第25話 百万人、舐めんな
『おはようミーコ♡
とっても良い天気だね♡』
『……何が見えてるの?』
※深夜三時。
『ごめんね♡
まだお外暗かったね♡
でも真希と会えたミーコの心は↑?』
『……』
『明る~い! あははははは』
突然のコラボ配信が始まった。
真希は見事な深夜テンションを披露して、ミーコは陽キャに絡まれた陰キャの手本みたいな態度を見せる。その二人を見守る視聴者達は、これから何が始まるのだろうというドキドキを感じていた。
『ミーコ♡(呼びかけ)
さっきは何しようとしてたの?』
:声たっか
:きっつwww
:^q^
:猫なめ声
『ミーコ♡(呼びかけ)
さっきはトークデッキ作ろうとしていたよねぇ?』
『……あぃ』
『なんでトークデッキ作ろうとしたの?』
『……こ』
『コミュ障を治そうとしたんだよねぇ?
えらいねぇ。がんばってるねぇ。あははは』
:圧強すぎんよ
:絶好調やん
:もうやめたげて
:草
視聴者達の反応は真っ二つに分かれていた。
真希の平常運転を見て笑う者、そしてミーコを心配する者。
それは、次の発言があるまでの話。
『そんなことしてる場合か?』
視聴者達の反応は一方向へと傾き始めた。
『……ぇ?』
ミーコは困惑した様子で声を出した。
『コミュ障なんて直してる場合か?』
『……ぇと』
『ミーコ今の状況ちゃんと分かってる?』
『……ごめんなさい』
『謝らなくていいよ。なんで謝るの? ウチべつにミーコのこと責めてないよ?』
:胃が痛くなってきた
:これ大丈夫か?
:真希いい加減にしとけよ
:お前ら落ち着けw まぁ、見とけって
『ミーコ、今のチャンネル登録者数、何人?
4万6521人だよね。この数字、ちゃんと理解してる?
ミーコの活動歴どれくらいだっけ?
チャンネル解説してから、まだ一ヵ月ちょっとだよね?』
真希は低い声で言う。
『ねぇ、ちゃんと分かってる?』
ミーコは息を止めた。
コメントの勢いも露骨に弱まった。
『ほんの一握りだよ? 登録者数が一万人を超える個人V。
普通は何年も活動して、沢山がんばって、それでも九割の人は届かない。
憧れて、夢を見て、キラキラした気持ちで受肉したのに九割は諦めちゃうんだよ』
真希はとても厳しい口調で言う。
普通に考えれば、こんなことを配信という場で伝えるべきではない。ミーコは萎縮して、視聴者は困惑する。全く良いことが無い。
しかし真希には狙いがある。
例えばそれは、他の個人Vに対する牽制。
真希が発言した通り、ミーコのような勢いでチャンネル登録者数を伸ばす個人Vは滅多に現れない。それは視聴者の注目を集める一方で、同業者からの嫉妬に繋がる。
この界隈は非常に狭い。
敵を作れば、その分だけ「やりにくい」ことになる。
真希は新人紹介系Vtuberである。
長年活動しており、相応のコネを持っている。
要するに、影響力が強い。
視聴者にではなく、個人Vに対して。
真希がビシッと言うことで、それ以上の苦言を防ぐ効果がある。
要は、「新見真希が面倒を見るから外野はピーピー騒ぐな」と威嚇しているのだ。
それだけではない。
真希のモチベーションは金だ。
今のうちにミーコと深い関係を構築することは彼女にとってメリットが大きい。
もちろん大前提がある。
ミーコがこのまま伸び続けることだ。
人気商売は勢いが大切。
今のミーコはブーストされている。
この大事な時期に「
『百万人、舐めんな』
何度もチャンスを逃した推しの姿を目にした。
その度に悔しい想いをした。無力な自分を呪った。
もちろん理解している。
過度に干渉するべきではない。
違う。それは言い訳だ。
上手くやる自信が無かった。相手の行く末に責任を取る覚悟が無かった。その癖、良い新人を見つける度に声をかける。とても無責任な活動ばかりしていた。
当たり前だ。
個人として自由に活動しているのに、他人の夢を背負うようなこと、したくない。
ある意味で、線を引いていた。
絶対に踏み越えるべきではないラインを決めていた。
今、初めて越えた。
最初の四人が魅せられたように、彼女もまた、ミーコの姿に魅せられたのだ。
(……そろそろかな)
厳しい言葉は終わり。
真希は本題に入ろうとした。
その瞬間。
『舐めてない!』
決して迫力のある声ではない。
だけどそれは、耳にした者達を震えさせた。
真希はニヤリと笑った。
そして言う。とても計算高く、心が赴くままに。
『本当かぁ?』
『…………ぅす』
『あはは、さっきは言えたのに』
真希はケラケラと笑った。
視聴者達のコメントを拾い始め、涎の垂れているような声を出す。
それから五分ほど雰囲気の改善に努めた後、提案した。
『ミーコ♡(呼びかけ)
ウチに考えがあるんだけど、興味ある?』
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