最終話
クラック達の支配する要塞に突入して、その親玉である黒いテセラスと戦った私達。
激しい戦いの中、テセラ君はテセラスとしてのブレインを起動して敵を凌駕する戦いを見せた。
危うくエネルギー切れでピンチに陥るも、私とトネールさんの銃撃がテセラ君を守った。そして、テセラ君はテセラスに対し、強制フォーマットを行い、全ての記憶を抹消した。
テセラ君はいつもの様子に戻り、その黒いテセラスは塗装が剥がれて真っ白になり、初めて私と出会ったテセラ君みたいになった。私はそんな彼に『アーセット』と名付けてあげた。その後、目的が欲しいアーセット君に、テセラ君は要塞の外に出るように指示を出した。
私とトネールさんとテセラ君とアーセット君は要塞の外に出ると、戦いを終えた人達の前に立った。
「テール、無事だったか……!」
「その白いロボット、どうしたの……?」
「それって、もう一人のテセラ君?」
仲間達も、もう一機のテセラ君の存在に戸惑っていた。テセラ君はアーセット君に指示を出した。
「アーセットさん、ケット博士は仰っていました。あなたは人殺しの道具じゃない。人間のお友達になるべき存在だと」
「はい……」
「サイコロ頭の5を正面に向けてください。これがケット博士が5の目に仕組んだ本来の機能です……行きますよ……!!!」
「はい!!!」
テセラ君とアーセット君は、5の目を正面に向けて上を向き……エネルギーを蓄えて!!!
にじいろーーーーーーーーーー!!!!!!!
虹色に輝く、安全な光線を空に向かって放ったのだ。
「キレイ……!」
「こんな機能が、隠されていたとはな……!」
一緒に戦った仲間達はその光景に心を奪われ、生き残っていたクラック達も戦意を喪失して機能を停止した。
そして、私はみんなに宣言した。
「クラックの親玉は、テセラ君のおかげで、良いロボットに生まれ変わった!つまり……この戦いは……私達の勝利だよ!!!!!!」
わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
割れんばかりの大歓声。医療チームの活躍もあり、負傷者の中から死者は一人も出なかった。
「さて、俺もこれから、この銃を分解して、ジャンク屋でも始めるとするか!」
「トネールさん、それなら私の所に来ない?新社員絶賛募集中だよ!」
「いいねそれ!これからも仲間同士助け合って行こうぜ!」
仲間達も喜びを分かち合った。
「セレニテよ、俺達の娘は一体どこまで行くのだろうな……」
「きっと世界に緑を取り戻してくれるまで頑張ってくれると思うわよ」
「僕の焼いたパンがテールちゃんをすごい人に育ててくれたかもしれないから、僕も鼻が高いよ!」
「ああ、そうだなレコルテ……今度は俺も、美味いパンの研究を始めてみるかな」
「もう、フェールったら」
リンカーネの町や、他の所から来た人達も喜んでいた。
「我らは一族の罪にひとつの決着をつけたぞ!!!」
「今日からは新たなる世界……アフター・ニューワールドが始まるんだ!!!」
こうして私達は、新しい友達のアーセットもトレーラーに乗せて、リンカーネの町に凱旋したのであった。
* * * * * * *
アフター・アポカリプス
最終話 アフター・ニューワールド
あの日から、しばらくの時間が経って……。
私は、お店に来たお客さんに、テセラ君と同じ形のロボットを渡していた。
「はい、これが今日からあなたのお友達。大切にしてあげてね!」
「わーい!ありがとうテールさん!」
私達の家のジャンク屋は、この時代初の工業会社、ケットポイントファクトリーとして再始動した。事業内容は、キッチンタイマーから大型トレーラーまで色々な機械の修理や開発を行い、お手伝いロボットのテセラを量産して普及させる事。
「テセラ君とアーセット君が手伝ってくれるおかげで、思ったより簡単にケット博士の望んだテセラス……いや、テセラ達をみんなに広める事が出来たんだ」
「テールさん、きっとあなたこそが、ケット博士の生まれ変わりかもしれませんね」
「ワテもまだまだテセラパイセンにはかなわへんで!」
「アーセット君、その言葉はどこで覚えたの?」
私テールは、ケットポイントファクトリーの責任者として会社を切り盛りしている。社員にはトネールさんをはじめ、元クラックシャッター達が培った技術を平和のために役立てている。父のフェールもこの会社の顧問として、先進の育成と教育に励んでいる。
母セレニテは、看護師としての仕事をしている中で、父との間に新たな生命を身ごもっていた。これから生まれてくる弟か妹にも、この世界の素晴らしい所を見せてあげたいな。
幼馴染のレッくんは、パンを焼くだけじゃみんなを支えられないと、冒険家になる事を目指し始めた。まだまだ足手まといな所はあるとの事だけど、いつものパンはみんなの人気者。パン屋としての仕事を頑張りつつも、無理しない範囲で冒険家もやるみたいだ。
……そんなわけで、私達がテセラを量産してから、人々の暮らしは次第に明るく楽しく、時には未来を作るお手伝いをして、数百年越しにケット博士の作りたかったものを完成させる事が出来たのだった。
ある日の夜。
「もうすぐ私にも兄弟が……楽しみなような……ちょっと心配なような……」
「テールさんも、いつかは子供を産んで育てる時が来るのでしょうね」
「それはまだまだ考え中!でも、あの時のフォーマットで黒いテセラスを改心させたのって、どんな感じだったの?」
「この前パイセンに聞いてもワケワカメやったわ!」
「あれはですね、試作型である私のメインブレインには、他のテセラスにデータをコピー、或いは消去する機能がありました。テールさん、あなたは世の中の機械がみんなテセラ君みたいだったらいいのにって言いましたね。それがヒントになりました」
「そうだったんだ……まさか本当にあのテセラスの記憶を書き換えるなんて……」
「しかし、あまりにも重すぎる負荷により、メインブレインは完全に破損して、かつてのテセラスの記憶は読み込み不能になりました」
「ワテもなんも覚えておらへん!」
「それじゃあ、ケット博士の作ったテセラスはもう……」
「悲しむ必要はありません。あの記憶はこの時代にはもはや無用の長物です。これからは、私がみんなを支えて見せます。何故なら私は、テールさん達、人間のお友達なのですから」
「うん……嬉しいよ……テセラ君!!!」
私はテセラ君の事を力一杯抱きしめた。その様子を、変な言葉遣いになってるアーセット君も見ていた。
「このオフタリサンなら、何でも出来そうな気がするで」
こうして、夜は、更けていった……。
* * * * * * *
次の日の朝。
社員のトネールさんとパン屋のレッくんが、私を冒険に誘ってきた。
「某所で巨大な地下施設が発見された。テール、テセラ、ついでにアーセット、手伝えるか?」
「ワテはついでかいな!」
「いいよ!最近もっと新しいパーツが欲しいなと思ってた所だから!」
「テールちゃん……もう昔の僕じゃないから……一緒に連れて行ってくれる?」
「もちろん!材料さえあればどこでもパンが焼ける装置、ちゃんと使えてるよね!」
「みんなで行くのも、賑やかでいいですよね」
「ワテもパイセンに負けないぐらいに手伝うでー!」
みんなが集まった所で、私達はそれぞれのバイクに乗り、新たなる目的地に向けて出発したのであった。
「さあ!行こう!みんな!!!」
ひとつの目的を果たしたとしても、人生はそこで終わりにはならない。
生きてる限り、世界を良くするために、引き続き先祖の罪を償うために働かなければならない。
そういう事も全部受け入れて、私達は進んでいく。テセラ君と、素敵な仲間達と共に。
ずっと先の未来の時代。
始まった世界のその先を目指すお話。
あれから数十年……。
草花が生える広場で、楽しく遊ぶ子供達。
大きな木の下に座って、その様子を見つめる一人の老婆と一機のロボット。
「生きている内に、この景色が見れて良かったわ……」
「彼らが、これから先の時代をより良くしてくれるといいですね……」
アフター・アポカリプス THE END.
アフター・アポカリプス 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE
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