第41話 服装
「ここですか?」
「はい」
王女に案内されたのは豪華な門構えを持つ派手な建物で、明らかに高そうな店だった。
看板にはオンリーワン・セレブとか書いてある。
どう考えても庶民お断りの高級店で、俺なら絶対自分からは寄らないタイプの場所だ。
ソアラと来た店だって言うから、もっとリーズナブルな店を想像してたんだけどな……
よくよく考えたら、彼女は国の顔とも言うべき勇者だ。
まだ子供とは言えそこそこな給金を貰っていてもおかしくはない。
何せドラゴン退治まで請け負ってる訳だからな。
それにダンジョンで強い魔物もバリバリ狩れるから、高い素材なんかを換金してるだろうし。
今のソアラは金持ちと考えて間違いないだろう。
やれやれ、たった半年かそこらでえらく差を付けられたもんである。
お互い田舎の村で貧乏くさく――実際はかなり裕福な方ではあったが――暮らしてた頃が懐かしいよ。
というか、このレベルの店に来るなら別にお忍びである必要はないんじゃ?
そんな気がしてならない。
お忍びと言えば庶民の目線とかそんな感じな訳だが、ここは絶対庶民向けじゃないぞ。
ま、余計なお世話か。
「あの……どうかされましたか?」
「ああいや、なんでもありません。入りましょう」
取り敢えず、此処では見るだけにしとこう。
そんな持って来てないからな。
今の俺の手持ちじゃ、服一着買えるかすら怪しい。
まあ仮に足りたとしても買わないけど。
服なんて着れりゃいいんだよ。
着れりゃ。
オシャレ?
そんなもの12歳の子供が考える事じゃないね。
「好きな物を買ってくれて構わないよ。私が支払っておくから」
門を潜ろうとしたら、ゼッツさんがそっとそう耳打ちして来た。
振り返ると彼はウィンクして来る。
食と住を無償で世話になってるってのに、まさか衣類まで提供してくれるとは。
太っ腹すぎるぜ。
流石お貴族様だ。
「ありがとうございます」
心遣いに感謝。
まあとは言え、だ。
あんまり厚かましく他人に
取り敢えず一着だけ……
いや、それだと出してくれる相手に逆に失礼になるか。
二着か三着。
比較的安めなのを選ぶとしよう。
「まあまあ、いらっしゃいませ」
ドアを開けて中に入ると、真っ白なパンツスーツ姿の女性が出迎えてくれる。
一緒に中まで付いて来たのはゼッツさんだけで、他の護衛さんは門の外で目立たないように待機ている感じだ。
「レア様、本日もご来店頂きありがとうございます。貴方様に至福の出会いがあれば幸いですわ」
至福と私服をかけてんのかな?
関係ないか。
我ながら親父臭い事を考えてしまった。
まあ中身おっさんだから仕方がない。
しかし……レアンに対する大仰な反応を見る限り、この店員は彼女が王女である事を知っていそうだな。
一緒に入って来た此方には一瞥もくれようとしないし、明らかに態度の差が出ている。
「よろしくお願いします。今日は、その……友人と来ましたので」
レアン王女がもじもじしながら此方を見る。
その様子を見て、ひょっとしたら彼女は友人が少ないのかもしれないと俺は思った。
王族である王女に、気軽に接する事の出来る人間と言うのは相当限られてくるからな。
友人が少なくとも仕方がない事だ。
「レアの友人のアドルと言います」
「……レア様の御友人の方でしたか。当店にようこそいらっしゃいました」
店員が一瞬、本当に一瞬、俺を値踏みする様な目を向ける。
直ぐに笑顔になったので王女は気づいていないだろうけど……
ちょっと感じ悪いな。
まあ普通なら気づかない程の早変わりだったので、勝手に気付いてもやってる俺がおかしいと言われればそれまでだが。
「アドル様のお眼鏡にかなう服が見つかれば宜しいのですが」
さっきの眼に気付いたせいか、「貧乏人にうちの服の良さが分かるのかよ?」的な言葉に聞こえて仕方がないのは流石に考え過ぎか。
まあ仮にそうだったとしても、実際服の良しあしなんて殆ど分からないのも事実だしな。
俺が分かるのは高そうか安そうか位のものである、
「では此方にどうぞ」
店内には色んな服が展示されていた。
全部貴族や、金持ちの子供が来てそうな物ばかりだ。
……値札が一切付いてやがらねぇ。
これだから高級店は困る。
逐一値段を聞くのもなんかアレだし、ここは安そうな服を勘で選んで行くしかないな。
「レア様、此方等は当店の一押し新作になっております?これはレヴローン夫人がデザインされたものでして――」
女性店員がお勧めのドレスっぽいワンピースを手に取って、満面の笑顔でレアンに勧めだす。
見るからにお高そうな服だ。
売りたくて仕方がないのか、蘊蓄ををペラペラと語っている。
「ですので。もしよろしければご試着の方を――」
「あの……アドルさん、私に似合うと思いますか?」
「へ?ああ……」
俺に聞くの?
コーデのセンスゼロなんだけど?
だがまあ、聞かれたのなら素直に答えておくとしよう。
「うーん、そうだな……」
店員のお勧めしているワンピースは装飾過多で、個人的にはあまり好きな感じではなかった。
まあでもレアンは美少女なので、ぶっちゃけ似合うかに合わな回で言うなら、余ほど変なの以外は似合うだろうとは思う。
なので答えは似合うが正解なのだろうが……
ただここでべた褒めしたら、俺の好みだと思われちゃうよな?。
それはなんか嫌だ。
まあだけど似合わない訳ではないので、ちょっと暈した感じで答えるか。
因みに、店員は100点の答えを出せと言わんばかりに満面の笑みを俺に向けているが、そこはスルーだ。
さっきの失礼な視線の事を抜きにしても、忖度してやり謂れは全くないからな。
「まああれだね。ソアラよりは似合うと思うよ」
共通の知人なら、例えとして分かりやすいだろう。
「ふふふ、ソアラさんは活発な人ですから。確かにそうかもしれませんね」
「ああ、あいつだったら絶対直ぐ破るだろうし」
もう何なら、着る際中に「あっ!」とか言って破るまである。
何故なら大怪獣だから。
「ソアラさんにもお揃いの服を送ろうと思ってましたから、この服は止めておきます」
ああ、彼女はソアラとお揃いの服を買うつもりだったのか。
王宮のハンドメイドされてそうな服を送る訳にもいかないから、グレードを落としたと思われるこの店に来た訳だ。
「さ、さようですか。では別の物を――」
がっかりしてるんだろうが、店員の表情は一切崩れない。
さすがプロである。
「あの……ソアラさんと私に似合う服が良いので、もしよかったらアドルさんに選んでもらえると嬉しいんですが。ソアラさんの事を、一番よく知ってらっしゃるから」
「……まあ俺でいいなら」
レアン王女は何来ても似合うので、ここはソアラを基準に考えよう。
彼女に似合うのは動きやすい服装だ。
正直このての店にはあんまりおいて無さそうなんだが……
「これとこれと、これなんかが良いんじゃないかな」
取り敢えず店内を手早く見て回って、俺は三つを候補に挙げる。
一つは男物だったが、まあ子供だし問題ないだろう。
「わかりました。ではこの三つを私とソアラさんのサイズでお願いします」
「畏まりました」
流石に男物が混ざってるのを見て鉄面皮だった店員の顔に一瞬ひびが入ってたが、彼女はすぐさま持ち直してゼッツさんと一緒にカンターへと向かう。
「選んでいただいてありがとうございます」
「あれぐらいお安い御用さ」
「次はアドルさんの服を選びましょ」
「ああ、それも決めてあるから問題ないよ」
レアンの分を探すと同時に、シンプルで生地も高級じゃなさそうな奴を二つチョイスしておいた。
俺が買うのはそれだ。
「そうなんですね」
「ま、服は着れれば何でもいいタイプだからね」
「ふふ、ソアラさんも同じような事を言ってました」
「まあソアラらしいね」
オシャレのオの字も無い。
ただひたすら強さを追い求める姿勢は正に勇者の鑑である。
12歳の女の子としては、そうれはどうかって気もしなくはないが。
まあソアラだし。
代わりにやって来た店員さんに商品を伝えると、俺のサイズを事細かに図りだす。
どうもこの店はデザインを決めて、そこからサイズ別に仕立てるシステムの様だ。
出来上がるのは三日後との事。
値札がないのは、サイズで値段が変わって来るからだろうか?
まああんまり関係ない気もするけど。
「あの、この服なんてどうでしょうか?」
レアン王女が、服を一セット持って――正確には持ってるのは彼女に付きそう店員だが――来た。
胸元にヒラヒラのある感じのシャツと、黒いスーツっぽい上下の服だ。
なんかこう、少女漫画に出て来る王子とかお貴族様が着てそうな感じの奴だな。
そんなもん持って来てどうでしょうかと言われても困るんだが?
「もしよかったら、その……お近づきの印に、アドルさんに貰って頂きたいのですが……」
死ぬ程いらねぇ。
とは流石に言えん。
「あ、ありがとう。レア」
せっかく選んでくれたモノを断ると失礼に当たるので、まあ貰っておくとしよう。
箪笥の肥やし確定だが。
この後清算を済ませて俺達は店を後にした。
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