第26話 企画

_人人人人_

> 企画 <

 ̄Y^Y^Y^Y^ ̄


 配信者などがアイデアを形にしたものである。

 多くの人気Vtuberは自らの個性や方向性を意識的にコントロールしており、それに応じた企画を積み重ねることでファンを増やしている。


 ミーコは違う。

 強くなりたい。兄を安心させたい。それしかない。


 それは強烈な個性であり、百万人という確かな方向性ゴールを持っていると考えることもできるが、ノープランでがむしゃらにやっているだけ、という考え方もできる。


 だから真希はストップをかけた。

 そしてミーコにいくつかの企画を提示した。


 選択肢を出したのは真希である。

 しかし、最終的に決めたのはミーコだった。


 その企画とは――


『ドキドキッ! 一週間連続RTAチャレンジ! 失敗したら即終了! 真希さんと一緒にこたつデートする企画、始まるよ~! わ~! ぱちぱち~!』


:唐突なんよ

:どゆこと???

:こたつデートが罰ゲーム扱いで草

:昨夜のアレか


『説明しよう!

 これはミーコがRTAに挑戦して失敗したら真希さんを家に招待する企画です!』


:あの涎女ついにやりやがった

:お待ちになって。お家ですの!? お兄さま謁見ツアーですの!?

:ミーコRTAやるんだ

:成功した場合は?


『良い質問がありました!

 成功したらどうなるのかそれは!』


 ミーコ、ためる。


『真希さんを家に招待しない!』


:???

:そのまんまやな

:小泉構文

:かわいい


『ふむ、生徒諸君はお忘れかな?』


 ミーコは芝居がかった口調で言う。


『ミーコは人と話すと致命傷を受けます』


:前は死ぬって言ってなかったか?


『そうそう。死から致命傷になった。成長』


:嬉しそうで草

:かわいい


『というわけで! こちらが来週のスケジュールです!!』


◯共通

練習 08:00〜20:00

本番 21:00〜


◯月曜日

作品 惑星ゲーム

目標 5分(世界記録2分


◯火曜日

作品 岩親父

目標 120分(世界記録70分)


◯水曜日

作品 登るだけ!

目標 30分(世界記録20分)


◯木曜日

作品 壺親父

目標 10分(世界記録1分


◯金曜日

作品 ?

目標 ?


:無理だろこれ……

:人間卒業試験か?


 以上、視聴者達の代表的な反応。

 予定表に記されているのは、いずれも知名度の高い作品である。世界記録を見ると現実的なクリア時間に見えるが、そんなことはない。


 月曜日の「惑星ゲーム」を除き、全て「鬼畜ゲーム」と呼ばれる高難易度の作品となっている。実際、多くの有名Vtuberが「クリア耐久配信」をしており、十時間以上を要した例もある。


 特に、最終日の壺親父。

 これを僅か一分で攻略する「走者」の動きは、およそ人間のそれではない。


『がんばるよ~!』


 ミーコは無邪気な様子で言った。

 彼女は明確な目標を得たことで、確かな熱量を得ている。


 真希のやり方は強引だった。

 しかしミーコには合っている。


 今のミーコには企画を考える能力が無い。

 多くのVtuberが意識しているブランディングという単語すら知らない。


 問題は、課題の難易度だけ。


:この目標設定は、流石に経験者か?

:アーカイブ残ってる?


『アーカイブ無いよ!

 ぜんぶ初めてやるー!』


:真希……俺、恥ずかしいよ

:かわいい


 この後、ミーコは雑談配信を続けた。

 視聴者からはゲームの経験値に関する質問が多く寄せられ、「結構いっぱいやってるよ!」「お金? なんかボタン押したら買えるけど?」などの返事があった。


 視聴者達の反応は三つに分かれた。

 絶対にクリアできないと考え、真希がこたつデートを実現するためだけに仕組んだと考える者達。純粋にミーコを見て楽しむ者達。そして――ぽよてと界隈の者達。


 真希とのコラボ配信において、ミーコは勝負を放棄してハートを作成した。それは古くから存在する遊びであり、大きな声で騒ぐようなことではない。


 しかし、その動きが普通ではなかった。

 ミーコのプレイングは、上級者が見ても驚くほどに洗練されていたのである。


 結果、極一部で少しだけ話題になり、たまたま真希がそれを目にした。

 彼女は「確かに……」と思った後、「ミーコ実はゲーム上手いのでは?」と考え、全てのアーカイブをチェックした。


 ミーコは楽しみながらプレイする。

 高難易度のステージを超絶技巧でクリアするような配信はしていない。


 しかし可能性を感じた。

 確証は無い。これは完全に賭けだ。

 

「うぐぁぁ〜」


 とある部屋の片隅。

 真希は胃をおさえて唸った。


「頼むぅ〜、ミーコぉ〜」


 そして時は流れ、挑戦が始まる。

 今最も勢いのある新人による無謀な挑戦は、程々に注目を集めながら幕を開けるのだった。


 

【あとがき】

リアル多忙&別作品の書籍作業でミーコに時間を使えない泣

次は少し先になるかもですが、この作品は絶対に完結させるので気長に待ってくれると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 下城米雪 @MuraGaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ