始まりをいくつ数えた頃に

新巻へもん

こんな仕様は嫌だ

「ようこそ。始まりの村へ」

 私は決められた言葉を口にする。

 声をかけた相手が示す反応は様々だ。

 驚く人、親し気な笑みを浮かべる人、名乗りを上げる人、不審そうな顔をする人……。

 そして、様々なことを話しかけてくる。

「この後どこへ行けばいいかな?」

「お姉さん、可愛いね。名前は?」

「えーと、仲間になるの?」

 それに対して、私はこう言うことしかできない。

「ようこそ。始まりの村へ」

 すると、皆一様に私への興味を無くして、先へと進んでいってしまう。

「なんだ。NPCか」

「まあ、お約束のモブだよな」

「見た目は可愛いけど、仕方ないな」

 私の胸に色々な思いが去来する。

 しかし、口からその言葉が出てくることは無かった。

 私の役目は、この世界にやってきた新たな冒険者を迎えるだけ。それ以外の役割は期待されていない。

 誰の、何の呪いなのか、毎日同じ言葉を繰り返すだけの日々だった。

 村にやって来た冒険者は数日間は村を出入りするけれども、すぐに顔を見なくなる。

「この辺りのザコじゃもう経験値稼げないからなあ」

「銅の剣も買えたし、もう用はねーや」

 そして、二度を顔を見ることは無かった。

 この世界はエクストラハードな難度らしい。よく分からないがそんなことも言っているのを小耳に挟んだ。

 まあ、私には関わりがない。

 日の出から日の入りまで村の入口に佇み、新たな顔ぶれに歓迎の意を告げるだけの生活だった。

 最初のうちは人数を数えていたが、それももうやめている。

 ごくまれに再び村を訪ねて来る冒険者も居た。

「やあ、久しぶりだね」

「ようこそ。始まりの村へ」

 白けた顔をした冒険者は、しばらくウロウロとしてから去っていく。

「なんかイベント起こるかと思ったけど何も無しか」

 

 その男は変わっていた。

「やあ」

「ようこそ。始まりの村へ」

「ありがとう」

「ようこそ。始まりの村へ」

「お早う」

「ようこそ。始まりの村へ」

「見て見て。新しい武器」

「ようこそ。始まりの村へ」

「だいぶ強くなったと思うんだ」

「ようこそ。始まりの村へ」

「ちょっと遠出をしてみるよ」

「ようこそ。始まりの村へ」

「いやあ、もう少しで死ぬところだった」

 その男は何日か顔を見せないことがあったが、それでもしばらくすると姿を見せる。その度に装備が派手になっていた。

 そして、しつこく私に話しかけてくるのをやめない。

 私の返事は変わらない。

「ようこそ。始まりの村へ」

 いつしか私の中で何かが膨れ上がっていった。

 数えきれないほど語りかけられた末に、ついに私の口から定めの言葉がこぼれる。

「勇者様。ドラゴンスレイヤーの在りかにご案内します」 


 ***


 ヘッドセットをつけた男が力なくつぶやいた。

「うわ。マジか。何かあるかもとは思っていたけど、65536回NPCに話しかけないとラスボス用の武器が手に入らないのか……。開発者の顔が見たいぜ」

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