人はテーブルの上に置いた。
「いかがですか?」
彩人は表情一つ変えずに
「・・・うん、いいね。
実は、たぶんこういうのを作ってもう公開してるんだろうなと思って、ここに載ってるサイトの大半をすでに見たんだ。ドメイン類推してね。
ビギナーとしては上出来以上じゃないかな。
デザインセンスについては、オレが良し悪しを言える立場じゃないから批評を控えるが、デザイン理論はしっかり押さえてるし、悪くないと思う。
ソースコードも見たけど、コーディングはまだ部分的には改善を要するところもあるけど、全体的にHTMLやCSS、JavaScriptの作りに無駄がなくて好感が持てる。
いいんじゃないか?」
「・・・ほんとですか? うれしい!」
ナナは笑顔でいっぱいになった。
「実は、オレのところにいまもサイト構築の依頼がよく来るんだ。
システム部分はオレがやるけど、よかったら、そういう案件のデザインやUXのところをやってもらえるかな?
あ、もちろん、報酬は必ずお支払いするよ。
そんなに高い額ではないけど、クラウドソーシング受けるのよりはおいしい金額だと思う」
「・・・ほんとですか・・・願ったりです。ぜひお願いします!」
ナナは彩人に深く頭を下げた。
彩人は言った。
「ま、こないだはすごく苦労をかけたんで、いい話ももって来ないとな、と思って。
それに、今回の件で、きみが思った以上に能力を持っているというのもわかったから、安心して仕事を任せられる。
ボットの件、よく、すぐに気がついたな」
ナナは褒められて、ちょっと照れながら、
「ありがとうございます・・・
彩人さんのような人からそんなふうに言っていただけるなんて・・・もう・・・。
まあ、あれもADHDの能力みたいなもんです。
あっちこっちすぐに目移りするんで、逆にああいうのすぐ見つけられるんです。
いわゆる「多動」なんで・・・。
だけど、今回のこの件はほんと、正直もうかんべんしてほしいです・・・。
あ、メーカーのサイト、ぜんぶ直ってましたね」
「ああ・・・でもな、まだ終わってないからな・・・」
ヒロさんが、ナナのオーダーした自家製ジンジャーエールを持ってきた。
ナナのお気に入りのドリンクだ。
以前はカクテルを飲んでいたが、ADHDの薬を処方されるようになってからはアルコールが飲めないので、それ以来いつもソフトドリンクを飲んでいる。
ナナがヒロさんに礼を言うと、ヒロさんは、
「まあ、うまくいったようやな、その様子だと」
「ヒロさん、彩人さんがあたしに仕事くださるって。すごいうれしいです」
「ほう、じゃナナもとうとう、本格的に念願のWebデザイナーデビューということやな。よかったよかった。
ま、2人とも、こう見てるとなかなかお似合いやで。仲良くしいや~、はっはっは」
と言って引っ込んで行った。
ナナは少しむっとして、
「なに言ってんですかね、ヒロさんは。おたがい迷惑ですよね」
彩人はそれには応えずに、冷静な顔をしたまま言った。
「・・・「L」はまた来るだろう。
次来るときは、はじめからこちらを狙ってくるわけだから、もっとやっかいな戦いになると思う。
で、オレはこっちの件も、もしきみができるなら、手伝ってほしいと思ってる。
というのも・・・」
と言って、彩人は少しの間、ことばを止めて頭を掻いた。
ナナは首をかしげて、彼の答えを待った。
「・・・なんていうか、こないだの件で思ったんだ。
きみとは相性がよさそうだ、きみとならうまくやっていけそうな気がする、ってね。
あ、もちろんいっしょに仕事をする上で、って話だ。
ま、勘みたいなもんだ。
オレの勘はけっこう当たる。というか、いままでの的中率はほぼ100%だ。
だからはずれないと思ってる。
でも無理にとは言わない。しんどいことだからな。
それに、さっきの仕事の話とこれは別だ。
仕事をくれる恩義とか、ぜんぜん考えなくていいから。
いま返事をしなくてもいい。よく考えた上で、後日返事をくれるのでもかまわない」
ナナは心に、じん、と来るものを感じた。
少しの間うつむいて、考えるふりをして膝の上で組んだ両手を見つめた。
そして、顔を上げた。覚悟を決めた表情だった。
「いえ・・・いま返事します。
お手伝いします。手伝わせてください。
なんかあたし、彩人さんに出会えて、いろいろ学ばせてもらってるというか、今回もいろんなことを新しく知ることができた、と思ってます。
だから、この件も含めて、これからもまた彩人さんから学ばせていただきたいというか・・・自分が学びたい、というか・・・
なんか言ってることが変だな・・・いや、つまりその・・・。
・・・実はあたしも思ってました、彩人さんとまたコンビを組めたらいいな、って。
だから、彩人さんがそう言ってくださるの、すごくうれしいです。
それと、「L」の件は、あたしも最後まで決着をつけたいんです。
これはもともと、あたしが持ちかけた話だし。
だから、彩人さん、いっしょに戦います。
・・・だいたい、これ、あたしからお願いすべきことですよね・・・」
ナナは一気にそう言うと、恥ずかしそうな、申し訳なさそうな表情をした。
「・・・ありがとう。ぜひお願いしたい。
でも、たいへんだぞ。それでもやれるか?
もちろんできる限りきみをサポートする。
Webの技術についても、いろいろ教えるよ」
ナナは再び真剣な表情になって言った。
「・・・はい。やります。ありがとうございます」
彩人は感心したようにナナの顔を見つめた。
「・・・きみは強いな。
すでにいろいろなことと闘ってるしね。そういう人をオレはリスペクトするよ。
よし、じゃおたがいの前途を祝して、乾杯」
彩人が、グラスをナナの前にかかげた。
ナナは彩人のことばに再び照れながら、自分のグラスを持って応えた。
「乾杯」
2人のグラスが、カチンと鳴った。
ヒロさんがカウンターの向こうから声をかけてきた。
「ナナー、やり過ぎんなよー。マイペース、マ・イ・ペ・ー・スやー!」
「わかってますよぉ!」
ナナが叫んだ。
彩人は、その様子を見ながら、ふふっ、と笑った。
ナナはそれを見て思った。
彩人さんが笑うの、初めてみた・・・。
そして、また照れた表情で、彩人とヒロさんを交互に見つめた。
彩人さんに出会ったおかげで、自分の世界がどんどん広がっていく。
そして、彩人さんに出会わせてくれ、またこうやっていつも相談相手になってくれるヒロさん、支えてくれる篠見にも、感謝。
これから自分になにが起こるのか、ぜんぜんわからないけれど、でもこうしてみんなに力をもらえるなら、なんとかやっていける気がする。
たとえ、どんなにとんでもないことが起こっても、きっと。
ナナは、これからの自分の未来が、不安はあっても、それ以上にもっと期待と希望に満ちていると、心から感じるのだった。
(エピソード1 完)
征服するハッカーと、わたしのとんでもない戦い おんもんしげる @onmonshigeru
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