第42話 工房
あの後、高級なスイーツ店で甘未を食べて――もちろんゼッツさんの奢り――から、レアン王女とは分かれた。
もう帰っても部屋の掃除は終わってそうなので、俺は屋敷に戻る。
そしたら――
「あ!お帰りアドル!」
鬼がいた。
命の洗濯終了!
「用事はもういいのか?」
「うん!素材の換金して貰って来たよ!あとオリハルコンの原石も貰って来たんだ!」
「え?」
もう王様からかっぱらって来たのか。
絶対加工できないと思ってただろうから、相当驚いただろうな。
「善は急げって言うからね!」
「善なんてどこにあるんだよ。まあでも、必ずしも俺が武器を作れるとは限らないぞ?」
ブラックスミスのスキルを使えばオリハルコンの原石を加工できかもしれないってのは、あくまでも予想でしかない。
実際やってみて、やっぱり駄目でしたって可能性はある。
「アドルなら大丈夫だよ!」
ソアラが屈託なく返して来る。
「まあやるだけはやってみるけど、出来なくても文句は言うなよ」
「絶対大丈夫!」
その確信はどこからくるんだ?
こいつは俺の事を、万能の神か何だとでも思ってるんだろうか?
「はいはいわかったわかった」
「じゃあ原石持ってくるね!」
ソアラが原石を取りに行ってしまった。
しょうがない。
俺の方も準備を進めるとするか。
まずは場所だな。
「人目につかないそこそこ広い場所がいいから……」
ブラックスミスのスキル武具製作には、炉や必要となる製作環境——工房を展開させるアクティブ効果があった。
それを展開するには少々広めの空間が必要だ。
人目がない方がいいのは、明らかにド派手な効果だから。
一応ユニークスキルで模倣しましたって言い訳はできるけど、滅多に居ないブラックスミスのスキルをどうやって模倣したんだよって突っ込まれても困るし、隠せるのなら隠しておいた方がいいだろう。
「訓練場でも借りるか」
ゼッツさんの屋敷には室内訓練場がある。
そこまで広い訳ではないが、工房を展開するぐらいなら十分だ。
「ソアラと秘密の特訓したいからって言えば、気を利かして誰も近寄らずにいてくれるだろうし」
この家の人間はしっかり教育されてるから、除きに来るような事も無いだろう。
「アドル!持ってきたよ!」
「でっかいな」
ソアラが両手で抱える形で、自分の体よりも大きな鉱石を持ってきた。
想像以上のデカさだ。
このサイズなら剣を何本も――
あ、いやむりか。
原石な訳だし、不純物とかを考えたら実際の量はかなり減る筈。
「さ、作って!」
「へいへい。取り敢えず工房出すから、訓練場を借りよう」
「え!?アドル工房なんて出せるの!?」
「ああ。製作スキルでな。それと……言うまでもないとは思うけど、オリハルコンで剣を作れてもそれを俺が作ったって言うなよ」
「うん!大丈夫だよ!知り合いに作って貰うってちゃんと王様にも言って来たし!」
「そうか、それなら安心……」
か?
ソアラの知り合い。
しかも俺が着て間もないこのタイミング。
そしてユニークスキル。
冷静に考えると、俺が作ったとしか考えられないよな。
余程のノータリンでもない限り、その考えに行きつくはずだ。
そう考えると、剣の製作は延期した方がいいんだが……
「……」
満面の笑顔で此方を見るソアラに、延期のお知らせを切り出しずらい。
天秤にかけて考える。
俺がオリハルコンの剣を作った事が周囲に知られるのと。
ソアラの機嫌を損ねて被る被害。
どちらがより深刻かだが……
「よし!じゃあ家令さんに訓練場を貸して貰えるよう頼みに行くか」
「うん!」
ま、考える間でもないよな。
ブラック企業務だった前世に懲りて転生先で俺はスローライフを望む~でも何故か隣の家で生まれた幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~(白) まんじ @11922960
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