第19話 最終話

 放課後の教室。

 窓から吹き込んだ風がボブヘアーを揺らす。

 ―――おれは全てを思い出す。地面の固さや彼女のことを。

 「……君が神様だったんだね」とおれは言う。

 由衣は今にも泣きそうな顔をしている。

 「ずるいよ」

 「お互い様だろ」

 そう。お互い様なのだ。互いに臆病のだ。

 彼女は一度目を閉じ、再び開く。

 「でも、どうして覚えてたの?」

 「君がそうしたんだろ」

 彼女の力は感情に左右される。消えたはいいが、忘れて欲しくない。そう思ったのだろう。全能であり、万能でもあったのだ。神様であり、人間でもあった。だからおれは彼女のいない世界で彼女を覚えていられたのだ。

 「ダメな神様だね」

 由衣は自虐気味に笑う。

 「でも大丈夫、次はちゃんとするから」

 「何も大丈夫じゃないだろ」

 彼女は勘違いをしている。自分が幸福になることで誰かが不幸になると。

 「なあ、小説貸してくれるんだろ?」

 「自分で買いなよ」

 「クルミはお前との買い物楽しみにしてたぞ」

 「……」

 「映画作成はどうするんだ。それだけじゃない。夏が終わってからもやりたいことが沢山あるんだ」

 「クルミちゃんとしなよ」

 「お前がいなきゃだめなんだ」

 おれは彼女に恋をした。だから、頑張った。集中的に身体を鍛えたし、勉強だって真面目に取り組んだ。全ては彼女の横に立つためだけに。それでようやく、その資格を手にしたと思ってたのに、神様?ふざけんな。一生無理じゃねえか。でも、死ぬ思いで―――いや実際死んで、神様と話す機会を得たのだ。

 「私は神様だよ」

 「おれだって何度か死を体験したんだ」

 そして復活した(巻き戻った)。まるで神様だ。

 「でも、クルミちゃんがかわいそうだよ」

 「あいつはお前のことだって大好きなんだ」

 どうして、自分を勘定にいれない。お前は周りが見えてなさ過ぎる。

 「おれだって……」

 -伝えろ。でなければ後悔する。

 おれは息を整える。

 再び、教室に静寂が戻る。

 運動部のかけ声。

 管楽器の不協和音。

 「由衣のことが好きです」

 おれは初めて彼女の名前を口にした。

 「……私ここにいてもいいのかな」

 彼女は泣き出す。

 「いてもらわなきゃ困る」

 もし消えたとしても、おれが迎えに来させる。なんども飛び降りてやる。 

 由衣は泣き崩れる。崩れ、顔を隠した両手の隙間から腫れた目でおれを覗く。

 「私でいいの?」

 「君が好きなんだ」

 「……うん。私も」

 ようやく笑った。




 私立東川高校には神様がいる。

 神様は学生に扮して、彼等と共に青春を謳歌する。





         end

 

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「村方電波は神様である」 ぽこちん侍 @pokotinnzamurai

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