住居

 相も変わらず蝉が五月蝿く鳴き続けている。

 7月28日──僕の母の命日だ。僕の母は僕が2分の1成人式を迎えて数ヶ月後に死去した。暴力的な父とは裏腹に母はいつも僕を庇ってくれた。

 ある日の木曜日に僕の母はロープ1本で全体重を支え、地に足が付いていない状態になっていた。僕が帰ってくる頃には確実に体の全細胞が死んでいた。床には脳死し筋肉が弱まり漏れだした排泄物とそれにまみれた遺書のみ。そう、縊死していたんだ。これは断じて自殺では無い。父が母を苦しめ死に追いやり、母が自分を殺した。れっきとした2つの他殺がそこにはあった。

 だが警察はこの事件自体を自殺と処理し、父を暴力罪や傷害罪などで逮捕していった。

 殺人現場にはなんとも表し難い虚空と1人で住むには広すぎる部屋が残され、僕はただ1人唖然とした。両親は実の親と縁を切っており僕には完全に身寄りが無くなっていた。

 働ける年齢でもない僕は母と過した家を離れ児童養護施設に預けられた。そこには僕と同じく親がいない子どもが数人おり、他は親からの虐待により施設へ行くことを余儀なくされた子どもがいた。

 子どもの顔は酷く暗くて明日どころか1秒先にすら希望を持つことが出来ないようで、そこの職員は働きがいなんてものがあるわけがなくただ業務的にただただ職務を繰り返していた。職を無くしたら社会的に抹殺されると言わんばかりに辞めない。ただ、辞めない。

 ただそこには奇妙な少年がいてその子は常に施設内を歩き回っては何かをメモしている。まるで何かを点検しているかのように、支店の粗を探すエリアマネージャーかのようにくまなく全てを見尽くしていく。

 こちらを一瞥したかと思えばお前らと俺は違うと言わんばかりに睨みつけてきた。

 僕は俄然その子に興味が湧いた。

翌日僕はその子を見かけると一目散に駆け寄り声をかけた。

名前を聞いたが、無いという回答をされた。

なので僕は顔立ちと雰囲気から瑠生《るい》と呼ぶことにした。



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観葉植物 鎹 秋 @kasu_gai

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