カーニヴァルかもね 🧬

上月くるを

カーニヴァルかもね 🧬





 連載三本、単発掌編一本のアップを待っていたかのように卓のスマホがふるえた。

 過去の画像を勝手に掘り出して来るアプリ、ほんと余計なお世話なんだけど……。


 だれの考案か知らないけど、思い出は楽しいと決めつけているなら、軽いよね頭。

 削除したつもりの指があやまり、数年前の今日の画像が連続して表示され始めた。



 ――アプリから飛び出すあの日春の暁 (#^.^#)



 あら、意外といいじゃん、これ。読みさしの本に「生きて笑って」とあったけど、そこにひと匙のトッピングを加えたい「生きて泣いて笑って!!」これだよ、これ。




      🪟




 打ち明ければ、この歳にしてなお、自分が放った泣き声で飛び起きる夜半がある。

 たいてい子どもたちが小さかったころに植えつけられた強迫観念によるもの……。


 たとえば今朝方の夢は、ポンコツ車で夜道を走っていて、アクセルを踏めども踏めども県境に着かない絶望的な情景で、さびしい家で待つ幼い姉妹を思って号泣した。


 心臓のドキドキを鎮めようとラジオをつけると甘いハスキーヴォイスが流れ出た。

 いしだあゆみさん『ブルー・ライト・ヨコハマ』🎶 まぶたを枕に押しつける。


 思えば、あの切なさがあってこその数年前の笑顔であり、その先の現在でもある。

 幸せばかりの人生なんて単純で、彩りに欠け、存外つまらないかも知れないよね。




      🧱




 早く起きてしまった朝は、少し遠いけど七時開店の名古屋式カフェへ行くに限る。

 せっかく持ち直しかけたモードが再び沈みこむ前に、さっさと行動して車に乗る。


 駅裏のホテルの前の太鼓橋のような跨線橋を渡りかけたとき、あっと息を呑んだ。

 見慣れたレンガ造りの屋根の親子の風見馬の向きが南北から東西に変わっている。


 撤退したと見てよさそうだね、冬将軍、半年後には、ふたたび来るにしても……。

 橋の前で左折すると視界が薄紅に、五分咲きの桜並木は山麓の桃源郷へとつづく。



  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



 *かなり以前に下書きしておいたものなので、季節が少々逆もどり……。🌸🙇




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