第二十四話


 ついに、神と天狗の正面衝突が始まった。

 この乱闘を機に、神と天狗の序列が決まる……しかし一方で妖達はというと。


「キャハハはははー!!! 見て見て輝~! 私空飛んでる~」

「降りろ!! くそガキ!!」


 未帆は飛び回る天狗の上に乗って、一緒に……というよりも勝手に一人で遊覧飛行を楽しんでおり


バリン!!!!


「どう? 私の歌声で強化した獺祭の酒瓶の斬れ味は。これ辛口だから、酔いがいっっっぱい回るでしょ♡」

「まっ!!!」


 瑞樹は瑞樹で、天狗の頭を自前の酒瓶でかち割りながら、酒瓶の破片を振り回し


「やっぱり金○もぎ取らないと、男は殺った気にならないわね」


 骨牌に至っては今回の出来事とは全然関係ない私怨を晴らしている。


「骨牌! バラすのは構いませんが羽に傷は付けてはいけませんよ? 瀬川に頼んで唐揚げにしてもらうのですから」

「輝! お嬢に変なもん食わそうとしてんじゃないよ!」


 真剣勝負の最中だというのに、緊張感なくやりたい放題である。


 神議場で僧正坊が鎮座する椅子の下には、隠し通路がある。横幅は人一人分ずつしか通れない幅の細い階段が、螺旋状にずっと下へと続いている。

 従属させた護衛天狗に守られながら、僧正坊は下へと降り、逃亡を図った。外へ出ることさえできれば、一面緑しかないこの天狗の世界で、老体1人の身を隠すことなど造作もない。目立った矢印がない景色では、砂浜から小石を見つけるも同然。


「僧正坊様、あと少しです!」


 長い階段通路が終わり、正面には低い位置に設置してある小さく重い鉄扉。古く錆びた南京錠でガッチリと施錠されており、簡単には開けることができない仕様になっている。


 鉄扉を開けた向こうは、ずっと秘密にされてきた僧正坊の愛妾部屋に繋がっている。


 中へ入るとむせ返るほどの香の匂いが流れ込む。

 窓一つないこの空間では換気もできないため、いかにも空気は重苦しい。

 部屋の空間は座敷牢が両端に並んでいるだけで、あとは長い廊下の突き当たりに部屋の入り口があるのみ。部屋の雰囲気といい、格子の造りといい、まるで遊郭の夜見世を彷彿とさせる光景が広がっていた。

 埃を被った打掛や折れた櫛、タバコの葛葉など生活の形跡がある汚い座敷牢が並ぶ。

 そしてその中の1つにある、全裸姿で放置された、翼がない2人の娘。うつ伏せで畳に転がされている彼女達からは、いずれも生気を感じられず、動き出す様子はない。彼女達が入れられている座敷牢の畳や壁には糞尿のしみがあり、他にも散らばる血飛沫の跡や格子に付着している血の手形、それと偶に目につく黒い血痕の塊。


 閉ざされたこの部屋では、毎夜僧正坊と愛妾の夜伽が行われていた。しかし、下の天狗達の厚意により、女に不自由することなかった僧正坊は、やがてただ抱くだけではつまらなくなる。

 更なる快楽を求めた末、僧正坊はある日初めて愛妾の1人を殺めてしまう。

そこから、僧正坊の悪趣味……死姦が始まった。

 いくら女を用意しても「飽いた」の一言で次の女が用意される。彼の欲を満たすには、いくら女がいても足りない。元々希少な女鴉を与え続ければ、いずれ僧正坊は天狗界の女を食い尽くしてしまう。

 だから、代用品として現世から人間の女を拐かした。

 代案を上げたのは烏水だった。闇市で取引をしてまでも天狗界の存続と僧正坊の快楽のために手段を選ばなかった。そして幸か不幸か、僧正坊は人間の娘の体を偉く気に入った。特に15~20くらいの若くて、長い黒髪の女を所望し、その注文に沿った女を誘拐していた。

 女の尊厳を奪われた挙句に殺され、死体は内々に処分された。そして死後も尚、彼女達は人の形を成すことなく、自我を失った化け物となり、二度と人生を歩むことはなかった。

 これが、この長年閉ざされた部屋で行われていた、全ての出来事。


「寄って集って儂を悪者扱いしおって! こんな所で終わる器でないことを今に知らしめてやる!」



______必ずや反旗を翻す!



「僧正坊!?」

「殺れ」


 燈火の手先である中の見張りを皆殺しに、内側から扉を開けた。

 窮途末路から逃げ仰せると思った、その時。


「「「「「「「!!」」」」」」」」」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様の巫女〜妖と暮らす人間の少女と、少女を気に入る貴神~ ワルサーP旧式 @nuwon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ