4月は嘘。

深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化!

一日

「ねえ?」


彼女は結露したアイスティーのグラス越しに僕に笑いかけた。


意地悪そうな小さな瞳に僕はどうしようもなくやられてしまう。


「どうしたの?」


僕は彼女に続きを促した。彼女は何時だってそれを待っている。


「今日は何の日か知ってる?」


口角をニッとあげて彼女が笑った。頬杖をついて笑う彼女の向こうでは、散りかけた桜が春の陽射を浴びてカーテンコールに応えていた。


刹那的で二度と手に入ることのない、散り際の桜が放つ美しささえ彼女の前では演出の一部になってしまう。


「エイプリルフール」


僕は少し身構えて言った。


彼女は頬杖をやめて真っ直ぐに僕の方を見た。


「君のことが大好きだよ。でも私の余命はあと僅かなんだ…」


彼女は真剣な眼差しで僕を見つめて最後にこう付け加える。


「どっちが嘘がいい…?」



彼女の後ろでは強い春風が吹いて桜の花びらを散らしていた。

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