第25話 人面

 通勤や通学、あるいは毎日の用事で道を歩いていると、時折奇妙な物が落ちていることがある。誰かの落とし物、風邪でどこから飛んできたなど、いろいろと事情がありそうだが、それらで説明がつかなさそうな代物が落ちていることもある。そういう場合は、近寄らないのが得だと思う。

 私が遭遇した中で最も奇妙な落し物は「お面」だった。雨の日で、買い物から帰ろうとしたのだが自転車にレインコートを積むのを忘れていたので、折り畳み傘を掲げながら自転車を押して帰る羽目になっていた。傘さし運転は危ないし、そもそも苦手だった。

 そうやってとぼとぼ歩いていると、道のど真ん中に変な物を見つけた。肌色の、直径が30㎝ほどの楕円形で、10㎝ほどこんもりと盛り上がってみた。近づくと、人間の顔だと気づいて飛びのきそうになったが、すぐにお面だと分かった。お面が顔面を上にして、地面に落ちている。お面といっても夏祭りの縁日で売っているようなちゃちいものではなく、かなりリアルな作りで、変装用のマスクといっても通りそうな代物だった。

 いったい誰が、どういうつもりでこんな物をと思って、よく見るために近づこうとした。そのとたん、お面が動いた。ゆっくりではなく、ゴキブリやネズミのように、地面を這うような動きだった。こちらが動きを止めると、お面はまた素早く動いた。こちらの動きをうかがうようにいったん止まり、すぐに動きを再開して、グレーチングの隙間から用水路へと落ちた。水音はせず、気を取り直した私がのぞき込むと、お面は影も形もなかった。


 世の中には妙なドッキリがあり、あの場合はお面の下にラジコンカーのようなものを仕込んで、こちらの様子を見ながら遠隔で動かしていたのだろうと思っている。今でも思いたい。

 お面が動く際に、眼を動かしてこちらを見たり、馬鹿にするように口元をゆがめたりしたのも、見間違えかギミックなのだろう。そうであるはずだ。

 妙な物を見かけたら、かかわらないのがいい。

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歪み 氷川省吾 @seigo-hikawa

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