第四章

第25話 聖王女襲来

 目の前の不審者は、さも当たり前に僕を此処から連れて行く言い放った。


(誰この人……すごく嫌な感じがする)

「い、いきなり現れて、何を言ってるんですか!?」

「なんだ来ないのか?」

「当たり前です!今どき子供だって知らない人について行ったりしませんよ」

「セイラにはついて行ったのにか?」

(セイラさんを知ってる!一体何者なの?)


僕の警戒心のギアが更に一段階上がる。


 「分かっているのか。あれの責でお前は愛しき者と離れ離れにされ、先の出来事では死の淵に立たされたのだろ?」

(僕の事も知ってる?やだ、どうして?)


語り口だけじゃない。この人の放つ雰囲気が、言い知れぬ不安となりべったりとへばりつく。


「でもセイラさんは……僕を護ってくれました」

「はぁ、それはお前が必要な道具だからだろ」

「それより、ほれ早くしろ。時間が惜しい」


イライラしてるのか両手を腰に置き、態度は目に見えてふてぶてしくなる。

それが隠す気もない威圧となって僕に伸し掛かってくる。


(どうしようセイラさんを呼びたいけど今は……)


「あぁ、貴方は何者なんですか!何故僕達の事知ってるの?」

「……はぁ、お前は必要な部品だから優しくしてやっておるのに……」


不審者は大きくため息を吐きながら下を向いた。そう思ったら。


 「物ごときが付け上がるな!」

「ひい!?……」


ぐわんと上げた顔は、鬼の形相が張り付てた。

特に見開き赤く血走った瞳は、怒れる狂気と無慈悲な殺気を周囲にことごとく振りまいてた。

僕はまるで刃を喉元に突き付けられたと錯覚し、足は恐怖でぐらりとたじろいだ。


 「知りたければ教えてやる」

「我の名は『リディア』」

「それって!じゃあ貴方が!――」


 不審者が怨敵の名を口に出しぎょっと驚いた瞬間、僕の首筋にチクッと痛みが走った。


「うぐぅ、あれ……なん、で?……」

(ち、力が抜ける……)


急激に視界が暗く狭まり立つ事もままならず、ふらふらと体が後ろに振れた。


「駄目じゃないかいきなり来るなんて」


倒れる僕を受け止めた者は。

ラミさん……だった。


 「黙れ魔女。約束通りそれを持って行くぞ」

「はぁ……『儀式』をするにしても時間が要るでしょ?」

「手は打ってある。さっさと聖殿へ転送の準備をしろ」

(あぁ、そんな……ラミさんが……敵と繋がってる、なんて……)

「やだ……セ、イラ……さん……助けて……」

「……ごめんねカウル君。全ては彼女の為だから……」


薄れゆく意識の中、辛そうな表情を浮かべるラミさんを最後に……僕の意識は闇に溶けた。


次回 『怒りの騎士』

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カウルさん異世界に呼ばれる つくもイサム @tukumosantoiku

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