番外編3-2



「お疲れ様。」


 ハロルドは苦笑いでソフィアへお茶を淹れる。「ありがとう……」と受け取ったソフィアは大事そうにカップを持って口を付けた。



「疲れてはいないんですけどね。」



「本当?」



 ソフィアはハロルドが優しくそう尋ねる瞬間が好きだ。甘く耳が蕩けそうな声音で囁かれると、何だかとても大切に想われているように感じて心がじんわりと温かくなる。



「ええ。少し当てられただけで。」



「そうだろうね。」



 ソフィアとしては大事な主であるシャーロットが、愛する夫と仲睦まじく過ごしていて嬉しくない筈がない。その仲睦まじい様子が少々行き過ぎているだけで。



「あの様子じゃすぐ懐妊されるだろうね。」



「ッ!ゴホッ、ゴホッ!」



「だ、大丈夫?」



 ハロルドの言葉に驚き、思わずむせてしまう。ソフィアの背中を撫でるハロルドの手は優しい。



「だ、大丈夫です……少し驚いただけです。」



「そう?考えないようにしていただけでしょ?」



「うっ……!」



 ハロルドは時折こうやって図星を指す。ハロルドの言う通りだ。ソフィアだって生娘ではないし、ハロルドと結婚してもう七年目になるのだ、そういったことを予想できないほど初心ではない。



 ただソフィアにとって、シャーロットは守るべきお嬢様である。シャーロットが十歳の頃から仕えていた彼女にしてみればまだ子どもという感覚が抜けきっておらず、シャーロットとそういった行為を結びつけることが憚られた。




「子どもは授かりものだけど、シャーロット様と同時期に懐妊できるのが理想なんじゃないの?」



「う……。」



 そう、できればそれが理想だ。もし同時期に懐妊できれば乳母として彼女の子どもを育てることができるし、多少時期が違っても、同じ育児をする身として彼女を支えることができるだろう。




「俺、相当待ったと思うけど?」



「う……。」



 そう、早く子どもを欲しがったハロルドへ避妊を要求したのはソフィアだ。ここ数年、シャーロットを取り巻く環境が大きく変わり、ソフィアは自身の妊娠で彼女と離れることは受け入れられないと考えたからだ。





「もう、解禁していいでしょ?」



 強気な言葉に反して、ハロルドは縋る子犬のような悲しい瞳をしていた。眉尻を下げしょんぼりしている彼は子犬のようだと、婚約する前から思っていたのをソフィアは思い出した。その子犬に随分と心を掴まれたことも。





「……待たせてごめんなさい。」



 ソフィアがそう謝れば、目の前の愛しい子犬がぶんぶんと大きく尻尾を振っていた。





<番外編3:完>



 こちらで番外編もおしまいとなります。終わらせるのが寂しくなり、ついつい長くなってしまいました。


 投稿が不定期となり大変申し訳ありませんでした。それでも最後までお付き合いいただき、とても嬉しいです!お読みいただきありがとうございました!

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冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。 たまこ @tamako25

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