第18話

 村方天馬と山羊クルミは《東ライダー》の最終シーンをとっていた。

 「ライダーキー----ック!!!!!!!!!」

 天馬は木の上から斜めに置かれたスマートフォンに向って身体を"命”の形にして飛び降りる。

 「オッケー----でーーーーす!!!!!!」

 クルミが空中で彼を棒状の水泳用浮き輪で叩き落とす。インカメラから彼の姿が消える。スマートフォンにぶつかる前に地面に叩き落とされたのだ。

 「ごっふ!!!! おれのスマホは無事か?」

 「はい!!!撮影はこれにて終了です!!」

 「「終わったーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」

 バンザーイ、バンザーイと彼等は互いを称える。



 映像部の部室。

 天馬はソファーに座り、ノートパソコンと睨めっこをしていた。

 「天馬先輩好きです」

 クルミは彼の隣でパンフレットを作りながら言った。

 彼女の目線は紙に向けられている。作業中の息抜きのような無感動な口調だった。

 「知ってる」

 と、彼は言う。

 彼もまたなんでもないような言い方だ。

 こういう日常もいいのかも知れない。彼等が結ばれるのは運命なのだ。こうして、二人の恋は成就する。

 「……ごめん。好きな人がいるんだ」

 「はい。知ってました」

 ……?

 「何回目だと思ってるんだよ」

 「ほんとですよ。あの人感情で時間戻しちゃうんですから」

 「意外と感情的だからな」

 天馬は愛おしそうに言う。

 クルミは深く息を吸う。

 「あー!! 振られちゃいました」

 でも、すっきりした。とクルミは続けて言った。

 「私は言いましたよ!! 次は由衣先輩の番です」

 彼女は虚空に向って微笑む。

 「ところで、手はあるんですか?」

 「そりゃあ、死ぬ気で頑張るしかないだろ」

 「相手は神様ですからね」

 「ああ」

 



 村方天馬は屋上にいた。

 空は青く、その胸に入道雲を抱いている。

 ―――飛ぶにはうってつけの日だ。

 彼は屋上の隅に立ち、学校を一望する。

 「信じてるぜ」

 彼はそう言って、空中に一歩を踏み込む。

 地面は彼を無慈悲に受け止める。




 村方天馬は屋上にいた。

 空は青い。

 彼は屋上の隅に立つ。

 かつて味わった地面の-地球の装甲の固さが脳裏に浮かぶ。

 しかし、彼は空中に一歩を踏み込む。

 地面は彼を無慈悲に受け止める。

 


 村方天馬は屋上にいた。



 村方天馬は……



 村方天馬は……




 ……もうやめて。

 

  

 

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