第7話



 ベッドの上で抱き締め合っていると、アランが思い出したように口を開いた。



「あー。エミリー。トニーとは、もうあまり話さないように。」





「え?」



 エミリーに余計なことを伝えてきたトニーのことを思い出す。





「ええ。この前会ったときも何だか刺々しかったし、あまり近づきたくないわ。」

 



「そうじゃなくて。」




「え?」






「トニーはずっと君に気があるんだ。」



 アランは少し気まずそうにそう言った。エミリーは、目を丸くして言葉にならなかった。



 幼い頃の友達同士だった時期なら兎も角、大人になってからは挨拶程度で深い関わりはない。デートに誘われるような色っぽい話は一度も無かった。





「エミリーと付き合い始めてから、言葉にはしないが、俺に対して明らかに当たりが強くなった。結婚してからはもっとだ。俺が単身赴任すると聞いて、チャンスだと思ったのだろう。」



 確かにあの時、トニーはエミリーの去り際にゴニョゴニョ言っていた。あれは何かのお誘いだったのかもしれない。


 それにしても、上司とその妻に対して非礼すぎないか、とエミリーは眉を寄せた。




「そうだったの。分かった、見掛けても絶対に近寄らないわ。」




 貴方に嫌な思いさせてごめんなさい、と謝ると、アランは首を振り、愛おしそうな瞳でエミリーを見つめた。





「そうしてくれると嬉しい。」



 アランはエミリーの頬に唇を寄せた。そして額にも、唇にも、止めどなく口づけを受ける。結婚してから二年も経っているが、アランからこんなに長時間甘やかされたことはない。エミリーは、身体が蕩け、へろへろになってしまった。







◇◇◇◇







「エミリーせんせい!だんなさま、もうおむかえにきてるよ!」




「こういうの、らぶらぶっていうんだぜ!ねえちゃんがいってたからな。」





 ジャンとケニーの言葉に、エミリーは顔を赤くして慌てた。託児所の入口にはアランの姿が見える。





 あれから、アランはエミリーを迎えに来るようになった。と言うのも、トニーはエミリーと会いたいが為に、エミリーがよく利用している市場の巡回当番を、無理矢理他の騎士と交代していたことが発覚したからだ。




 思い返してみると、市場で会う巡回中の騎士は、いつもトニーだった。騎士の巡回先は、ずっと同じ場所ではなく持ち回りとする決まりとなっている。




 それを、自分の都合で、しかも上司の妻への横恋慕という理由で、当番を勝手に代えていたトニーには厳しいペナルティが課された。


 エミリーとアランが王都内にいる間は謹慎することとなり、その後は二人が行く辺境とは遠く離れた地の騎士団へ異動となった。





 そういった経緯があり、アランは過保護になった。出勤も退勤もずっと一緒なのだ。エミリーは、アランの仕事が疎かになることを心配していたが、引き継ぎは漸く落ち着き、アランは早めに帰れるようになっていた。





「あ、あれ、ジャンのおとうさんじゃない?」




「おう。ケニーのかあちゃんもみえるぞ。」




「エミリーせんせいと、おむかえおそろいだねぇ。」




「せんせい、ばしゃのとこまでいっしょにかえろうぜ。」



 エミリーが宥めようとすると、ポーラは笑って「帰ってあげなさい。」と背中を押してくれる。荷物を取りに行っていると、アランが子どもたちに質問攻めに合っていた。アランは、しゃがみ込み、子ども達も目線を合わせて答えていた。




「せんせい、いえではなにしてるの?」





「君たちの話をよくしているよ。運動好きなジャン。工作が得意なケニー。エミリー先生はいつもみんなのことを褒めているよ。」



 二人は嬉しそうにモジモジしていた。





「なぁなぁ、せんせいのことすき?」



 ジャンの口からとんでもない質問が飛び出し、エミリーは目を丸くした。止めようと近付くと、アランはエミリーに優しい笑顔を見せてこう言った。







「ああ。世界で一番大好きな、奥さんだよ。」












   <おしまい>






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旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい! たまこ @tamako25

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